米国政府関係者の景気回復発言は本当に信用できるのか|株式・資産形成講座メルマガ

  2009/6/10(水)  
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米国政府関係者の景気回復発言は本当に信用できるのか

米国の実体経済はいまだに悪化を辿っている

米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、米景気の先行きについて強気の見方を示し始めました。5月上旬の議会証言では「昨秋以降の急激な景気悪化は早晩かなり緩やかになる」と述べ、景気が年内に底入れするという認識を示しています。また5月17日、米オバマ政権下のピーター・オルザグ行政予算管理局(OMB)局長も、米国の景気について、急激な下降には歯止めがかかったと述べ、景気悪化のペースが鈍化したとの見方を示しました。

このように現在、バーナンキ議長をはじめ、米国の政策関係者が口をそろえて「米国の景気悪化のペースが鈍化している」という類のことを述べています。これは、日経電子版にも寄稿しましたが、「フェイント」に過ぎません。

世界中に向けて米国経済は安全だというアピールをすることで、投資資金が米国に集まってくる可能性があります。それを狙った心理作戦であり、よくよく聞いてみると「悪化のスピードが緩やかになった」などの表現を使っていて、「悪化していない」とは誰も言い切っていません。

実際、米国経済の状況は、09年の経済成長マイナス2.0%という見込みになっています。さらに失業率はかなり高い水準になっており、私が以前から指摘しているように10%に届く勢いを見せています。かつて米国の経済関係者のほとんどは、失業率は6%が上限だという見方をしていましたが、今や誰もそんなことは言わず、「高失業率がしばらく継続するだろう」という言い方に変わってきました。



また、対前月比で雇用者数の増減を見ると、2008年前半の雇用減は20万人に満たない割合でしたが、2008年11月以降、60万人を超える雇用減も見られるようになり、それはいまだに続いています。4月も40万人を超える雇用減を記録しており、回復している兆しがあるとは言えるものではないでしょう。さらに今後、自動車販売会社が25%減少させられますから、この数字は加速する見込みが高いと私は思っています。

米国住宅市場に目を向けると「フェイント」の実態がさらに明確に理解できます。米商務省が5月19日に発表した4月の住宅着工件数は、季節調整済みの年率換算で前月比12.8%減の45万8000戸となり、今年1月に記録した過去最低を更新しています。

2005年・2006年はほぼ150万~200万件で推移していて、少し悪化の兆しが見え始めた2007年でも100万件を維持していました。それが今や45万件ですから、つるべ落とし状態です。「悪化はスローダウンしている」などと言うような状態ではないのは、明らかです。

中古住宅の在庫も増えてきているので、今後の見通しも明るくありません。住宅は経済の要です。この点を見ても、米国経済の悪化に歯止めがかかったというのは、真に受けられない発言だと理解するべきでしょう。


●新興国へ流れる資金、米国債から離れる資金

ただ一方で、米国の狙い通り、「フェイント」の効果も見え始めています。

投資資金がオーストラリアドルなどの比較的金利が高い新興国・資源国通貨に流入し始めています。 投資家が先行きの世界経済の底入れを見越し、昨年秋以降の金融危機で円やドルに逃避させた資金を再び振り向けたからだと言われています。実体経済の行方はなお不透明ですが、日米の金融当局などが明るい見通しを示し始めたことも投資を後押ししているとのことです。

こうした動向において抑えておくべきポイントが2つあると私は見ています。1つは、いわゆるホームレスマネーと呼ばれるものが新興国に流れているということです。そしてもう1つは、米国債に集まっていた投資資金が株など他の金融資産に流れ始めており、米国債の調子が良くないということです。



第1点目について、2009年の主な資源国・新興国の通貨騰落率の推移を見てみると、南アランド、豪ドル、NZドル、ウォンなど3月に記録したマイナス5%~15%の最悪期を脱して、プラスに転じてきています。ウォンは特に対円ベースではいまだに高い水準とは言えませんが、南アランド、豪ドル、NZドルなどの上昇は、円・米ドルに逃げていた投資資金が着実に新興国に流れ始めているのを物語っていると思います。

またここに来て、米国10年債の利回りが高止まりしていますが、これが2点目で指摘したポイントです。年初には2.5%だった長期国債の利回りが、3.0%を超えて、ついに3.45%に達しています。株などの他の金融資産に資金が逃げないように、米国債に資金を引き止めるために利回りを高くしているのです。

需給バランスを考えるとすでに買い手がいなくなってきているのでしょうが、供給側としてはすでに輪転機を回してしまっているので、何とか買い手をつけなくてはいけない状況なのだと思います。結果、金利が高止まりするということになっています。

