今後の為替相場、テーマは「主要国金利政策がどうなるか」|株式・資産形成講座メルマガ

  2009/9/9(水)  
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今後の為替相場、テーマは「主要国金利政策がどうなるか」

もはや為替において「リスク選好なのか、リスク回避なのか」を心配する必要はない!?

今日は、この先の景気展開についてお話します。 今でもまだ「リスク選好か、リスク回避か?」を重要なキーワードに、為替の世界や相場動向を説明する場合が多いようです。しかし5月以降、景気見通しがかなり進んでいます。「景気が回復するのか、それとも腰が折れて悪化するのか」を心配する必要はもうなくなってきた、もう景気回復基調だという方向で固まってきているのではないでしょうか。

そういう意味で、「景気先行き不安でリスク回避」とは、なかなかなりにくいと私は思います。 「リスク選好か、リスク回避か」という軸よりも、むしろリスク選好が大前提だと見ておいたほうがいいでしょう。いま言われているリスク回避は、むしろ正確には「リスク選好の一時的な調整局面」と言ったほうが正しいかもしれません。過去のリスク回避とは、ちょっと意味合いが違っているような気がします。 つまり、リスク選好かリスク回避のどちらに転ぶか判らないのではなく、「リスク選好がベースラインであり、それが強いのか、ちょっと一端様子見なのか」という相場になってきている。それを前提に為替を考える必要がある、ということです。


■今年4~6月期の株価動向は、「景気持ち直し方向」だが、はたしてその後は......?

では、そうなると何がどう変わってくるのでしょうか?  株価動向は、やはり一つの指標として見られています。ですから、株のインパクトが少し弱まってきて、金利差や景況格差に基づく金利差が、為替にも徐々にインパクトを与え始めるのではないかと私は見ています。


OECDの景気先行指数を見てみると、ここ最近の景気動向は更に最悪期を脱した動きが明確になってきている、急な動きになっていると言えます。まだマイナズゾーンではありますが、トレンドとしては明確にリバウンドしてきています。そういう動きを見ると、もし投資家がリスクを取っていなかったとしたら、リスクポジションを増さなければいけないということになってもおかしくないでしょう。

では次に「景気のサイクルと、どこにお金を持っていくか」です。 景気減速、利下げをしてインフレも沈静化し、そこにさらに景気対策が打たれています。それに沿って景気がリバウンドしてきていますから、お金が株に行くのは当然でしょう。 それをこの4~6月期に一気にやってしまったというのが、この先どうなのだろうかと思わせる要因です。もちろん流れは景気持ち直し方向ですから、株が反転下落するということではありません。いわゆる直近でリバウンドしている2009年3月から「一気に株価上昇に転じていく」「とにかく買っておけば間違いない」というところから比べると、そのスピードは変化し、今後は景気回復基調を一歩ずつ踏みしめながら上がっていくような相場になると思います。


■相場が景気回復基調へと向かう時、重要なテーマとなるのが「主要国金利政策の動向」

相場が景気回復基調へと向かう時、為替を見るにあたっても、やはり金融政策へ目が向いてきます。「今後の金融政策がどうなるのか?」が、徐々に相場のテーマになっていくと思います。


ただし現状の短期金利の動きを見ていると、すぐに利上げなどの大きな変化は見られません。先進国の3カ月物金利を見ても、オーストラリアとニュージーランドは相対的に比較的高いものの、他はほとんど差がありません。ですから短期金利の世界では、まだなかなか金利差がつきにくいというのが現状だと思います。そして金融緩和や量的緩和から、景気が底を打った流れの中で今後、「金融政策の正常化に向けた動きをいつどの国が始めるのか?」がテーマになってくるでしょう。

私は、やはりオーストラリアがいちばん早いと思います。前回、金融緩和から金融引き締めに転じた時もオーストラリアはいちばん早く、他国が利上げに転じたのはその後でした。実際、オーストラリアは、すでに金融政策の決定価格のスタンスが中立になっている、緩和気味のスタンスをやめつつあるなどの動きを見せています。ですから今回も、どうやら利上げに転じるのはオーストラリアがいちばん早そうです。

あとは欧州、日本、米国で考えた場合、日本はほとんど変化ありません。米国は、まだゼロ金利政策・量的緩和を続けていますが、米国債の買い入れ自体は今年10月で一応終了とすでに決めています。一方で例えば英国は、量的緩和拡大、買い入れ額の拡大に動いており、まだ金融政策の強化に動いているなど、各国の動きに少しバラつきが出てきています。ここから先、短期金利はそう簡単には動きませんが、そのあたりのスタンスをにらんだ中長期金利の動きにバラつきが出ており、金利差額も動いてくるでしょう。

