回避できたはずの金融機関損失額「400兆円・・・」|株式・資産形成講座メルマガ

  2009/5/20(水)  
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回避できたはずの金融機関損失額「400兆円・・・」

金融危機の当初から流動性確保をしていれば、今回の損失は回避できた

国際通貨基金(IMF)は4月21日、金融危機と景気後退により世界の金融機関が抱える潜在的な損失は4兆540億ドル(約400兆円)に上るとの推計を発表しました。「金融機関の一時国有化も必要となるかもしれない」と指摘しているとのことですが、当初から「米国だけでも500兆円規模の損失を被る可能性がある」と指摘していた私からすれば「今さら何を言い出したのか?」という印象です。

IMFは危機拡大に伴い、世界の金融業界の損失推計を盛り込んだ金融安定報告を数カ月ごとに発表していますが、常に見通しを変えています。まさに「場当たり的な対応だ」と言わざるを得ないでしょう。

そもそも今回発表された4兆540億ドル(約400兆円)の損失にしても、金融危機が発生した当初からきちんと「流動性確保」のために対処していれば、損失にならずに済んだと私は思っています。

私はあらゆるメディアで何度も指摘していますが、金融危機は大きく3つの段階を経て推移していきます。第1フェーズは流動性危機、第2フェーズは不良資産の償却、そして第3フェーズが銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産です。

だから金融危機の最初の段階から、私は米国で500兆円規模、世界全体で1000兆円規模の流動性を確保することが先決だと主張していたわけです。またこの流動性確保のための資金は、米国政府が捻出するのではなく、世界の各国が協力して流動性の供給機関を組織して、そこから供給されるべきだと述べてきました。

これは金融機関を救済するためのガソリンスタンドのような役割を果たすものです。ガソリンスタンドで休んでもらっている間に、良いものと悪いものを見極め、次の第2フェーズに備える体制を作るべきだったのです。それも全て民間ベースで実施するべきだというのが私の提案でした。

このような流動性確保の仕掛けを作らず、どこの国もいきなり「資本注入」「銀行の国営化」を始めてしまったために、今になってみじめな結果を招いているのだと思います。今なお「金融機関の一時国有化も必要となるかもしれない」という見解を示しているIMFには呆れるばかりです。


●米国金融機関の現状も、流動性確保の対策を講じなかったから



また、IMFは2009年4月時点の推計値として、日米欧の金融機関の損失見通しを発表しています。それによると「ローンによる損失合計」は、米国が約100兆円、欧州が約90兆円、日本が約13兆円になっています。「証券化商品による損失合計」は、米国がダントツに大きく、米国が約160兆円、欧州が約30兆円、日本が約16兆円という規模です。

いずれの数値を見ても日本は小さい規模ですから、欧米と一緒になって「金融危機だ」といって騒ぎ立てるほどのものではないと言えるかも知れません。

結局、当初から「流動性確保」の対策を講じていなかったために、欧米でこれだけ大きな損失を招く結果になったのだと私は思います。さらに、この損失額は今回の発表された数値で全てではないでしょう。先ほども述べましたが、IMFは発表の都度「見通し」を変えています。今後、さらに新たな損失が出てくる可能性が高いと私は見ています。

このような中ですが、今後生き残ることができるかどうかの1つの指標が近々発表されそうです。先月24日から米連邦準備理事会(FRB)は、2月から実施してきた大手銀19行の資産査定の結果を各行に通知し始めたようです。

これは、日本当局では実施されなかったもので、いわゆる「ストレス・テスト」と呼ばれるものです。将来厳しい状況が展開したとき、具体的には、株価が下落した場合、あるいは住宅価格が下落した場合などを想定したシナリオに基づいて、各金融機関が絶対安全でいるためには「どのくらいの資本が必要なのか」「それを維持するために資本注入が必要なのか」などを試算した結果です。

先月の初旬には、ストレス・テストの結果ほとんどの金融機関が「耐えられそうだ」という見込みが株式市場に好感を与えていましたが、今回の発表を見る限り、そこまで楽観視はできないようです。ストレス・テストの結果「問題なし」と判断された金融機関もあった一方で、査定で予防的に必要な追加の自己資本額を割り出した金融機関があったことも明らかにされています。