買い手を確保したいという心境は理解できますが、こういうことをすると米国債に対する信認が少しずつ失われてしまう気がします。そうすると結果的に、別のところへ投資資金は流れてしまうので、本質的な解決策にはならないと私は思います。

米国債がこのような状況にあっても、日本や中国は米国債を買い続けるのか?という疑問を抱く人もいると思いますが、結論として現在のところ米国債に代われるほど大きなバスケットを有しているものがありません。

最有力候補となるのは、勿論ユーロです。しかし、そのためにはユーロが明確なポリシーを示してくれる必要があるでしょうが、サルコジ・メルケルといった欧州の指導者層の意見が一致せず、落ち着いて話がされていません。ここに現在の欧州最大の問題があると思います。7月にはイタリアでG7+1が開催されるので、ぜひともまともな話し合いが実施されることを期待したいと思っています。


講師紹介
大前研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
大前研一

5月24日放送
「大前ライブ」より抜粋し、一部再構成したものです。
大前研一学長語録
 ブレークスルー経済学
「経済学」というと敬遠する人が多いのですが、実際には「論理的に物事を考える」際には、非常に便利な道具(ツール)です。ここでは、毎回、金融・投資環境に関する事柄を経済学的に解説していきます。是非この機会に、使い方も含めて、習得していただけたらと思います。

第97回 『「株価」ってどのようにして決まるの?!?!』

株式市場では、毎日、株価が表示されていますが、一体、どのようにして決まっているのでしょうか?

このように尋ねられると意外に答えられない人が多いものです。スーパーなどの店頭にならぶ商品はすでに「値段」が表示されています。それを消費者が買うということになりますから、株価も「誰かが決めている」と思っている方もいらっしゃるのかもしれませんね。

しかし、株価というものは、特定の「誰か」が決めるものではありません。投資家が思い思いに「売り」「買い」の注文を出すことによって、ルールに従い、市場で決められることになります。

どのように決まるのかは、ここで順を追ってお話しすることにしますが・・・

例えば、今、500円で値段が付いているとします。この場合、一般に「現在の株価は500円です」と表現しますが、この表現は正確ではありません。実際は「直近の株価は500円です」が正しい表現と言えます。「何だぁ~、同じではないか」と思われるかもしれませんが、この2つの表現は全く違います。

というのは、「現在の株価は500円です」だと、500円で「売る」ことも「買う」こともできると考えられるからです。しかし、実はこの場合「500円で必ず取引が成立する」とは限らないのです。というか、ほとんどの場合、500円では取引ができないことの方が多いのです。なぜなら、売るためには「買い」がなければいけませんし、買うためには「売り」がなければならないからです。

したがって、現状は「過去のうち、一番近い時点において、取引が成立したのは500円です」というのが正しいのであり、その意味において「直近の株価は500円です」が正しいといえるのです。

ここで理解していただきたかったのは、「直近の株価が500円」であっても、当該株式を500円で「買えるのか」「売れるのか」は、これだけの情報ではわからないという事実です。いくらで「買えるのか」は、現在、「売りたい」という注文が「いくら」で「どのくらいの数量が入っているか」に起因ことになるのです(「売り」の場合、逆は逆です)。つまり、「直近の株価が500円」であっても、500円では誰も売りたい人が存在しない状態になっていれば、その段階では、500円では買えないことになります。同様に、500円で売りたい場合であっても、その時に500円で買いたいという注文が入っていなければ、売ることはできないのです。

したがって、証券市場では「売りたい」という注文、または、「買いたい」という注文が「どの株価にどのくらい入っているか」という情報が非常に重要になるので、これは証券会社に聞けば教えてくれますし、ネット証券であれば、画面で確認ができます。このような「未成立の取引注文状況」を一覧表にまとめたものを「板」といいます。投資家はこの「板」」の情報を確認しながら、「売り」「買い」を行うことになるのです。

まぁ、「売り」「買い」と言う意味では若干違いますが、日常生活の例でいえば、スーパーで夕方に値引きシールの貼っている商品ってありますよね。その値引き率を見ながら商品を物色するみたいなものです。値引きシールの貼っている商品は、言わば「売り注文」ですから、その商品が「安い」と思った顧客が買うわけですよね。株式市場でも同じように投資家が"鵜の目""鷹の目"で板情報を見ながら売買を行うことになるのです。

このように「株価」とは「誰か」が決めるのではなく、投資家が「買いたい」と思えば、現在、一番安い「売り注文(例えば、「501円で1000株売りたい」と言う注文)」をみながら「これで買って儲かるか」を判断し、「儲かる」と思えば、その売り注文を目指して買い注文を出すことになります。とはいえ、この板は投資家すべてが見ているわけですから、他の人が先に注文を出してしまうと、売りはなくなり、買えなくなってしまう場合もあります。これは先ほどのスーパーの例でいえば、「オッ! 安い」と思い、買おうと手を出した瞬間、隣の方にいち早く取られてしまったという状況と同じです・・・汗