今までは、株価動向で為替相場がリスク選好かリスク回避かと動いていました。しかし今後はそうではなく、「景気格差あるいは金利差が反映されるような動き」に徐々になっていくでしょう。少し先でその辺が焦点になり、2年債の利回りの金利差や10年債の金利差などが、今までよりも為替相場への影響を強めてくると私は予想しています。


講師紹介
大前研一
ドイツ銀行グループ ドイツ証券
シニア為替ストラテジスト
深谷 幸司

5月22日放送
「金融リアルタイムライブ」より抜粋し、一部再構成したものです。
大前研一学長語録
 ブレークスルー経済学
「経済学」というと敬遠する人が多いのですが、実際には「論理的に物事を考える」際には、非常に便利な道具(ツール)です。ここでは、毎回、金融・投資環境に関する事柄を経済学的に解説していきます。是非この機会に、使い方も含めて、習得していただけたらと思います。

第108回 『「BIS規制を8%から12%へ」は誰のため?!?!』

リーマンショックからほぼ1年ということで、先日開催されたG20では、金融機関への規制問題を中心に議論されたようです。「税金で助けてもらっているのに、業績が良くなれば、すぐに巨額のボーナスを支給するのはどういうことか」というような企業倫理に関するような議論もあったようですが、概ね、金融機関の重要性は認識しつつ、どのように規制をしていくかという部分について話し合われた模様です。

しかし、金融システムについては、英米のように市場中心型の国がある一方、欧州および日本のように銀行中心型の国もあり、一見、グローバルの象徴に見える金融業界も、実はかなりローカル性の強い業界だったりするので、世界標準的な規制というのは、非常に難しい作業なのです。加えて、「金融」自体が、その国の歴史的な経緯に基づいて発生しているという部分が強いので、規制のかけ方だけでなく、その規制の効き方も違ってくることが多いものです。

そういうことから「金融機関への規制」は、各国の首脳会議などで取り上げられても、そう簡単に結論が出ないイシュー(論点)の一つになっています。

実際、今回のG20でも各国が持ち寄った「規制」の策はまちまちであり、それぞれ当該国では効果があったとしても、他の国では実効性に乏しいものが多く、場合によっては実体経済にとってかなりのダメージをもたらすものもあります。まぁ、「外交」も「戦い」ですから、できるだけ自国に有利な規制を採択させようとするわけであり、経済的に他国がダメージを受けるくらいの「規制」の方が、自国産業保護につながるわけで、そのような「案」を提示するのも「当然」といえば当然なのかもしれません。

その例が、今回の米国の提案する「銀行の自己資本比率規制の強化」だと私はみています。

「自己資本比率規制」とは、1988年にバーゼル銀行監督委員会が発表した「バーゼル合意(BIS規制)」が有名ですが、現在、それを抜本的に見直した「バーゼル2(新BIS規制案)」へ移行することを予定しています。ここでは細かいことはさておき、この規制では一般に「銀行は8%以上の自己資本が必要」として国内でも知られています。

話を戻しますと・・・

この「8%」を「12%にしよう」というのが、米国の主張です。今回のリーマンショックによるパニックは、リーマン自体の問題もあるものの、銀行が自己資本以上に「リスクを抱え過ぎていたためだ」というのが米国の考えです。実際、銀行の自己資本比率を高めさせれば、レバレッジ(てこの原理)効果が低くなるため、今回のような世界的な負の連鎖は起こらなかった可能性があります。その意味で「効果的」といえば、そうかもしれません。

けれども、それは「米国」だからであり、また、今回のパニックは「銀行システムの問題」というよりも「証券のトレーサビリティ(原材料等の追跡可能性)の問題」と考えるのが一般的ですから、銀行の自己資本比率の引き上げが「効果的である」ようには思えません。

まぁ、米国の国民としては「自己資本が少ないから税金をつぎ込まざるを得なかった」という思いが強いことから、「銀行はしっかり自己資本を積んでおきなさい」という気持ちで、自己資本比率規制の強化がコンセンサスになっているのでしょう。また、米国の金融システムは市場型であり、現状、パニック的な状態からは脱しているので、証券による資金調達が、ある程度、スムーズになっていることから、銀行へ圧力をかけても問題が少ないという政治判断をした可能性があります。しかも、米国では歴史的に(少なくとも日本よりも)自己資本比率は高いようですから、「12%だから」といっても、平時でもそのくらいは「当たり前」として、銀行経営者も考えているのかもしれません。

