9月のリーマン・ブラザーズショックから約1か月半が経過しました。その過程で私たちが経験したのは、「大恐慌」。
10月に入ってからの株価暴落は、そのスピード、規模をとってみても、"100年に一度の惨事"とみることができるでしょう。では、その100年前の惨事とは。私たちが思い出すのは、1929年の大恐慌、ということになると思います。
10月の最終週には、売られすぎの反動から大きく反発することとなりましたが、仮に"今回の暴落が大恐慌と同じである"なら、私たちは真っ先に現金化しなければなりません。その答えは、下記2つのチャートが物語っています。
大恐慌と呼ばれるタイミング(29年)から株価は大きく下落、32年には下落後の安値から、なんと5分の1にまで下落してしまっているのです。
このタイミングと同じであれば、これだけの安値になっても、それでも"現金化"しなければならない、ということになります。日経平均株価でいえば、これからまだ半分になってもおかしくはない、ということになってしまうからです。
こうした過去の経験を踏まえて、いま私たちが考えなければならないことは一体何でしょうか。それは「1)なぜ、大恐慌は長引いたのか」「2)33年初に反発した理由は何か」という2点に集約されることになります。
まず、「1)なぜ、大恐慌は長引いたのか」という点に関して、事実を確認する必要があります。その時点のことを経験している投資家はまず皆無であり、どうしても書籍や文献に頼ることになってしまいますが、なかでも秀逸なのが、「バブル論」の大家、ジョン・ケネス・ガルブレイス博士が書かれた「大恐慌1929」(日経BP刊)でしょう。
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P.232 第7章/暴落後の日々より
●こうした事態に立ち至るまでには、景気づけの気休め発言がさんざん行なわれている。大暴落の直後には、フーバー大統領は「個人的な経験によれば、(中略)経済が混乱しているときに言葉はたいして役に立たないものである」と賢い発言をしていたのだが、どうもその後にこの不変の真理を忘れてしまったらしい。29年12月には、政府のとった措置により「景気信頼感は回復した」と議会で述べた。翌30年3月には、政府高官が次々に楽観的な見解を披露したのに続き、大暴落に伴う雇用への悪影響は2ヶ月以内に収まるとの見通しを示している。さらに同年5月には、「いまや最悪の時期は過ぎた。今後の一層の協力により、景気は速やかに回復する」と発言。5月末には、経済活動は秋までに正常化すると断言した。
P.288~289 第9章/原因と結果
●1920年代後半の銀行というものは、その後のアメリカ人の語り草になっている。(中略)こうした次第で、1929年に銀行家が桁外れに無能だったということはない。ただし、銀行システムには欠陥が内在していた。まず、経営基盤が脆弱な銀行が多数存在した。ひとつの銀行が破綻すると、預金者があちこちで不安に駆られて取り付き騒ぎを起こすため、他行の預金も凍結された。それでも破綻が破綻を呼び、ドミノ現象が広がる。好景気のときでさえ、局地的な出来事や小さな銀行の不運が引き金になって、簡単にそうした連鎖反応が起きる危険性があった。(中略)銀行倒産はたちどころに野火のように拡がる。29年以降に起きたのは、これだった。(中略)そして銀行システムが破綻の連鎖を起こすと、当然ながら預金者の消費支出や取引企業の投資は大幅に縮小した。
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つまり、楽観論が蔓延していたため、問題点が放置され、傷が深くなった、という流れだったのです。
では、「2)33年初に反発した理由は何か」という点は何だったのか。
その答えは、"公的資金投入"というキーワードになります。当局の楽観姿勢とは裏腹に、実体経済は大きく悪化、最終的には銀行の連鎖倒産という事態に陥ったのです。その連鎖を止めたのが、当局による公的資金投入の決断。棄損した自己資本を厚くする一方、経済の血流である金融システムを防ぐためにはどうしても避けて通ることができない決断だったのです。
当初は受け入れに消極的だった銀行。それもそのはず。資本を受け入れるということはそれだけ「財務体力がない」ということを内外に知らしめてしまうことになるから。このことも反転を遅らせる一因でした。
しかし、経済の悪化をなんとしてでも食い止めなければならない当局としては、当時財務体力が最も堅固であったモルガン銀行に、半ば強引に資本を注入し打開を図ったのです。最も"倒産しそうにない銀行"が資本を受け入れるのであれば、下位行が受け入れるとしても「大丈夫ではないか」ということです。
その結果、株式市場は反発に転じたのです。
そう考えていくと、現在は、「1)状況に対して悲観的」であり、「2)公的資金投入による枠組みも決定」していることから、大恐慌のように株価がどんどん下落していくという事態は「考えにくい」というのが過去の歴史を振り返ることで見えてくる未来図になるのではないでしょうか。
次回後編は、この問題を掘り下げ、より確固とした未来予想図を組み立てていきたいと考えています。
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