産業インフラの整備による「万単位の雇用創出」は本当に実現するのか|株式・資産形成講座メルマガ

  2009/1/21(水)  
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産業インフラの整備による「万単位の雇用創出」は本当に実現するのか

中国銀行株の売却は、絶好のタイミング

8日、大手英銀ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)は保有する中国銀行の株式について「1-3月の戦略見直しの一環として運用を再検討している」との声明を出しました。RBSは自己資本増強のため公的資金を受け、英政府が全株式の57%を保有。財務立て直しのため資産売却を検討しているとのことです。

今のタイミングでRBSが中国銀行の株式を売却するのは、経営上、大きなプラス要因になると思います。中国銀行は今現在の時価総額で見ると世界のトップ3に入っているほど、業績が好調です。株式を売るタイミングとしては絶好でしょう。

日本の事例でも似たようなことがありました。かつて住友銀行が自らの資本が毀損した際に、保有していた大手米投資銀行ゴールドマン・サックスの優先株を売却したのです。この時もゴールドマンが非常に好調な時期だったので、住友銀行は数千億円ものリターンを得たはずです。

資本の10%ほどの株式を保有していても、経営上コントロールできることは殆どありませんから、かつての住友銀行や今回のRBSのように、厳しい局面では自己資本を「強化する」という意味で株式を売却するのは、非常に有効な一手だと思います。ただし、RBSに対する英政府の株式保有率が「57%に達している」というのは惨たんたる結果です。この点は経営陣としては大いに反省するべきだと思います。

今回のRBSだけでなく、例えば、英大手金融グループHSBCホールディングスが香港上海銀行を傘下に収めて成功しているように、英国系企業の中には、過去に中国系企業に投資したお陰で、今になって資産価値が大きく跳ね上がっているという企業が数多く存在しています。これが英国金融業界の特徴ともいえます。


●韓国経済の根本的な課題は、産業インフラの整備

他方で、韓国の景気悪化が鮮明になってきています。金融危機に始まった世界的な需要縮小で輸出が一気に落ち込み、内需の不振も加速しています。韓国銀行(中央銀行)は昨年10-12月期の国内総生産(GDP)成長率が約5年ぶりのマイナス成長に転落したことを明らかにし、政策金利を0.5%幅引き下げました。また、韓国の08年の対日貿易赤字は320億ドル(約2兆9千億円)と過去最大を更新しています。こうした事態を受けて韓国政府は景気浮揚を狙った総額50兆ウォン(約3兆5000億円)規模の環境対策「緑のニューディール事業」を策定。政府は2012年までの4年間で96万人の雇用創出につながると見込んでいるとのことです。

欧州でも米国でも大きな課題になっている「雇用創出」ですが、各国の発表を比較して見ると、結局どの国も数字的な根拠が「殆どない」ということが分かります。欧州では2兆円強で10万人、韓国では3兆5000億円で90万人だと言います。さらに米国では、オバマ次期米大統領が300万~500万人の雇用創出を目指すと述べています。私に言わせれば、いずれの国も「何か発表しなくてはいけない」から「いい加減でもいいので言っておけ」というだけの発言に思えます。今回の韓国の発表も然りです。

そして、韓国経済の大きな課題の1つが"対日貿易赤字の拡大"です。韓国の総額及び対日貿易収支の推移を見ると、この10年間、対日貿易収支は赤字の一途を辿り、そして貿易総収支もこの1年で急激にマイナスに転じているのが分かります。


韓国経済は、素材や基幹部品を日本から輸入し、韓国または中国で製造し、米国や欧州に最終製品を輸出する、いわゆる「パス・スルー経済」ですから、日本からの輸入価格が上がると大きな影響を受けてしまいます。

実際この1年間で、円高が進み、日本円は対韓国ウォンで見ると約2倍の価格に跳ね上がりました。その結果、日本から素材などを輸入できないために製品を欧米に輸出することもできず、韓国貿易のエンジンは止まってしまい、貿易総収支も落ち込んだのです。

このパス・スルー経済の弱点について、私は何度も主張してきました。日本では、約5,000もの工場があると言われる東京都大田区をはじめ、東大阪市、浜松市、諏訪市など、根気強くモノづくりを支える中小企業がたくさんあり、産業のインフラストラクチャーとなっています。それが日本の強みです。

