金融危機の当初から流動性確保をしていれば、今回の損失は回避できた
国際通貨基金(IMF)は4月21日、金融危機と景気後退により世界の金融機関が抱える潜在的な損失は4兆540億ドル(約400兆円)に上るとの推計を発表しました。「金融機関の一時国有化も必要となるかもしれない」と指摘しているとのことですが、当初から「米国だけでも500兆円規模の損失を被る可能性がある」と指摘していた私からすれば「今さら何を言い出したのか?」という印象です。
IMFは危機拡大に伴い、世界の金融業界の損失推計を盛り込んだ金融安定報告を数カ月ごとに発表していますが、常に見通しを変えています。まさに「場当たり的な対応だ」と言わざるを得ないでしょう。
そもそも今回発表された4兆540億ドル(約400兆円)の損失にしても、金融危機が発生した当初からきちんと「流動性確保」のために対処していれば、損失にならずに済んだと私は思っています。
私はあらゆるメディアで何度も指摘していますが、金融危機は大きく3つの段階を経て推移していきます。第1フェーズは流動性危機、第2フェーズは不良資産の償却、そして第3フェーズが銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産です。
だから金融危機の最初の段階から、私は米国で500兆円規模、世界全体で1000兆円規模の流動性を確保することが先決だと主張していたわけです。またこの流動性確保のための資金は、米国政府が捻出するのではなく、世界の各国が協力して流動性の供給機関を組織して、そこから供給されるべきだと述べてきました。
これは金融機関を救済するためのガソリンスタンドのような役割を果たすものです。ガソリンスタンドで休んでもらっている間に、良いものと悪いものを見極め、次の第2フェーズに備える体制を作るべきだったのです。それも全て民間ベースで実施するべきだというのが私の提案でした。
このような流動性確保の仕掛けを作らず、どこの国もいきなり「資本注入」「銀行の国営化」を始めてしまったために、今になってみじめな結果を招いているのだと思います。今なお「金融機関の一時国有化も必要となるかもしれない」という見解を示しているIMFには呆れるばかりです。
●米国金融機関の現状も、流動性確保の対策を講じなかったから
また、IMFは2009年4月時点の推計値として、日米欧の金融機関の損失見通しを発表しています。それによると「ローンによる損失合計」は、米国が約100兆円、欧州が約90兆円、日本が約13兆円になっています。「証券化商品による損失合計」は、米国がダントツに大きく、米国が約160兆円、欧州が約30兆円、日本が約16兆円という規模です。
いずれの数値を見ても日本は小さい規模ですから、欧米と一緒になって「金融危機だ」といって騒ぎ立てるほどのものではないと言えるかも知れません。
結局、当初から「流動性確保」の対策を講じていなかったために、欧米でこれだけ大きな損失を招く結果になったのだと私は思います。さらに、この損失額は今回の発表された数値で全てではないでしょう。先ほども述べましたが、IMFは発表の都度「見通し」を変えています。今後、さらに新たな損失が出てくる可能性が高いと私は見ています。
このような中ですが、今後生き残ることができるかどうかの1つの指標が近々発表されそうです。先月24日から米連邦準備理事会(FRB)は、2月から実施してきた大手銀19行の資産査定の結果を各行に通知し始めたようです。
これは、日本当局では実施されなかったもので、いわゆる「ストレス・テスト」と呼ばれるものです。将来厳しい状況が展開したとき、具体的には、株価が下落した場合、あるいは住宅価格が下落した場合などを想定したシナリオに基づいて、各金融機関が絶対安全でいるためには「どのくらいの資本が必要なのか」「それを維持するために資本注入が必要なのか」などを試算した結果です。
先月の初旬には、ストレス・テストの結果ほとんどの金融機関が「耐えられそうだ」という見込みが株式市場に好感を与えていましたが、今回の発表を見る限り、そこまで楽観視はできないようです。ストレス・テストの結果「問題なし」と判断された金融機関もあった一方で、査定で予防的に必要な追加の自己資本額を割り出した金融機関があったことも明らかにされています。
そのような中、現状、米国の景気が回復の兆しを見せ始めているという見解も出てきています。今後の米国金融機関の行方、そして世界経済回復の兆しは本当なのかどうか、注目していきたいと思います。
|