この原油価格の下落から何を学び取るか?
先月29日午前のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で原油先物相場は大幅反落。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で期近の9月物は一時、前日比4.31ドル安の1バレル120.42ドルと、5月上旬以来の安値を付けました。
今回これほど急激に原油価格の下落を招いたのは、今の原油価格が実需によるものではなく、ヘッジファンドなどによる投機資金によって動かされていることに起因していると私は見ています。
サブプライムの影響もあり、ヘッジファンドなどは他に投資する先が見当たらないため、昨年夏以降こぞって原油への投資へと乗り出しました。結果として、昨年夏には60ドル~70ドル/バレルで高値をつけたと言われていた原油価格は、2008年直近では140ドル/バレルを突破するほどに急激に高騰することになりました。
実需に応じて原油価格が上がるという正当なメカニズムによるものではありませんから、どこかの段階で限界に達して、値段が下落するのは当然のことです。どこが高値になるかは専門家でも意見が別れるところですが、私としては140ドル/バレルを長期間維持するのは難しく、そろそろ下落を始めてもおかしくないと思っていた頃でした。
というのは、1バレル当たりの原油価格が140ドルを超えて、150ドル・160ドルと上がってしまうと、代替燃料への乗り換えが起こる、あるいは原油の使用そのものを控えるようになるからです。
今回の原油価格の急激な下落で大きな損失を計上しているヘッジファンドなどもいるでしょう。今後の手仕舞いの方法やタイミングに頭を悩ませているかも知れません。しかし、ここ数年の原油価格・WTI先物の推移を見ると分かるとおり、20ドルという下落幅は、昨年から今年にかけての急激な上昇幅を考えると、特別に大きな数字ではありません。むしろ、20ドルの下落でもまだ不十分だと言えるくらいです。
昨年から急激な上昇を続ける原油価格は、未来永劫上昇し続けるかのごとく考えていた人は、今回の下落によって目が覚めたかも知れません。500ドル/バレルまで上昇すると主張していた人もいるようですが、その事態がどれほどリスキーかつ非現実的かということが分かったのではないでしょうか。
また、数十年に渡って、石油の代替燃料を阻止してきたOPEC(石油輸出国機構)にとっても、確かな気づきがあったでしょう。それは、さすがにここまで原油価格が高騰してしまうと、一気に代替燃料へとシフトすることにつながり、原油価格の高騰が必ずしも「OPECの利益になるわけではない」ということです。
●原油価格の今後の展開は?
今後、原油価格が「どこまでも上昇していく」と考えるのは、あまりにも能天気に過ぎるというものですが、「いくらの値段が適当なのか」という判断は非常に難しいところです。TIME誌に掲載されていた5人の識者による原油価格の予測を見ても、200ドルから500ドル/バレルに上がるだろうという人もいれば、70ドルから80ドル/バレルで落ち着くという人もいます。識者の予測としては、極めてブレ幅が大きく、とても「予測できている」とは言えない状況です。
代替燃料が大きくクローズアップされてきていますから、原油と代替燃料とのバランス関係によって、腹の探り合いのような状況が続くのではないかと私は思っています。それによっては、現状は空前絶後の高値になっているとは言え、急激には価格は下落せず、徐々に下がっていくような展開を見せることも考えられるでしょう。また、今回の原油価格の下落で大きな損失を被った一部のヘッジファンドなどが、今後、どのような動きを見せるのか、非常に気になるところです。
ただ、より興味深いのは、原油価格が最終的にいくらの値段になったとしても、社会はそれに適合するように変質していくという点です。8月4日号のビジネスウィーク誌の記事に「SHOULD OIL BE CHEAP?(オイルは安くあるべきか?)」というものがありました。この論文では、原油価格が高いことのダメージは当然のことながら大きいが、それでも値段が高いなら高いで、また別の新しいビジネスが出現してくるものなのだと指摘しています。
こうした広い視野を持てるようになると、原油価格の高騰/下落で一喜一憂することもなくなるでしょう。一流のビジネスパーソンとしては、このような大きな視野を持ち、そしてビジネスセンスを磨き続けてもらいたいと感じます。
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