ブラックマンデーよりも深刻な事態だ
米国では金融不安が収まらないなかで、雇用の悪化が鮮明になってきました。日本、欧州の景気も失速、中国やインドの成長率も減速し始めています。世界同時株安と長期金利低下、原油など商品の下落という「新たな3低」は、市場が不況の影に身構えだしたとの指摘もあります。
世界同時株安と聞くと1987年のブラックマンデーを想起される人もいると思いますが、今回の事態は、ブラックマンデー時の状況とはかなり違います。
ブラックマンデーの時は世界同時株安とは言え、見方によっては日本が一人舞い上がっていただけでした。取り立てて不況に陥る「構造的あるいは実需的な」理由があったわけではありません。一人舞い上がりすぎた日本経済の修正を一気に行った結果、あのような世界同時株安という調整になったということだと思います。
しかし、今回の事態は違います。ひと言で言えば、物理的に不況の原因があり、それが世界経済を巻き込んでいるのです。過剰流動性を作り出したバブル経済が行き着くところまで達し、米国経済の住宅需要が生み出したサブプラムという毒が「実需」としての世界経済に影響を及ぼしています。住宅ローンが小口債権化され、それを世界経済が飲み込んでしまったのです。
当初サブプライムとして返済できない金額は数十兆円と言われていましたが、サブプラムはまるでメタミドホスのごとく正常な金融商品を毒漬けにしてしまい、その総額は300兆円規模に膨らんでしまいました。
結局、ファニー・メイ、リーマン・ブラザーズという米大手金融機関を破綻に追い込む事態にまで発展してしまいましたが、サブプライム部分だけの問題ならここまで大事にはならなかったと思います。
サブプライムという毒が、みじん切りのように細かくなって正常な金融商品の中に紛れ込んでしまい、実態経済にまで影響を与えているという構造がブラックマンデーとの違いであり、致命的な事態を引き起こしているのだと私は見ています。
不況反転の鍵は、世界経済に「新しいストーリー」を描くこと
今後はブラックマンデーより深刻な世界同時株安、そして不動産価格の下落といった状況に陥ることは必至です。そしてすでにその予兆は見え始めています。
世界中で最も盛況だった中国・上海市場の株価は今年に入ってから50%以上の下落を記録していて、ドイツ・日本・米国も、20%以上の下落幅になっています。
また実質GDP成長率を見ても、世界中のほとんどの国が大きく落ち込んでおり、成長率1%~2%という低水準になる見込みです。堅調だと言われていた欧州においても、この兆候は見られます。欧州の中でも特に調子が良かったスペインでさえも、ここに来て急激に成長が減速しているのが分かります。もはや欧州も安全圏とは呼べません。そして日本にいたっては「0(ゼロ)成長」に転じてもおかしくない状況になっています。
9月1日号のニューズウィーク誌でエル・イーリアン氏が述べていたように「アフリカ」の国の中には成長の兆しが見え始めている国があるようですが、世界全体としてみれば「総崩れ」だと言えます。米国・日本のみらならず、欧州、そしてBRICs(ブリックス)の国々も軒並み厳しい状況です。
世界経済は株安・金利低下・商品下落という「トリプル安」の状態になっていますが、これからさらに不動産の下落も必至という状況です。今後の展開も目が離せません。
ただ、私はこの状況においても「反転」する可能性はあると考えています。今回の状況を1929年の世界大恐慌と比較して論じている人もいるようですが、あのときのように15年もの長期間にわたって不況が続くことはないと思います。当時は、世界経済全体として健全な部分がなくなってしまい、世界の失業率が2割を超えたという非常事態でした。
確かに今回の経済不況も深刻なものではありますが、まだお金そのものは余っている状態です。また、世界経済全体の中には健全なセグメントも残されています。ここを利用するべく、世界経済の中に「新しいストーリー」を吹き込むことが、この不況を乗り越える突破口になると思います。
例えば、ロシアと欧州で力をあわせて「大ヨーロッパ」というような大きな経済圏の確立に向けて動き出してくれれば、かなり面白いと思います。
不況の源になった米国では大統領選挙の影響もあり、世界経済に大きなインパクトを与えるような「新しいストーリー」を描くエネルギーそのものが不足しているように感じます。この経済不況を乗り切るためには、米国以外の国に期待したいところです。世界経済に新しい風を吹き込むような「新しいストーリー」を描くことできれば、この経済不況を反転させることができると私は思っています。
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