世界経済減速の根本的な原因は、サブプライム問題よりも原油高
4日、経済協力開発機構(OECD)は、世界経済見通しを公表しました。日米欧など加盟30カ国の2008年の実質経済成長率を1.8%と、昨年12月時点の前回予測(2.3%)から下方修正。当面は景気減速とインフレが同時進行するとの見方を示しています。
それでは下のグラフをみてください。
2008年主要国・地域のGDP成長率の見通しによると、押し並べて2007年に比べて2008年の見通しは低い水準です。また、OECD全体の成長率も1.8%と低水準になっています。日本、米国はそれをさらに下回るという見通しです。
一方、2008年主要国・地域のインフレ率の見通しでは、トップのロシアは10%を越えるインフレ率が予想されています。日本は、2007年0.1%から2008年は0.9%という見通しになっていますが、これでもデフレ脱却宣言はしないという状況です。
このような世界経済の見通しについて、とりあえずサブプライムの問題を指摘する人が多いのですが、今回の分析を見て私が改めて感じるのは、元凶は「原油高」だということです。物価高、石油高、そこから直接的あるいは間接的に波及した農産物などの高騰という流れを見れば、これは明らかだと思います。
元凶たる原油高への対策として、原子力や太陽エネルギーなどの代替エネルギーの開発によって対応しようという動きが見られます。しかし、TIME誌の記事によると米国の代替エネルギーへの開発費用というのは、わずか3,200億円に過ぎないと指摘されています。3,200億円という金額は、米軍がイラクにおいてたった40時間で費やしてしまう金額と同じだと言うのです。
米国は原油を求めてイラクと争って危機に陥ったわけですが、この事実を知るといかに的外れな戦略であったかということが分かります。このような状況に対してブッシュ大統領は、どのように言い訳できるでしょうか。米国が本当に原油に悩んでいるというなら、もっと真剣に原油問題に対する解決策を考えるべきだと思います。
また、代替エネルギーの可能性を考えるだけでなく、原油問題のネックがどこにあるのか、もう一度見直してみるのも良いと思います。原油問題には、様々なネックがあります。その中でも私が重要だと感じるのは、生産国が思ったように生産できる体制が確立できていないという点です。
代替エネルギーの研究も重要でしょうが、原油を生産してから消費地まで運ぶ流れの中にある1つ1つのネックを解消するためにお金を使った方が、より効率的に今抱えている原油問題を解決できるのではないかと思います。
●原油高問題を考える上で重要となる3つのポイントとは?
TIME誌以外にも、ニューズウィーク誌やビジネスウィーク誌など、最近では米国のあらゆる雑誌で原油高についての分析記事を見ることが多くなりました。私もいくつかの雑誌記事を読んでみましたが、結論として今の原油高の根本的な問題となっているのは、次の3点だと分かります。それは、「実需が伴っていないこと」「資金の行き場がなく投機資金が流れ込んでいること」「今後の展開は専門家でも予想しづらい状況にあること」という3つです。
TIME誌に掲載されていた5人の識者の意見でも、今後の原油価格は「このままの勢いなら1バレル500ドルまで上がる」という人もいれば、逆に「実需から考えれば1バレル70ドルくらいまで下がる」という人までいて、5人がバラバラの展開を予想しています。識者と言われるプロの目で見ても、これだけ意見が別れるというのは珍しいことでしょう。
このような状況になってしまうのは、原油に投機資金が入り込んできているため、実需から離れて、ヘッジファンドやインベストメントバンクの思惑によって価格が推移するためです。そもそも、他に投機資金を流せる場所があれば問題は解決するのですが、そういう意味ではサブプライム問題の影響が大きいと言えます。
サブプライム問題によって、世界の株式市場で値が上がらない状況が続いています。ヘッジファンドやインベストメントバンクにとって見れば、株式市場が「美味しくない」状況なので、コモディティ市場を狙って行くという思考です。
このように投機家の資金の行き場がなくなっていること、そして、世界全体として金余りの状態になっていることが、抜本的な意味における原油高の原因を作っているのです。その結果、供給は下がっているのに原油価格は上昇するという矛盾を生み、かつ原油生産のシステム全体も効率的に機能していないため、いざ生産しなければならない状況になっても、すぐには生産できないといった悪循環に陥ってしまっているのだと思います。
ロシアなども、まだまだ原油を生産できると言いつつもなかなか実現しないのは、根本的にこのような構造の中に組み込まれているために、原油生産体制におけるネック部分を解消できていないからです。
ロシアのメドベーチェフ氏はこの点を理解しているのでしょう。先日行われたメドベーチェフ氏の演説では、国家の威信をかけてこの問題を解決すると述べていました。石油会社に免税を認め、その分の予算を使って生産から消費までの一連の生産体制の見直しを図ってもらいたいとのことでした。
世界経済の見通しとして、とりあえずサブプライム問題という発想ではなく、より抜本的な問題は何かという点を見落とさず、原油問題の解決に努めることが大切だと思います。色々な分析や見方はありますが、結局、問題の本質はシンプルです。本質的問題の発見は、あらゆる問題解決の第1歩であり、その重要性を改めて理解していただきたいと思います。
|