米国貸し渋り・効果の無い公的資金注入よりも先にやるべきこと|株式・資産形成講座メルマガ

  2008/12/3(水)  
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米国貸し渋り・効果の無い公的資金注入よりも先にやるべきこと

約60%が融資態度の硬化対象となった厳しい現状

米国の貸し渋りが収まりません。米連邦準備理事会(FRB)の利下げや銀行間取引の金利の低下にもかかわらず、資金繰りに行き詰まる企業や事業が続出しています。米政府は金融機関への公的資金注入を拡大する方針ですが、金融機関が体力を取り戻して融資態度を前向きに改める好循環が"いつ"生まれるかは不透明とのことです。

私は何度となく主張していますが、金融危機の第1段階の対処としては「流動性の確保」をすることが先決です。公的資金注入というのは、第2段階の対処なのです。この点を理解しないままに相変わらず的外れな公的資金注入を続けても、効果は期待できません。公的資金注入という形で国から資本を補強してもらっても意味はないのです。なぜなら、資本の問題以前に、流動性が確保できていないために企業は頭を抱えているからです。何故この点に目を向けないのか、私からすれば全く理解に苦しみます。

流動性が確保されない企業に対して、銀行が慎重になってしまうのは致し方ないと言えると思います。いつ自分の身に火の粉が降りかかってくるのか分からないのですから、身構えた態度を取らざるを得ないというところでしょう。

昨年と今年を比較した米銀の融資態度の変化を見ると、こうした銀行の懸念が如実に現れています。住宅(サブプライム層)に対しては、今年になって100%融資態度を厳しくしたと回答しています。金融危機の発端となったのが住宅サブプライムですから、この融資態度の硬化は「当然」と言えるでしょう。


住宅(プライム層)と小企業に対する融資態度も、約60%が「いくらか厳しくした」と回答している点が見逃せません。住宅(プライム層)という優良顧客、そして昨年に比べて7倍~8倍の、融資を厳しく制限されている小企業が、金融危機の余波を受ける形で大きな影響を受けているのが分かります。事業会社としてはかなり厳しい状況に立たされているといえます。


●流動性確保ができなければ、住宅着工件数はさらに落ち込む

銀行の貸し渋りによる融資態度の悪化が進む中、19日米商務省は10月の住宅着工件数を発表しました。季節調整後の年換算で前月比4.5%減の79万1000戸と落ち込み、59年1月の統計開始以来最低の水準となっています。また、4カ月連続のマイナス、前年同月比では38.0%減となり、金融危機の深刻化が住宅市況の落ち込みに拍車をかけていることが浮き彫りになったと報じています。


確かに過去最低の水準という意味では、住宅着工件数の落ち込みは「深刻」と言えるかも知れませんが、私に言わせれば、この状況でも「住宅を建てるという人がいるのか」と不思議に感じてしまいます。

前年同月比で38.0%の落ち込みという水準は、ほぼGMの自動車販売台数のそれと同じような水準です。今の状況でも「79万戸もの住宅着工がある」というのは、銀行に頼らず資金を捻出できる人が、本当に自分が欲しいと思う住宅を建てようとしているということでしょう。企業の部課長のクラスの人で家を3つくらい持っている人が、その内の1つを売って建て替えるというような事例だと思います。

一方、身動きが取れなくなっているのがサブプライムに関連していたような低所得者層の人たちです。この層の人たちは壊滅的な打撃を受けましたから、住宅を持つというのは「夢のまた夢」という状況になってしまいました。また、年収レベルが非常に高い所得者層も甚大な影響を受けています。今はいわゆる超高給取りという層の人たちがいなくなったと言えます。

つまり今の米国・住宅業界の状況は、高所得者層と低所得者層がいなくなり、真ん中の層の人たちが若干動きを見せているという状況だということです。住宅着工件数は79万戸で「過去最低水準」ということですが、私は住宅の需要は今後さらに落ち込んでいくと見ています。

冒頭でも述べましたし、幾度となく話をしていることですが、金融危機は大きく3つの段階を経て推移します。第1段階は「流動性危機」、第2段階は「不良資産の償却」、そして第3段階が「銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産」です。

今は第1段階の流動性危機の対応に集中するべきなのに、公的資金の注入などの誤った対応をとっています。そのために、3つの段階のそれぞれの危機が同時に発生してしまっているのです。この状況では米国の不況は長引くだけでしょうから、景気は益々悪化すると思います。それに応じて今は中間層の需要によって支えられている住宅着工件数も逓減していくということになると思います。


講師紹介
大前研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
大前研一

11月23日放送
「大前ライブ」より抜粋し、一部再構成したものです。
大前研一学長語録
 ブレークスルー経済学
「経済学」というと敬遠する人が多いのですが、実際には「論理的に物事を考える」際には、非常に便利な道具(ツール)です。ここでは、毎回、金融・投資環境に関する事柄を経済学的に解説していきます。是非この機会に、使い方も含めて、習得していただけたらと思います。

