ドルペッグとインフレのコントロールとの関係性とは?
世界各国の通貨の大きな流れの中で捉えてみたいと思います。
このグラフは2002年初めの対ドル相場を100として、いろいろな通貨がどう推移してきたか、を示しています。
下に行くほどドル安です。ご覧の通りほとんどの通貨が基調的にドルに対して強くなってきました。
中でもユーロと豪ドルの強さが目立っています。実は、豪ドルの強さは資源高によって説明ができます。
しかしユーロは、景気や金利が相対的にしっかりしているからといって、それで豪ドルに負けず劣らずの強さであるというのは、相当の割高になっていると考えられます。二大通貨の一方として、ドル安の代替先として買われている面もあります。
今回の米経済・金融問題の悪影響で、英国では経済が減速し、金利も少し下がりました。ポンドはこの状況で割高すぎる分の一部を下落させました。
ユーロも年末までには金利の引き下げがありうると見ています。その場合、ポンドと同様に割高すぎる分の一部が下がることになるでしょう。
豪ドルも、米国、英国、ユーロ圏と景気減速が広がり、資源価格が下がる展開になれば、下がる可能性が出てきます。
ここ数年、新興国ブーム、アジア・ブームのように言われて、人民元やその他アジア通貨の多くが相当に上昇しているように思っていたかもしれません。しかしグラフが示す通り、たいして上がってはいません。
人民元は割安水準に人為的にコントロールされ、その分経常黒字も蓄積されてきました。海外情勢の悪化ばかりか、中国の株価が半分以下に下落するなど国内経済・市況が悪化しても、人民元がジリジリと高くなりやすいのは、巨額の黒字を蓄積してきた日本の円と似た構図になっているともいえます。
もっとも人民元の過去1年を振り返ると、上昇ペースが少し加速しています。
なぜでしょうか。ドルに準ペッグ(=連動)させている人民元は、ドル安局面では通貨市場全体の中で割安になってしまいます。
ドル安局面は通常、米国経済の悪化とともに米金利が下がりますが、中国は為替レートの上昇圧力を抑えるために、金利を低くとどめようとします。
景気は過熱気味なのに、通貨は安く、金利は低いとなると、インフレ圧力が高まります。インフレ抑制のためには、通貨の上昇ペースの加速を多少許容せざるをえなくなった、といわけです。
香港とか中東などドルに完全に通貨をペッグさせていると、通貨安、低金利が一層極端になり、インフレのコントロールが更に難しくなります。
ただし中国は、今後世界経済が減速し、輸出が鈍化することで、国内景気が鈍化すると見られます。それとともに為替コントロールの軸足をインフレから成長重視へシフトさせるでしょう。おそらく今年の後半以降、中国当局は、人民元の上昇ペースを過去1年の8~9%から5%程度へ落とすと見ています。
相対的に強かったユーロや豪ドルが反落し、割安な人民元はペースを落としつつもじり高に推移するというのが、来年にかけての見通しです。この図が示すような、ここ数年の通貨間のアンバランスが、多少なりとも是正されるイメージです。
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