緊急権限を求めるほどに、米国経済はシリアスな状況だと見るべき
米国のポールソン財務長官が欧州やロシアを歴訪し、各国当局者と政策調整を急いでいるとのことです。これは、米国と欧州の(政策)金利差が広がりつつある現状に対する危機感が背景にあるものと思われます。また、同財務長官は金融システム不安に対処するため当局に「緊急権限」を与える意向も表明しました。
「緊急権限」という特別な権限を与えることに対する危険性を指摘する人もいるかもしれませんが、ポールソン財務長官であれば、おそらく他の誰よりも「適切に判断する能力がある」と私はみています。
ただ、今回、私が注目したいのは、「緊急権限」発動の是非ではなく、米金融業界の大ベテランであるポールソン財務長官ほどの人物が「緊急権限」を言い出さなければならない状況に「米国経済が追い込まれている」という事実です。このポールソン財務長官の対応から、今の米国経済の置かれている状況が相当シリアスな局面を迎えているのだと感じます。
先日もFRBや連銀が議会の承認を得ることなく、サブプライム問題によって窮地に追い込まれた米大手証券ベア・スターンズ の救済に乗り出すという緊急対応を行いました。おそらく、このケースと同様、議会を通じて制度を作るという通常の手順を踏んでいては間に合わないような事態が、さらに起こりつつあるのか、あるいは、今後もそういう局面が起こる可能性が高いのだと思います。
そして万一、米国経済が、今よりもさらに深刻な局面を迎えた時には、いち早く対応手段を講じることができるように、誰に相談することもなく、一昼夜で政策決定が出来るという自由度をもった権限が必要だというのが、今回のポールソン財務長官による「緊急権限」が意味するところだと思います。私が知る限り、近年、米経済界がここまで追い込まれている状況は記憶にありません。
●米ポールソン財務長官が恐れているのは、欧州への資金流出
先進各国の政策金利の推移を見てみると、07年~08年にかけて、FRBの金利が5%から2%へと下がっている中、ECBが2%から4.25%へと引き上げられ、またBOEが5%をキープし、欧州が堅調な推移をしているのが分かります。
この状況において、ポールソン財務長官が危機感を感じているのは、米国金利が急落しているという事実そのものよりも、米国と欧州の金利差が拡大することで、米国内の資金が欧州に流れてしまう可能性だと思います。つまり、このまま金利差が拡大してしまうと、これまでに例がないほどのドル安ユーロ高になる可能性があります。そして、その結果としてドル安で低金利の米国からユーロ高で高金利の欧州へと多額の資金が流出してしまうというわけです。
確かに、今回の米国政策金利の急落ぶりには目をみはるものがありますが、同程度に米国金利が急落するという経験は過去にも体験しています。2001年に6%を超えて上昇していた米国金利は、2001年のITバブルの崩壊を契機に2004年には1%台まで下落したことがあります。ですから、今回米国金利が2%まで下がったとは言っても、未曾有の低水準というわけではありません。
今回のポールソン財務長官による「緊急権限」発動という背景には、こうした欧州と米国経済との関係性があるという点を理解するべきです。単に、米国金利が急落したという表面的な事象だけを見ていても本当に意味するところが分かりません。
深刻な局面を迎えている米国経済ですが、私に言わせれば、それでも完全に世界経済から孤立し、一人蚊帳の外状態になっている日本経済に比べれば「マシ」だと感じます。米国金利どころではなく、日本の金利は最近上昇したといっても0.5%という低水準で、この10年間一貫して地をはいつくばったままです。完全に世界経済から取り残されている感が拭えません。
とはいえ、米国経済は厳しい状態になってきていると考えられ、しかも、段々と深刻な状況になってきたという段階だと私は見ています。
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