そのような中、現状、米国の景気が回復の兆しを見せ始めているという見解も出てきています。今後の米国金融機関の行方、そして世界経済回復の兆しは本当なのかどうか、注目していきたいと思います。


講師紹介
大前研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
大前研一

4月26日放送
「大前ライブ」より抜粋し、一部再構成したものです。
大前研一学長語録
 ブレークスルー経済学
「経済学」というと敬遠する人が多いのですが、実際には「論理的に物事を考える」際には、非常に便利な道具(ツール)です。ここでは、毎回、金融・投資環境に関する事柄を経済学的に解説していきます。是非この機会に、使い方も含めて、習得していただけたらと思います。

第94回 『ケインズ政策でうまくいかない理由』

今週、2009年1-3月期のGDPが発表されます。2008年10-12月期が年率12%を超えるマイナスでしたが、それを超える悪化が予想されています。「100年に一度」と言われるくらいの不況下ですから、悪い数字も、ある意味、仕方ないのかもしれません。

ところで、このGDPですが、これって一体何でしょう?

これは「国内総生産」といわれるものです。しかし、一般に「生産」「所得」「支出」は「三面等価の原則」により(事後的には)等しくなることから「国内総所得」と考えても問題はありません。

この「国内総所得」ですが、定義としては下記のようになっています。

国内総所得=雇用者報酬+営業余剰+固定資本減耗+(間接税-補助金)

これを多少強引に「通常の言葉」で書き換えれば、下記のようになります。

・ 「雇用者報酬」とは「賃金や給与」であり、「家計部門の儲け」に当たります。
・ 「営業余剰」とは「企業の利益」であり、「企業の儲け」に当たります。
・ 「固定資本減耗」とは「減価償却費」のことであり、「企業の内部留保」に当たります。
・ 「間接税―補助金」とは「政府に入ってくる税金から、政府が支払う補助金を引いている」ことになるので、プラスの数字であれば「政府の儲け」に当たります(政府なので「儲け」は用語として適切ではありませんが・・・)。

以上から、「国内総所得」とは、それぞれの経済主体(家計、企業、政府)の「儲け」を足し合わせたものということになります。

つまり、GDPが減少していると言うことは、各主体の"儲け"が減少していることを意味します。これは大変ですよね。だから、政府は「何とかしないといけない」ということで、いろいろと追加的に経済対策を打っているのです。

この場合、企業の利益を高めるには売上が高まれば良いわけですから、消費が喚起されれば、企業の売上が伸びると思われます。とはいうものの、特に先進国においてはモノが余っているので、企業が頑張ってみても、なかなか消費に結びつかないのが現実です。

とはいえ、何らかの形で家計の可処分所得が増加すれば、たとえ、モノが多少余っていても消費が伸びるという可能性もあります。

そこで「消費を伸ばす」ということを考える場合、思い浮かぶのが「ケインズ型消費関数」という考え方です。「ケインズ型消費関数」は下記のような式で表すことができます。

C=A+cY (但し、C:消費、A:基礎消費、c:限界消費性向(0<c<1)、Y:可処分所得)

この関係が正しいと仮定すると、可処分所得(Y)を増やすことができれば、その増加分に限界消費性向cを乗じた額だけ消費Cを増やすことができることになります。ということから、政府は借金をして家計に定額給付金というおカネを配ることにより、家計の可処分所得を増やすことにしたわけです。

しかし、ここでの問題は「限界消費性向が一定」と仮定していることです。確かに限界消費性向に変化がなければ、可処分所得が増えた分のいくらか(限界消費性向分)は消費として使われることになります。ところが、現下の不況(というよりも「恐慌」)の状態において、平時と同じように消費をすると考えるのは困難と言わざるを得ないと思います。