以上、株価の決まり方についてお話ししました。このことから、例えば、上昇しそうな状態では「売りたい」と思う人は少ないはずですよね。また、もし「売る」のであれば、高い値段で売りたいと思うでしょう。それは誰しもそう思うはずですから、上昇しそうな株式の「売り」は少なく、かつ、直近の株価よりも高い値段で売り注文が存在することが多くなるのは当然といえます。

他方、同様に上昇しそうな状態の場合、「買いたい」という人は多いのですが、本当に上昇するのか否かは、実際には将来にならないとわからない上に、できるだけ、安く買いたいと思う気持ちは常にあるので、高い価格で存在する「売り」には容易に飛びつかないものです。とはいえ、「買いたい」という気持ちも強いので、その場合、できるだけ安い値段で買おうと、直近の株価に非常に近い価格帯において買い注文が多く集まることになります。

このような状態において、悪材料が生じても、売り注文は直近の株価近くに存在する多くの買い注文によって吸収されてしまうので、下げが限定的になる場合が多いのです。逆に、良い材料が生じた場合、売り注文は少なく、かつ、高い価格でないと存在しないため、買いたい投資家は高い売りものを買わざるを得なくなり、強い上昇につながることが多いといえます。

現在、まさに、このような相場展開になっていると思います。ところが、将来「高くなる」のか「安くなる」のかは、実際には「神のみぞ知る」ということですから、「絶対に上がる(または、「下がる」)」という確信は、どの投資家もありません。したがって、ここに投資家の「思惑」というものが働くと考えられています。

現在の相場において「どのような思惑が働いているのか」といえば、買い手はかなり楽観的になってきていて、「何とか買いたい」と思うものの、安い値段を知っているものだから、直近の株価では買いたくないと思っているように感じます。他方、今、安い時に買った投資家は、そろそろ「利」が乗っているところなので、売り場を探しているというところでしょう。でも、直近の株価では売るのも「惜しいなぁ~」と感じているのかもしれません。

このような状態なので、ちょっと良い材料が出れば、結構強い上昇になるものの、日経平均が1万円に近付けば、売り注文が増加するので下げてしまう。他方、悪い材料が出ても、「安いところは買いたい」という買い手が多いことから、売り注文は、この直近株価近辺に存在する買いによって吸収されてしまうという展開になっているものと思われます。

そういう意味で専門家の多くが「この1万円をどのように上に抜けるか(または、抜けないか)がポイント」というコメントを出すのです。

しかし、この「思惑」というものは、意外と複雑なので、専門家でもそれを正確に読み解くことはできません。正確に読めないから、専門家も相場を読み誤るのであり、それがわかれば「勝った」も同然です。

確かに、現状「1万円」はポイントであり、これを超えれば、「そのまま上昇」ということも考えられます。けれども、リーマンショック以降、投資家の保有株式は大幅に痛んでいます。そのような状態において「損切り」を決断するのも、この値くらいからと思われます。さらに「また大きく下がるかも・・・」というような事態が想像させる材料が出た時には、リーマンショックの時の恐ろしい記憶が蘇り、「売りたい」という注文が一斉に出てくる可能性も否めません。そういう危険性が、現状、十分考えられるということは忘れないように、常に注意をしておくことが必要な時期かもしれません。


講師紹介
前田拓生
前田拓生(Takuo Maeda)

ビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジ
株式・資産形成講座 講師
高崎商科大学大学院 高崎経済大学経済学部 他で
「金融論」関係の講義を担当。
著書:「銀行システムの仕組みと理論」大学教育出版
編集後記
 編集後記
事務局 一戸
グローバルマネー・ジャーナル第103号、いかがでしたでしょうか。

このメルマガでも一部抜粋提供している、金融リアルタイムライブの「各国株価指数」のスライドを毎月作っていますが、最近のインド(SENSEX)の戻り具合には驚きました。

わずか2か月ほどの間に、昨秋のリーマンショック前の状態まで急回復!

また、シンガポール(STI)や香港(ハンセン)なども同様の回復力を見せています。

まだまだ金融不況が続く中ではありますが、米国をはじめとした主要各国の底堅さ(実際には今日の大前研一コメントにあるフェイント効果)を反映してか、新興市場にお金が戻っていることを実感します。

急速な戻り具合にはやや不安がありますが、これからは再び新興諸国含め、先進国以外の国々にも目を向けていきたいと思っています。

来週のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!    

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