一方の韓国では、日本から最先端のモノ(部品・素材等)を買えば「手っ取り早い」ので、国内に日本のような産業インフラを作り出せていません。これは、韓国の財界と韓国政府の「怠慢だ」と私は思います。今のように経済が危機的な状況のときに「改めて国内の産業インフラを整備する」というのは非常に厳しいでしょうが、これまで安易な利益を追い求めて「産業基盤を構築する」という準備をサボってきたからです。産業インフラの整備という課題は韓国にとって避けては通れない道だと私は確信しています。

また、これまで韓国では日本から素材や部品などを輸入する一方で、一般商品は輸入しない傾向が強かったのですが、ここに来て日本の一般商品の輸入が増えています。これは対日貿易赤字を拡大させますし、国民感情にも大きく影響すると思います。韓国政府からすると「対日貿易赤字の問題は最大の政治的課題だ」と言えるかも知れません。その意味においても「産業インフラを整備しパス・スルー経済から脱却する」ことは、根本的な解決策として重要だと思います。


講師紹介
大前研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
大前研一

1月11日放送
「大前ライブ」より抜粋し、一部再構成したものです。
大前研一学長語録
 ブレークスルー経済学
「経済学」というと敬遠する人が多いのですが、実際には「論理的に物事を考える」際には、非常に便利な道具(ツール)です。ここでは、毎回、金融・投資環境に関する事柄を経済学的に解説していきます。是非この機会に、使い方も含めて、習得していただけたらと思います。

第78回 『「グリーン・ニュー・ディール政策」、どうする日本。。。』

1/20の大統領就任式により、バラク・フセイン・オバマ氏が第44代大統領になりました。リーマン・ショック以降の閉塞した社会において、ほとんど"唯一"といえる「明るいニュース」です。"Change ! Yes , We can!"ということがスローガンであり、まさに、この不安定で、先行きが見えない経済を"Change !"してほしいものです。

その"Change !"の一環として「グリーン・ニュー・ディール政策」というものがあります。これは「地球にやさしい環境」を目指して、そのためのインフラを促進するとともに、それに関連する雇用も含めて500万人を新たに創出する経済政策をいいます。1933年にフランクリン・ルーズベルト大統領が行った「ニュー・ディール政策」の"現在版"ともいえる政策です。現在の「100年に一度の大不況(大恐慌かも?!?!)」を経済的に立て直すために「グリーン(環境)を中心に政策を打っていくのだ」という意気込みがみえてきます。

実際、今直面している経済的な閉塞感を脱却するためには「積極財政・公共投資拡大」しかないでしょうし、経済学的にも「従来型の単なるインフラ整備」では限度があり、経済的な乗数効果も限られているので、イノベーションを伴う「環境関係のインフラ整備」は有効に作用するものと期待できます。

「イノベーション(技術革新)」と言っても、すでに「IT」では「???」ですから、テーマとして「グリーン」を挙げるのはごく自然な流れだと思います(テーマとしては「電気自動車」「ニューエネルギー」「循環型都市計画」「地産地消」などであり、それにはそれぞれいろいろなイノベーションが必要になります)。

翻って「日本は・・・?」とみた場合、「定額給付金」「渡辺氏の離党」「麻生首相の支持率低下」「消費税引き上げの明記問題」などなど、本当に"Change !"が必要なのは米国ではなく、「日本の政治」そのもののように感じます(「首相だけ」ではなく・・・)。つまり、「自民」「民主」などという問題ではなく、また、「国民会議」ということでもなく、日本の政治のすべてにおいて"Change !"が必要なのではないでしょうか。

とはいえ、国民的にも"Change !"が必要な部分も多いように思います。特に「グリーン」に対する考え方において、日本人はまだまだ「甘い」ように感じます。

確かに「本当に現在の地球環境問題が人類の出すCO2(温室効果ガス)のセイなのか?」「何となく『偽善者』のような気がする」など、「グリーン政策」そのものに疑問があるのは「その通り」なのかもしれません。しかし、もし「手遅れになってしまった」ということになれば、人類は滅びる方向にしか進めないことになり、その段階でいくら対策をとっても「未来はない」ことになってしまう、というようなロジックによって、世界、特に先進国が動いているのであり、この「大義名分」を否定して、経済的な恩恵を受けることは「ない」と考えるべきだと思います。

そういう意味では、本来、世界各国が足並みを揃えて、各国個別の利害ではなく、建設的な対策を採ることが重要なのですが、そこはそこ「(国際)政治」ですから「利害」が多分に作用します。

今、「グリーン」という意味では欧州が(「辛うじて」ですが・・・)一歩先を歩んでいると思います。したがって、このまま米国が何もしなければ「欧州型の政策」が世界標準(デファクト・スタンダード)になっていくところでした。そこにオバマ"新"大統領が「グリーン・ニュー・ディール政策」を打ち出してきているのであり、覇権におけるバトルが「ここから激しくなる」と考えた方がいいと思います。

では、日本は???