なぜなら、現状において可処分所得が増加した場合、貯蓄率を高めようと努力することはあっても、消費を増加させようとは思わないはずですから・・・。

これは、つまり、「限界消費性向が低下する」ということを意味するので、その場合には、たとえ、降って湧いたように可処分所得が増えても、その増加の多くが「貯蓄」に回ってしまうため、消費は思うように増えないことになります。まして、この「降って湧いたようなおカネ」は、結局、数年先に予定されている増税によって支払うことが決まっているおカネです。そのようなおカネを「増えたから」と言って、そうそう使うわけにはいきませんよね。

さらに、現在の政府債務残高は現在の名目GDPの1.7倍になっています(一般政府のみ)。

つまり、そうでなくても増税になりそうな状態において「さらに(国債発行を)増額」ということになっているのだから、限界消費性向はますます低下することになるでしょう。

けれども、「貯蓄が増加している」とすると、どこかに資金は移動していることになります。その行きつく先が「企業の設備投資」になっているのであれば、家計消費にならなくても、企業投資になることを意味するので、GDPを増やす方向に役立つことになります。

一般に「家計の貯蓄」は金融システムを通じて「企業の投資に向かう」と考えられることから、家計の可処分所得が増加すれば、上述の「限界消費性向」が低くなっていたとしても、国内経済全体を考えれば、GDPの増加要因になると考えられています。

ところが、この「金融システム」に問題があるのです。

日本では家計貯蓄の大半が「現金」「銀行預金」になっています。つまり、多くが銀行等に流れ込んでいるのです。したがって、銀行等が企業に貸出をドンドンと行えば、資金が企業に流れ込み、企業投資が増加することにより、GDPを押し上げることになります。けれども、実際にはそのような状態になっていません。

直近の日銀短観(2009年3月調査)によれば、大企業および中小企業ともに、金融機関の貸出態度が厳しくなったという回答が増加していることがわかります。

銀行等は企業への貸出を増やさずに何をしているのでしょうか

リーマンショック前であれば、外国証券等で運用をしていたのですが、最近は国債などで運用しているものと思われます。以上から、資金循環は下記のようになっているようです。

政府は借金(国債)をして資金をつくる。 家計は、政府から定額給付金を受け取り、可処分所得が増える。 しかし、家計はそれを消費せずに銀行等に預ける。 銀行等は企業への貸出をするのではなく、国債を購入する。

ここで「政府の借金」は、それ、すなわち「家計の借金」ですから、それを考慮すれば、家計はおカネを借り入れて、それを将来返済するために預金にしているということになります。つまり、全く意味のない「おカネのバケツ・リレー」を国家レベルで行っているだけということになります。

ここから見えるように、現状の日本において必要な政策は、家計に使われず残っている「貯蓄」を「如何に消費に回せるか」ということになります。銀行等が当てにならない以上、家計に貯蓄を使わせる方向で政策を考えなければ、いつまで経っても「おカネのバケツ・リレー」は終わらずに、景気回復もないままに、政府債務だけが積上がることになるでしょう。


講師紹介
前田拓生
前田拓生(Takuo Maeda)

ビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジ
株式・資産形成講座 講師
高崎商科大学大学院 高崎経済大学経済学部 他で
「金融論」関係の講義を担当。
著書:「銀行システムの仕組みと理論」大学教育出版
編集後記
 編集後記
事務局 一戸
グローバルマネー・ジャーナル第100号、いかがでしたでしょうか。

今回で、このメールマガジンも節目の100号を迎えました。

これもひとえに、ご愛読いただいている皆さんのおかげだと感じております。


どん底の金融危機から半年が経過し、株価の乱高下も一段落。 そろそろ皆さん次なる投資機会をうかがっているタイミングかと思います。


ここで改めて、投資は論理的に考えることが大切です。

現在、またはある程度近い将来に需要が見込める製品を見聞きした際、それを作っている企業そのものに投資することもその通りですが、その企業が儲かることで好影響を受ける企業がどこかにないのかを筋道立てて思い巡らせることが投資チャンスを広げてくれます。

きっかけはどんなことでも構いません、ぜひ日常の身近な出来事からでも、意識的にそうした考え方をする癖をつけてみることをお勧めします。

来週のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!    

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