この金融恐慌の"戦犯"は、本当に金融株なのか?
現状、確かに「1929年の大恐慌で問題になった」ことは解決されようとしています。
ところが、「成長著しく投資対象となっていたBRICsの株価が、今、非常に大きく下がっている」という、新たな火種が発生しています。
確かに新興国は経済成長も高く、人口も多く、ほんの数カ月前までは、彼らが世界の経済を支えるとまで言われていました。
では何故株価が下がっているのでしょうか?
それはEMBを見ると判ります。
EMBとは、新興国の国債に投資をする「ドル建てのEmerging Markets Bond」のことです。
国債は非常に単純なもので、例えば100という数字が、5年後、10年後などある期間を経て、また100で返ってくるという仕組みです。
例えば、私が日本国だとして「国債を発行する」というのは借金です。投資家から考えれば、お金を渡すことによってクーポン(利回り)がもらえることになります。
国なので、その国の中でいえば、「つぶれる心配が一番少ない」のですから、「国には安心して投資することができる」ということになります。
この新興国の国債も同じです。
新興国が国債を発行し、投資家からお金をもらう。
国としては借金、投資家としては投資です。
しかし、もし国が破綻してしまうと判ったら、お金を出すでしょうか?
出しませんよね。
下のEMBをご覧ください。
ずっと100で推移していたのですが、7月に"わずかに"100を割っています。
私も10月を経験するまで、これに気がつきませんでした。
この「わずかに」というのが、非常に重要なポイントです。
国債は本来、100という数字がある期間を経てまた100で返ってくる。
その間、元本があり、それに対して配当利回りというクーポンがもらえるから安心して投資をするという仕組みです。
しかし、「元本を割った」ということは、新興国の国債の中に「デフォルト(債務不履行)」、つまり「国として破綻するリスクがある」と投資家が判断したということです。
7月にその判断があり、9月、10月10日にとんでもない下がり方をしています。
ちょうど1回目の下落の時が、リーマンブラザーズ・ショックです。
この時点では、まだそれほど落ち込んでいませんでした。
ところがリーマンブラザーズ・ショックの後、10月にはとんでもない下がり方をしています。
この下げは金融株が原因と見られがちですが、実はこの原因は前述した新興国によるもので、金融株は恐慌の戦犯ではありません。
●金融恐慌の犯人は、BRICsのデフォルトであり、投資家の「不安心理」
では「何故、金融株が恐慌の戦犯ではない」のか否かを検証してみましょう。
10月14日に米国が公的資金を投資したことは、1929年の恐慌と同じく反発するものと同じ、もしくは、近い内容です。しかもそれを押し下げていたら、楽観論もなくなっているはずです。
本来なら反発してもおかしくなかったわけです。
しかしそれでも金融株は横ばいでした。
それは何故か?
「新興国が悪さをしている」からです。
それが「新興国のデフォルト」、つまり、投資家が「国がつぶれてしまうのではないか」というように不安を抱くことです。
先ほど見ていただいた数字でも77ですし、いちばん最悪期には65まで落ちています。
本来は100で返ってくるものが77まで落ちてしまう、それくらいリスクが高いということになってしまうでしょう。
では、ブラジルやロシアなどの国々が、実際に「破綻するのか」というと、普通は、そんなに簡単に破綻するものではないと思うでしょう。
ところが、投資家が破綻リスクを懸念してしまうと、今のようなことが起こってしまうわけです。
株というのは本来、平常時には資産です。「いまいくらお金を持っているのか」、それが「どれくらい収益を生むのか」が重要だということです。
しかし、それだけではありません。
やはり「投資家心理」というものがあると思います。
いくら新興国が、いま業績がよくても、「つぶれるのではないか」「収益が悪くなるのではないか」と思ったら何となく投資するのが怖い。
だから株価が一気に下がってしまったということです。
●過去20年間で未曾有の"恐怖"が、投資家の不安心理に大きな影響を与えている!?
その影響が、米国を中心とした「世界で活躍する企業の社債」にも表れています。
国債が、投資家が国に対してお金を貸すのに対して、社債は投資家が企業に対してお金を貸すものです。
今度はLQD(米ドル建て投資適格社債ファンド)を見てみましょう。
前述のEMB同様、信頼感が高い企業であれば、当然に、その値は100で推移するわけです。
しかし、ある時から突然100を割り、ある時には80台まで下落しています。
新興国ほどではないにせよ、それでもやはりものすごく下がっています。
どうして「そういうことが起こったか」というと、新興国の場合と同じく、投資家の不安心理が資産もしくは収益に影響を及ぼすのではないかと考えてしまったということです。
このファンドに含まれている企業を一部ご紹介すると、花王の約10倍、1兆円規模の利益を上げている「ジョンソン・エンド・ジョンソン」「IBM」「インテルグループ」「ウォルマート」「AT&T」などが並んでいます。
これを日本に当てはめれば、「花王」「松下電器」「東芝」「イトーヨーカドー」「イオン」「NTT」が並んでいるようなものです。
普通は[こんな企業がつぶれるのか!?]と思いますよね。
しかしCredit Ratings でAAA格、AA格の企業でも「つぶれてしまうのではないか」というリスクが株価を結果的に押し下げてしまったのです。
つまり金融株が下げたわけではなくて、事業会社が株価を下げたというわけです。
その事業会社の株価が下がった大本にあるのは、新興国のデフォルト(債務不履行)リスクだと今回は考えなければいけません。
1929年の大恐慌と近い部分で経験し成長したことへの対策は、当局は行いました。しかし株価は下がってしまい、下げ止まらなかった。
それは、「新興国のデフォルト」という初めての恐怖に直面したからですね。
私たちは、過去20年の中で未曾有の恐慌を"恐怖"として感じてしまいました。
新興国がこれほどまでに成長し、そして、これほどまでにデフォルトするリスクというものを、私たちが考えたことが無かった、その結末が今の状況となっているわけです。
|