マースリヒト条約の「3%条件」を守るのは厳しい状況
19日、欧州連合(EU)の欧州委員会は今年中にユーロ圏16カ国中7カ国が財政規律を定めた安定・成長協定(財政協定)違反になるとの判断を明らかにしました。景気対策に伴う財政出動や減税のためで、ユーロ圏各国は同日の財務相会合で過度の赤字拡大を避ける方針を確認しました。財政基盤の弱い加盟国は長期国債の格下げに直面しており、財政悪化がユーロ圏の新たなリスクとなる恐れがあるようです。
欧州では今様々なことが同時進行で動いています。ユーロ圏の経済状況の概要としては、ユーロ圏と英国の対GDP比財政赤字予想を見るとよく分かります。マーストリヒト条約(欧州連合条約)では、単年度の財政赤字幅の対名目GDP比率が3%以下という条件が定められていますが、今年は軒並みこの条件を割り込む勢いを見せています。
先日IMFからの支援は必要ないと発表したアイルランドではありますが、財政赤字予想は対GDP比でマイナス11.0%となっていて「論外」の部類に属する数値と言わざるを得ないでしょう。
また、英国はマイナス8.8%と大きく条件を下回っています。英国の場合には、通貨としてユーロを使っていませんが、そのため「ポンド」が大暴落をしています。英国に続いてマイナス6.2%となっているスペインも、かなり経済が傷ついている状態になっています。
国家破綻してしまったアイスランド、そして、アイルランド、英国、スペインといった国はいずれも外部経済に依存していたという特徴があります。そのため外部経済に逃げられてしまう、あるいは、それに対する信頼が失われる事態になると、自国の経済が大きな打撃を受けてしまうというパターンです。
英国やスペインほどでないにしても、軒並み欧州の国々の経済は傷ついています。今後、EUの国々がマースリヒト条約で定められた、「財政赤字幅GDP比3%以内」という条件を維持するのは非常に厳しくなっていくと思います。
●EU・ユーロ経済内には、複雑な潮流がうごめいている
今回の財政赤字幅の予想で上位を占めたフィンランド(2.0%)、ルクセンブルグ(0.4%)、オランダ(マイナス1.4%)などは比較的堅調な状態を保っているので、今後の見通しもそれほど暗いものではないと思います。また、2009年からユーロを導入したスロバキアはマイナス2.8%と何とか踏みとどまり、小国ながらも善戦していると見て良いでしょう。
一方、ドイツはマイナス2.9%とギリギリのラインを保持していますが、メルケル首相が言うように「預金を全額保護する」などという政策を打ち出したら、今年は3%のデッドラインを超えてしまうと私は見ています。
フィンランドやルクセンブルグなど一部堅調な国はありますが、ドイツ、スペイン、英国という3つの国が常識を超えた「破綻」を見せ始めています。今後EU全体の大きな流れとしては、この波に飲み込まれる形になるのは間違いないと思います。
ドイツ、スペイン、英国のそれぞれ国内にある銀行が機能しなくなるような「おかしな状態」に陥った時に、果たしてEU全体としてまとまりがつくのか、私は甚だ疑問を感じてしまいます。
ただし、一方では北欧諸国や英国は通貨としての「ユーロ」に加盟した方が得策なのではないかと考えている節があります。EUという経済共同体の中で、様々な潮流が複雑に動いているというのが現在の状況だと思います。
今後EUがまとまっていけるのかどうか、それともEUは機能しなくなってしまうのか、しばらくの間は目が離せない状況です。注目していきたいと思います。
|