過去数年のドル安でユーロ、ポンドは割高。
アジア通貨には上昇の余地あり!?
通貨の現状の位置づけとバランスを考えてみるために、下の図を見ていただきたいと思います。
これは2002年の冒頭での対ドル相場を100として、様々な通貨がどのように推移してきたのかを表したグラフです。下に振れるほどドル安で、それぞれの通貨が強くなったということを示しています。
円相場は2004~05年辺りからアメリカの景気が上向き、金利が上がるにしたがって円安ドル高に動いています。ドルの取引シェアは落ちてきましたが、円は依然としてアメリカの景気循環、それを受けたドルの循環の受け皿として動いている面が色濃く出ています。
他の通貨の線が全体的に右下がりになっているのは、ドルがこの期間を通じて基調的に売られてきたことを示しています。
ただし、このドル下落の最中にアメリカの株価は史上最高値を更新し、債券価格も金融引き締め下にあってなお底固さを維持していました。昔ならドルが売られると米国の株も債券も売られ、「トリプル安」などと騒がれたものです。ドル安が持続して、「ドル離れ論」をよく耳にしますが、ドル資産が見放されたわけではないことに注意してください。
その背景要因の一つは、ドル一極だった国際投資をいろいろな形で分散できるようになったということでしょう。第1に、ドルと肩を並べる通貨としてユーロが誕生し、ここ数年ユーロ圏経済がようやくしっかりしてきたことで、ユーロおよびユーロ圏の資産が分散投資の対象として認知されるようになりました。
第2に、アジアなどの新興諸国が台頭し、これらも投資対象として信認されるようになってきたことが挙げられます。さらに新興国経済の拡大で資源価格が上がり続け、資源輸出国の豪ドルも投資対象としての信認を高めています。
以上のことから分かるのは、これまで国際投資でドル資産を70%持っていたような投資家が、他の資産の保有割合を増やしたためにドル資産の割合が低下してドル安になったということです。つまり米国の資産が信認を失って嫌われたというよりも、他が浮上して「フラット化」が進んだ結果だということになります。そのことを裏付けるように、世界的なカネ余り環境の中でドル資産も粛々と買われて、その価格もしっかりしていました。
再確認しますと、単純にドル離れというよりも、ある意味では世界経済がフラット化・平準化していく中で、今までドル一極集中だったものが見直されつつあるということです。
このことを踏まえつつ、初めの図でいろいろな通貨のバランスを見てみましょう。まず中国やアジアがブームのように言われてきましたが、人民元の強さ、上昇の程度は控えめなものです。
またオレンジの線で表されている他のアジア通貨も、貿易関係上人民元に引き離されるわけにはいかず、金融政策、為替介入、資本規制などを駆使して、上昇を抑制しています。ですから「アジア、アジア」と騒がれている割に、通貨はそれほど高くなっていません。
したがって、ドル売りの相手方として、アジアを買う妙味が出にくい分、ポンドやユーロが買われて割高になったという面もあります。結果的にポンドやユーロは、ドルに対してすでにかなり過大評価されています。
今年は、米国で景気が悪化して、金利が下がり、ドルが安くなりがちな局面です。しかし他方で、米経済に続いて、イギリスやユーロ圏の景気も減速し、金利が下がる場面になると、ポンドやユーロの割高分はそれなりに調整反落しやすくなります。
しかし世界経済・アメリカ経済が底割れを回避できる程度に踏みとどまれば、アジアの景気は総じてしっかり目で、これまで出遅れているアジア通貨にはまだ強くなっていく余地があります。
ドル安の景気循環局面の中でも、ポンドやユーロなど先進国通貨間ではドルは逆に持ち直す可能性があり、アジア通貨は堅調を持続する、そういう形でバランスが見直されていくことが想定されます。
円から見ると、まずはドル安・円高。その後、主要通貨間でドルが失地回復する中でドル・円も落ち着くかもしれませんが、ユーロやポンドに対する円買い戻しが円高圧力としてくすぶるでしょう。またアジア通貨高の一環で円高になっているような見方も巷に出てくる可能性があります。
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