借金国通貨のドルは「自国の景気循環にそって動く」パターンがある
『超長期的に見て、日本では少子高齢化が進み、生産性や成長率の趨勢(すうせい)的な伸びが主要国対比で劣るなら、円安が続き、外貨建て資産投資が当たり前』。昨年や一昨年には、世間ではこうしたことがよく言われてきました。
しかし私の講義では、「たとえ超長期で円相場が下落トレンドをたどるにしても、数年ごとに景気循環にそった円高が起こります。これから円高になるリスクが高まりますよ」と繰り返し申し上げてきました。
米国は長年、経常赤字を積み上げてきた"借金国"です。借金国通貨のドルは、海外から米国にスムーズにお金が入ってこないと、下落してしまいます。資金繰りに窮して、ドル安になり、割安になった米国の資産を「外国人に買ってください」というわけです。
借金国にお金が入りやすいのはどのような状況でしょうか。景気がよくなり、金利もある程度高くなり、株も高い・資産価値も上がっている時です。こういう時には、海外投資家も米国に前向きにお金を「投資したり」「貸したり」できます。
逆に景気が悪くなり、金利も下がり、資産価値も下がれば、米国にお金を貸したくないと思うのは当然です。そうするとドル安になってしまう。このパターンが歴史的に何度も繰り返されています。
為替というと、たいていは内外の格差分析になります。しかし米国のような借金国の場合は、"自国の景気循環にあわせて通貨が動いている"面がありますから、それで整理したほうが面倒は少なく、分かりやすいと思います。
●米国の景気が回復して、金利が上がり始めてから、ドルはさらに売られやすい
いま米国の景気は悪化し、下降局面にあります。景気循環にそった短期金利、長期金利、株式、ドルの動きをそれぞれ見てみましょう。
1)短期金利
政策金利は景気下降局面に低下し、やがて利上げに転じるのは、景気回復が始まってしばらく経って、「景気はもう大丈夫」となってからです。
2)長期金利
長期金利は、カバーする期間が長い分、通常はピークを打つのも底入れするのも、政策金利のような短期金利よりも早くなります。短期金利と長期金利のズレは、景気循環の次の変化を占う重要なシグナルとなります。
3)株式
株式は、景気が悪化し、金利も下がる状況で、しばらく下降していきます。しかし十分に金利が下がると、その利下げを好感して、株式の金融相場が始まります。
幸いそのまま景気が回復して行けば、株価の上昇も続くのかというと、実は違うというのが過去よく起こったパターンです。景気回復を受けて、利上げが始まると、金融相場というテーマが終わり、株式はいったん調整・反落しがちです。ただし景気は上向いているので、いずれ業績相場に移っていきます。
4)ドル
ドルは、景気がピークを過ぎて、利下げも始まる前後から下落局面に入ります。その後、景気はまだ悪化している途中でも、金利が十分下がって株も上がり始めると、ドルも買い戻されて上がる場面があります。
では、そのまま上昇局面に入れるかというと、そうではありません。その後、景気回復と利上げが進む中で、危機的に売られる展開が過去に何度もありました。
何故そうなるかというと...。
景気の大底近くで株価が上がり、ドルが買い戻されたからといっても、米国の金利は循環上最も低い水準にあり、米国の借金を安定的に賄うことはできません。やがて、金利が上がり始めると、債券は売られていきますし、株もそれまでの金融相場が終わって売られてしまう。借金国なのに株も債券も外国人から買ってもえらえない状況になり、ドルが急落するわけです。
この見方にそって、今後の展開を考えてみましょう。
今はまだ米景気は悪化の途上にありますから、ドルは(特に円のようなお金を貸す側の国の通貨に対して)安くなりがちです。
2009年の半ば以降、十分な政策が打たれて『もう大丈夫かな?』という状況になると、株が多少上がりやすくなります。その時には、ドルも買い戻される可能性があります。
でも、これからはもうドル高局面だなどと思っていると、危険です。2010年か11年に、そろそろ米国の超金融緩和をやめて、金利も正常な水準に戻したらどうだという話になった時に、株価の反落、そしてドル売りのクライマックスが来る可能性があるのです。
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