約60%が融資態度の硬化対象となった厳しい現状
米国の貸し渋りが収まりません。米連邦準備理事会(FRB)の利下げや銀行間取引の金利の低下にもかかわらず、資金繰りに行き詰まる企業や事業が続出しています。米政府は金融機関への公的資金注入を拡大する方針ですが、金融機関が体力を取り戻して融資態度を前向きに改める好循環が"いつ"生まれるかは不透明とのことです。
私は何度となく主張していますが、金融危機の第1段階の対処としては「流動性の確保」をすることが先決です。公的資金注入というのは、第2段階の対処なのです。この点を理解しないままに相変わらず的外れな公的資金注入を続けても、効果は期待できません。公的資金注入という形で国から資本を補強してもらっても意味はないのです。なぜなら、資本の問題以前に、流動性が確保できていないために企業は頭を抱えているからです。何故この点に目を向けないのか、私からすれば全く理解に苦しみます。
流動性が確保されない企業に対して、銀行が慎重になってしまうのは致し方ないと言えると思います。いつ自分の身に火の粉が降りかかってくるのか分からないのですから、身構えた態度を取らざるを得ないというところでしょう。
昨年と今年を比較した米銀の融資態度の変化を見ると、こうした銀行の懸念が如実に現れています。住宅(サブプライム層)に対しては、今年になって100%融資態度を厳しくしたと回答しています。金融危機の発端となったのが住宅サブプライムですから、この融資態度の硬化は「当然」と言えるでしょう。
住宅(プライム層)と小企業に対する融資態度も、約60%が「いくらか厳しくした」と回答している点が見逃せません。住宅(プライム層)という優良顧客、そして昨年に比べて7倍~8倍の、融資を厳しく制限されている小企業が、金融危機の余波を受ける形で大きな影響を受けているのが分かります。事業会社としてはかなり厳しい状況に立たされているといえます。
●流動性確保ができなければ、住宅着工件数はさらに落ち込む
銀行の貸し渋りによる融資態度の悪化が進む中、19日米商務省は10月の住宅着工件数を発表しました。季節調整後の年換算で前月比4.5%減の79万1000戸と落ち込み、59年1月の統計開始以来最低の水準となっています。また、4カ月連続のマイナス、前年同月比では38.0%減となり、金融危機の深刻化が住宅市況の落ち込みに拍車をかけていることが浮き彫りになったと報じています。
確かに過去最低の水準という意味では、住宅着工件数の落ち込みは「深刻」と言えるかも知れませんが、私に言わせれば、この状況でも「住宅を建てるという人がいるのか」と不思議に感じてしまいます。
前年同月比で38.0%の落ち込みという水準は、ほぼGMの自動車販売台数のそれと同じような水準です。今の状況でも「79万戸もの住宅着工がある」というのは、銀行に頼らず資金を捻出できる人が、本当に自分が欲しいと思う住宅を建てようとしているということでしょう。企業の部課長のクラスの人で家を3つくらい持っている人が、その内の1つを売って建て替えるというような事例だと思います。
一方、身動きが取れなくなっているのがサブプライムに関連していたような低所得者層の人たちです。この層の人たちは壊滅的な打撃を受けましたから、住宅を持つというのは「夢のまた夢」という状況になってしまいました。また、年収レベルが非常に高い所得者層も甚大な影響を受けています。今はいわゆる超高給取りという層の人たちがいなくなったと言えます。
つまり今の米国・住宅業界の状況は、高所得者層と低所得者層がいなくなり、真ん中の層の人たちが若干動きを見せているという状況だということです。住宅着工件数は79万戸で「過去最低水準」ということですが、私は住宅の需要は今後さらに落ち込んでいくと見ています。
冒頭でも述べましたし、幾度となく話をしていることですが、金融危機は大きく3つの段階を経て推移します。第1段階は「流動性危機」、第2段階は「不良資産の償却」、そして第3段階が「銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産」です。
今は第1段階の流動性危機の対応に集中するべきなのに、公的資金の注入などの誤った対応をとっています。そのために、3つの段階のそれぞれの危機が同時に発生してしまっているのです。この状況では米国の不況は長引くだけでしょうから、景気は益々悪化すると思います。それに応じて今は中間層の需要によって支えられている住宅着工件数も逓減していくということになると思います。
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