年明けに、欧州通貨や各国の国債に「売り」が集中した原因は何か
マクロ景気全体の状況を見ると、昨年末から年明けにかけての株価は「弱い」と考えられており、注目すべきは「米国個人消費」だとお伝えしてきました。その「年末商戦の結果」がはっきり出たのが年明けであり、その結果を受けて、大変な暴落となりました。
統計の内容として、たとえば「全米小売業協会の統計」は、1995年の統計開始以来、初めて前年を割り込みました。また自動車もよくありません。日本国内の新車販売台数は、1990年の777万台をピークに、いま500万台まで落ち込んでいます。これは日本固有の問題かと思いきや、米国の新車販売台数も2005年の1700万台をピークに、「2009年は下手をすると1000万台を割る」という驚くべき状況になるかもしれません。
さらに株価を冷やした要因として挙げられるのが「金融恐慌」です。特に「欧州が火種になった」というのが、今回の特徴でしょう。かつては「米国が悪くても、欧州は大丈夫」と言われていました。2007年に米国が利下げに踏み切るなかで、欧州は利上げに踏み切っていたように、「欧州は大丈夫」という意見を、欧州側から発表していました。
しかし現在、欧州も大変なことになっています。
その一例としてRBS(ロイヤルバンク・オブ・スコットランド)の2008年通期の赤字額は、280億ポンド(およそ4兆円程度)。これは英国内の銀行の損失額としては過去最大です。「4兆円」がどれほどの規模かと申しますと、2003年の3月期に日本の六大金融機関が大変な状況だった時、その六大金融機関をすべて合わせても赤字額は5兆円でした。これとほとんど同じ規模の損失を、英国の一銀行がこうむってしまったというわけです。
●銀行がつぶれる!? 疑心暗鬼になり、株を暴力的に売ってきた投資家たち
こうした状況は、RBSの株価下落にも鮮明に表れています。
では何故、株価が下がるのでしょうか。
一般的な答えとしては、「赤字になると株価が下がる」。しかし赤字があまりにも大きいと、どういうことになるかというと...。
その銀行が、つぶれてしまうかもしれない。もし、つぶれてしまうと、以下の2つの可能性が出てきます。
1)銀行が英国の公的管理下に置かれる。そうなると株券が、紙くずになってしまうかもしれないから売る、そのため株価が急激に下がる。
2)公的資金を注入して生きながらえる。しかし資本注入した分だけ株数が増えるため、一株あたりの株価が下がる。
この2つの可能性を投資家が連想し、結果的に株価が大きく下がってしまったのです。
同様に、バークレーズの株価も英国市場では、200から一時は50まで落ち、あっという間に4分の1になってしまった。そこにバークレーズ側から「資金繰りに問題はなく、利益も出ている」という異例の声明が発表されました。これによって「追加資金出資の可能性が小さい」ということから、株価がもとに戻りました。実際にバークレーズはその後、底の安値から2倍になっています。業績も赤字に陥っていませんから、けっして悪い会社ではありません。それくらいパニックになってしまったということです。
2008年秋にわたしたちが経験したように、破綻したリーマンブラザーズから実際に破綻した銀行や金融機関でも"大手"と呼ばれるところはありません。しかし投資家が「つぶれてしまうのではないか」と疑心暗鬼になり、株を暴力的に売ってきました。これが英国を中心に欧州に伝播したというわけです。
この結果、投資銀行部門を持つ金融機関の中でも、メリルリンチを買収して全米でもベスト3に入る「バンク・オブ・アメリカ」が、ほぼ時期を同じくして株価が急落しています。
このように事態は、米国にも波及しています。
●FXeトレードから判る、「ドルは、円以外のすべての通貨に対して強くなった」
こうした動きは株式市場だけではなくて、外国為替市場や債券市場にも影響があります。わたしたちが株式市場を見る時は、どうしても株価を見てしまいますが、まずは「為替を見なければいけない」。これが今回の動きから判る、重要なポイントです。
誰でもアクセス可能な『グーグルファイナンス』で、「FXe」と入力していただくと、対ドルでユーロがどういう推移をしているのかを見ることができます。
このグラフでは、価格が下に行けば行くほど、ユーロが対ドルで弱くなっているということを示します。
今まで「ユーロは、ドルに匹敵するような基軸通貨になりうる」と言われていましたが、この金融恐慌のなかでは、ユーロは対ドルでどんどん弱くなっていきました。この金融恐慌では、「ドルの一極集中の崩壊」「資本主義の崩壊」とよく言われますが、そこで明らかになったのがドルは、「円」以外のすべての通貨に対して強くなったということです。ドルは、きわめて信任が強い通貨ですが、逆にユーロはドルに対して弱くなっています。
これを投資家や投機家の視点から見ると、「ユーロは、ドルに比べて不安」ということになります。例えば、借金を返して欲しい時に、今まではユーロで返してもらってもOKだったものが、「ユーロはダメ、ドルで返せ」。するとユーロを売ってドルを買わなければいけないので、ユーロが下がってドルが上がる。こういうことが急速に起こりました。
しかし11月から12月にかけては、ユーロが対ドルで強くなっています。このことから「世界の緊張が少し緩和した」と見ていいでしょう。先ほどの事例で言えば、「ユーロで返してくれてもOK」ということになります。
●「FXeトレード」と「EMB」を先行指標に、今後の株価の動きを読み解く!
実は、為替は12月の中旬をピークに下がっています。そして、金融機関の株価は1月をピークに下がっている。そうすると「為替のほうが早く動いている」ということになります。
つまり私たち投資家は、以下の2点について注目しておく必要がある、ということです。
1)為替が少し不穏な動きをしたのであれば、海外金融機関の株に影響を及ぼすのではないか。
2)金融株が下がれば全体が下がるということもありうるから、ユーロが対ドルでどう推移するのか。
そして、もう一つ注目すべきなのが「債券市場」であり、新興国の国債に対する価格「EMB(エマージング・マーケット・ボンド)」です。
国債は、ほとんど一般的に「100」という数字が基準で、その100に対して利息がつくという仕組みです。9月にリーマンブラザーズ・ショックで落ち、その後10月にかけて更に大きく下落、信用不安が起こりました。
最大で65ドルまで落ちましたが、100ドルが65ドルになるということは...。
仮にこの新興国の国債に100カ国入っているとするならば、「そのうちの35カ国がデフォルトする」と投資家が信じてしまったということです。
しかし実際には、そんなことはありません。BRICsの 1位はブラジル、2位はロシアです。こうした非常に大きな国が入っているから、そこまでひどくはないだろうということで、10月を底にゆるゆると戻っていきました。
さて、ここまでの流れを整理すると...。
まず為替が12月中旬にピーク、そして債券は1月初旬にピーク、その後に金融株などが来ています。つまり、最初に、為替にお金が動いていく、それが債券にも流れていき、その後で株に来るという流れになっています。ですから先行指標としては、「FXeトレード」と「EMB」に注目して下さい。ユーロやそれ以外の新興国の信任は、ドルに対しては、やはり「弱い」と見るべきだからというのが、「FXeトレード」と「EMB」に注目すべき理由です。
こうした年末から年始にかけての動きから判ること。それは、「いまマクロ環境としては、けっして安穏としていられない状況であること、そしてその認識を大前提として持っている必要がある」ということです。
|