全くダメですね。政策が打ち出されていませんし、産業界を巻き込むところまでも行っていません(「排出量」そのものの定義も曖昧であり、「キャップ(上限規定)」も「研究中」といったところです)。本来は「産業界にとって有益である」はずなのですが、ここでも「エゴ」が「エコ」を上回っているようです(汗)

また、日本では「国民に対する啓蒙活動」も貧弱のように思います。「京都議定書」でさえ、よく知らない人が多く、「CO2排出量削減」といっても「CO2だけの削減」と錯覚をする人が多いのが現状です。

「CO2だけ規制しても、メタンガスの方が温室効果は高いので、CO2だけの排出量削減なんて意味がない」と思っている"あなた"、これは間違えですよ。

この場合の「CO2排出量」というのはCO2"だけ"の排出量ではないのです。

「温室効果ガス」というのはCO2だけでなく、メタンガスや亜酸化窒素などいろいろとあります。しかし、それぞれの温室効果ガスを個別に量的に規制しても、規制そのものが煩雑になるだけで効果的ではありません。そのため、「CO2がもたらす温室効果」を基準にして、その他の温室効果ガスがもたらす温室効果を「CO2の何倍(地球温暖化係数)」(*)という風に、すべての温室効果ガスを「CO2の量」に換算して表記するようにしているだけなのです。

(*)例えば、地球温暖化係数でいえば、CO2が「1」に対してメタンガスは「21」なので、メタンガスの「1t(トン)」は、CO2の「21t」に相当することになります。

つまり、便宜上「CO2排出量」と言っているだけで、「CO2"だけ"を規制している」というわけではないのです。

ことほど左様に「誤解」が多いのも、政府等の広報活動が、あまりにも貧弱だからなのでしょうね。

でも、「政府の怠慢だから仕方ないよね」と言っている場合でもありません。環境問題に対する「ルール」というのは、「金融市場」と同じで、自国に有利に決まれば、それによって国が栄えることになります。しかしそうでなければ、国益を大きく損なうことになってしまいます。しかも、どのような場合も同じですが、一旦「ルール」というものが決まってしまうと、それを覆すことは難しく、参加者は無理矢理でも、それに従わないといけなくなります(つまり、欧米に対抗するような「基準」「ルール」を独自に出すべきなのです)。

にもかかわらず、日本は「(大きな意味で)内紛」に終始し、ここでも「金融市場」と同じように、この分野においても(欧州か米国かどちらかの)後塵を拝することになりそうです。技術は「世界一」であるのは確かなのに・・・


講師紹介
前田拓生
前田拓生(Takuo Maeda)

ビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジ
株式・資産形成講座 講師
高崎商科大学大学院 高崎経済大学経済学部 他で
「金融論」関係の講義を担当。
著書:「銀行システムの仕組みと理論」大学教育出版
編集後記
 編集後記
事務局 一戸
グローバルマネー・ジャーナル第84号、いかがでしたでしょうか。

先日、とある受講生からの質問で、自分が投資を勉強しだした頃を思い出しました。

投資信託がちょっとしたブームだった当時、一体どこの投信に運用を任せたらよいのかが分からなかったので、モーニングスターで調べてみようと思った時のこと。

初学者の私には色々な検索項目がありすぎて、うまく投資商品を絞り込むことが出来ず悩んでいたことがあったのですが、先日、当時の自分と同じ悩みを持つ女性の受講生とそうした話になりました。


私が受講生さんにアドバイスさせていただいたのは「要は自分が投資するに当たり、何を重要視するか」ということです。

単に良さそうなものを・・・では目移りするばかりなので、「例えば手数料の点からノーロード(手数料無し)を指定し、さらに財務体力の点から純資産一千億円以上の投信を検索してみると、出てくるファンドは結構しぼられてきますよ」とお話し、実演して差し上げると、「なるほど」と納得し、とても喜んでくださいました。

ちょっとした違いで、自分の目の前にあるものが価値のあるものになったり無価値のままであったり、ということは意外と多いのではないかと思います。

自分から一歩踏み込んで興味をもつこと、これが大切ですね。

来週のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!    

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