第85回 『国民の7割は定額給付金で「日用品を買う」らしい!!』
定額給付金の支給が決定し、各地で支給に向けて動いています。というか、すでに受け取っている方の映像がTV等で報道されています。「貰えるもの」は、やっぱり貰うのが当たり前であり、拒否する必要はないと私は考えています(大阪出身です)。また、そもそも私たちが出した税金の還付に等しく、「つまり」は「自分のおカネ」なのであり、堂々と貰うべきだと思います(そこに何の「さもしさ」もないはずですから・・・)。
また、経済効果等を考えれば、貰ってから自分の意思で「他の主体に寄付する」のは良いのですが、「貰わない」ことにしてしまうと、国庫に返納され、もし、年度内に当該資金が使われなければ、景気にとって「最も悪い」ことになります。したがって、とりあえずは「貰うべきだ」と思います(野党の中には「貰わない」と決めているところが多いようですが、それは良くないので、受取りを拒否するくらいなら、政党が中心になって、任意に、寄付の"受け皿"を作るなどの施策を行うべきでしょうね)。
ところで、この給付金を「どのように使いますか?」というアンケートをしたところ、7割近くが「食費や日用品の購入」と答えたということです。まぁ、アンケートですから、正しいか否かはわかりませんが、普通に考えてみれば、12,000円という額で「豪華な旅行の"足し"に」という人は少ないでしょう。「足し」にする部分が、あまりにも少ないので、そもそも「豪華な旅行」という選択肢は少なく、日用品等になると考えるのは「当然」といえば当然ですよね。
ということは、この給付金のほとんどは「日用品等に流れる」ということになりそうですが、その時の経済効果はどうなのでしょうか?
答えとしては「ほとんど経済効果なし」ということになります。
「何故?」という声が聞こえそうですが、この給付金、経済学的にみて、日用品等に使ってしまっては意味がないのです。この給付が「生活者支援」であれば、それも良いのですが、「消費向上」の場合には、ほとんど効果なしになってしまうのです(何かの「消費喚起」にはつながるかもしれませんが、「消費の全体的な向上」ということにはならないでしょう)。
でも、日用品等といっても「消費」には違いないのであり、「使った」ということは「貯蓄」ではないので、マクロ経済的には「消費項目が高まるといえないのか?」と考えてしまいそうですよね。たぶん、多くの人もそう思っているのでしょう。だから、TVのインタビューでも(先ほどのアンケートでも)「日用品に使う」と答える人が多かったのだと思いますし、映像でも洗剤などを買っているシーンが流れていました。
しかし・・・
「日用品」というのは、この定額給付がなかったとしても"必ず"買うものです。したがって、定額給付のおカネで日用品を買えば、年間で購入するはずの日用品代が、この定額給付の分だけ少なくなることになります。その「浮いたおカネ」は、やっぱり、浮いたままであり、使わなかったのと同じになるのです。
例えば、毎年100万円を日用品に使っていたとします。そして、所得は変わらず、日用品は必ず使うモノばかりであり、今年も買うことになるとします。ここに12,000円が定額給付として支給され、そのおカネで日用品を買うとします。しかし、日用品は100万円しか要らないわけであり、日用品のために自分のおカネで消費したのは98万8,000円になります。つまり、12,000円分が支出しなかっただけということになります。
使わなかったおカネはどこに行ったのか、というと、他に贅沢な消費をしない場合には、「貯蓄」が増加したことになります。つまり、本当に「使わなかった」だけであり、消費が増加することにはならないのです(ただ、通常よりも「価格の高い洗剤」「価格の高い食料品」などを購入したとすれば、その「価格の高い」分だけ、消費が増加することになります)。
このように定額給付金で日用品を買うというのは、「日用品代」というファンドを想定すれば、その金額は一般に変わらないので、消費に回らなかったのと同じになってしまうのです。つまり、定額給付金をもらったら「すぐに銀行に預金した」のと、最終的には経済効果が同じであり、貯蓄タイミングが、幾分、違うだけに過ぎないのです。
では、どうすれば「景気に良いことになるのか?」というと・・・
やっぱり"パァ~と"使ってしまうことです。特に「もったいない」と思うようなことに使ってしまうことが、このような景気が悪い時には大切なのです。今、どこかのコマーシャルで「mottainai(もったいない)」というものを流していますが、それを覆す行動が良いことになります(といっても、環境問題からいえば「無駄」は良くないですよ)。
しかし日本人は、なかなかそのような行動に慣れていません。況してや、この不景気に将来どのようになっていくかもわからない状態で「使いましょう」といわれて、「無駄なもの」に使う人はいないでしょうね。それを期待する(政府の)方が間違えているといえます。
「家計は使わない」「企業も生産をしない」ということ、だから、「政府が使うべきだ」というのが、ケインズの有効需要における公共事業の役割になるわけです。政府が使うべきものを国民に「使ってください」と支給するのが、今回の定額給付という考え方ですから、発想が全く違っていることになります。
与党は「国民は給付を待ち望んでいるし、実際、貰った人々は喜んでいる」とみているようですが、それは当たり前の行動なのであり、「喜んでいる」というのと「政策効果がある」というのは全く別であるということを認識すべきです。
政府に「無駄におカネを使われる」くらいなら、戻ってきて「助かる」というのは当たり前であり、おカネを受け取って「ありがたい」と思わない人はほとんどいません。しかも、その原資は「自分のおカネ」ですから・・・。
でも、政府は「無駄」といわれても「使う」ことは可能であり、それを実行するから(誰も使わないような状態において)経済が良くなる可能性もあるのです。うまく公共投資の乗数効果を使えば、「無駄」に見える使い方も有効になることもあるのです。
とはいえ、定額給付金は既に出してしまったのであり、それは仕方ないので、後は結果を見る以外にないでしょう。
結果は、半年くらい経ってみないとわかりませんが、現時点で「7割が日用品等を買う」と言っている以上、最終的な効果は「ほとんど皆無」ということになりそうですね。
これからも政府は(現在までの"3段ロケット"に加え)4段、5段の景気対策を打ってくるのでしょうが、景気対策を「打ち出せば良い」「国民受けするものを行えば良い」ということではないはずです。政府には「政府しかできない真のおカネの使い方」というものがあるので、その点をよく考え、公共投資としての乗数効果が高い、しっかりとした対策を打ち出していくことを期待したいものです。
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