第72回 『高速道路の「無料化」は"経済"にとって有効なの?』

麻生首相の追加経済対策"案"では「高速道路を休日(土日祝日)に1000円以下にする」ということを打ち出しています。これ自体が「景気刺激策(または、「生活支援策」)」になるか否かは議論のあるところだと思いますが、とりあえず、ETC(有料道路自動料金支払いシステム)を搭載している車に限定しているので、この政策が実行された暁には、少なくともETCさえ搭載していれば、休日、安く高速道路を使えるので、懐にやさしいドライブができることにはなるのでしょう。

しかしこの政策は、休日に限定されていますし、平日は3割引にするという案とのことですが、そもそも現状、ETCを搭載して高速道路を走行すると複雑な料金体系になっている(※)ことから(ETCを搭載していないよりも「徳」だとは思うものの)、どのくらい「徳」になっているのか「よく分からない」という感じです。まぁ、表示されている金額をこまめにチェックすればいいのでしょうが・・・。

(※)「社会実験」などがあるため、時間や走行する区間によって料金体系が違うなど複雑になっています。


「それなら無料にしよう」といった短絡的な考え方ではないのでしょうが、民主党のマニフェスト(政策綱領)では「高速道路の無料化」を謳っています(実際には、高速道路を建設し始めた当初、当時の政府が「将来的には通行料が無料になる」と国民に約束していたのだから、民主党としては、約束通り、「(高速道路の無料化を)実行させる」だけということだったと記憶しています)。

もし、「高速道路が無料になった」とすれば、経済的にどうなるのでしょうか?

「道路の整備費用」などの点で「問題はある」とは思いますが、その点を無視して「高速道路が無料になった」時にどのような事態になるかを簡単に考えてみます(以下の議論は麻生案でも、「休日」という限定はありますが、基本的には「同じ現象が起こることになる」と思います)。

ある程度の「距離がある場所に行く」と言うことであれば、高速道路の方が一般道よりもはるかに便利なので、「高速道路が無料になった」場合、多くの人が高速道路を利用することになるでしょう。つまり、「有料」であれば「利用しない」という(不要不急の)人まで「無料」なので高速道路を利用することになります。

そうすると、当然のことながら高速道路が混雑することになり、「計画的に目的地に着きたい」という人たちが迷惑を被ることになります。高速道路は日本の物流の要となる施設であり、それを利用して、長距離トラックなどの物流業者が日本社会における「便利さ」を支えているのです。しかし、この高速道路が大渋滞になった場合、計画的に目的地に着けない事態が、あちこちで発生することが考えられ、もしそのような事態になれば、現在の「便利な社会」も変質する可能性があると思われます。

当然、必要以上に高速代金を徴収するのは「良くない」とは思いますが、社会全体という観点でいえば「無料にする」というのは問題があるということになります。

「必要となる高速代金」が「どのくらいの金額なら良いか」は、いろいろな計算をしてみる必要があるでしょうが、単に「気軽に早く行けるから」「無料で便利だから」というだけのために高速道路を利用する人々を排除することのできるくらいの高速代金は「徴収する必要がある」ということになります。

つまり、民主党の「高速道路を無料にする」というマニフェストは、多くの人にとってインパクトがあり、自公など与党との政策の違いを明確に打ち出せるとは思いますが、経済学的に考えれば、あまり良い政策とは言えないことになってしまいます。民主党も、すでに「次の与党」としての現実味を帯びてきているだけに、現政権との対立軸だけで政策を打ち出すべきではないと思います。

当然、現政権がしっかりと政策を打ち出すべきであり、高速道路を「休日などだけ1000円(平日は3割引き)」にしたところで景気刺激策にもならないとは思いますから、現状経済を立て直すために、もっと違った「有効となる政策」を出してほしいと思います。とはいえ、「経済」は生き物なので、「実験のような政策」や「人気を取るためだけの政策」は、たとえ実行に至らないとしても「首相が発言した」というだけで反応をしてしまい、逆に、経済を混乱、または、衰退化させる可能性があるので、慎重に対応する必要があります。

そういう意味で、世界的に厳しいところであり、「急を要する」とはいえ、現政権も次期の政権を狙っている野党も、熟慮した上で政策、および、発言をしてほしいものです。


講師紹介
前田拓生
前田拓生(Takuo Maeda)

ビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジ
株式・資産形成講座 講師
高崎商科大学大学院 高崎経済大学経済学部 他で
「金融論」関係の講義を担当。
著書:「銀行システムの仕組みと理論」大学教育出版
編集後記
 編集後記
事務局 一戸 グローバルマネー・ジャーナル第78号、いかがでしたでしょうか。

今回は米国貸し渋りをテーマにメールマガジンをお届けしましたが、これは対岸の火事でないことを先日実感しました。

私の自宅周辺には何十年も続く不動産業者が10件程度軒を連ねているのですが、ここ半年の間にその何軒かが店じまいしてしまいました。

普段から割とよく話をする、そのうちの一軒のご主人に少しだけ聞いたところ、廃業の原因には銀行の貸出要件が、市場の急落と共に急に厳しくなったことがあるようです。

地元に根付く地銀はそこまで急ではないのではと尋ねると、さきに倒産の憂き目にあった国内不動産の債権等保有による損失はメガバンクと地銀で分けられるものではないようで、その意味では地銀も相当に苦労を強いられているという感じでした。

バブル崩壊当時を凌ぐ予想以上の悪影響が押し寄せ続けている、そう強く実感しました。

来週のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!    

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