以上から、自己資本比率を「8%→12%」にすることは、米国の国民受けがよく、しかも、米国経済においては実害が少ない上に、「規制の強化を打ち出した」と世界的にアピールすることができるという点で、(外交的には)かなり有効な策と言うことだと思います。

他方、日本では・・・

自己資本比率規制の強化は、銀行中心型の国にとって非常に大きなことなのですが、特に日本では厳しい状態になります。そもそも日本は、他の国に比べて今回のリーマンショックで経営的な痛手が少なかったことから、資本注入にはあまり力を入れていなかったため、自己資本は相対的に薄い状態になっています。また、邦銀の自己資本比率は、欧州勢に比べても歴史的にあまり高くなく、BISについての合意でさえ、渋々という感じであったくらいですから、ここで「バーゼル2を上回る規制」となると邦銀の反発は必至でしょうね。

とはいえ、そもそも自己資本比率規制というのは「預金の保全」という点では意味がありますが、金融機関の規制としては、単に総量規制をかけているだけであり、これを強化すると「貸し渋り」「貸し剥がし」が横行するだけであり、逆効果の方が強く出ると考えています。況してや「証券のトレーサビリティの問題」に手を付けないまま、銀行部門の総量規制を行ってみても、全く解決策にはならないはずです。とはいえ、世界的には「それもありかなぁ」という対応ですから、このままだと、規制の強化が実施される可能性の方が高いように思います。

では、この自己資本比率規制が行われた場合の日本経済への影響ですが・・・

まず、邦銀の業績に大きな影響が出ることになります。ここで簡単なモデルを使って、影響を見ていきたいと思います。現状、邦銀もBISが「8%以上だから」といって8%ぎりぎりで良いわけではなく、12%くらいは保っているとは思います。だとすると、「8%→12%」になっても「何もしなくていいのでは」と思うかもしれません。しかし、「12%以上」なので、それなりにバッファー(緩衝材)が必要になることから、規制強化に伴い、新たに自己資本を積むか、それとも、総資産を減らさざるを得ないことになるはずです。

したがって、ここでは8%の自己資本が12%になった時、銀行資産を減少させて対応したとして考えてみます。とりあえず、単純化のため銀行資産はすべて「貸出」とし、貸出金利は5%とします。また、自己資本は現在1兆円あるとし、貸出対象先の債権は100%のリスクアセットとします(つまり、額面通りの資産評価)。そうすると、8%の時の貸出総額は12兆5000億円だったものが、12%になると8兆3333億円になり、4兆円くらい減少してしまいます。これを業績の観点からみると、8%の時、金利収入が6250億円あったものが、12%になると4170億円に減少することから、33%超の減益要因になってしまいます。

これはモデルであり、これほど単純ではありませんが、「単に自己資本を4%増やすだけ」といっても、銀行にとっては非常に大きな影響が出ることがわかると思います。

影響はこれだけではなく、中小企業への貸出にも出てくることになります。なぜなら、BIS規制における自己資本比率の計算においては、リスクを考慮することになっているので、分母にあたる「総資産(貸出等)」を、なるべく安全性の高い資産にしようとするからです。そのため、リスク度合いが高いとされる中小企業への貸出は減少し、リスク度合いの低い日本国債や米国債のような公社債の運用を増加させる可能性が高くなるのです。

つまり、銀行の「貸し剥がし」「貸し渋り」が増加する一方、米国債などの運用を増加するということになるわけです。これって、誰に有利なのでしょうか?

「金融機関の健全化」を"錦の御旗"にして、各国の銀行に国債を、あわよくば「米国債」を買ってほしいという意向が窺えるのですが、どうなのでしょうね。


講師紹介
前田拓生
前田拓生(Takuo Maeda)

ビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジ
株式・資産形成講座 講師
高崎商科大学大学院 高崎経済大学経済学部 他で
「金融論」関係の講義を担当。
著書:「銀行システムの仕組みと理論」大学教育出版
編集後記
 編集後記
事務局 一戸 グローバルマネー・ジャーナル第114号、いかがでしたでしょうか。

おととい、神奈川歯科大学が悪質な投資ファンドを通じた取引で、直近5年間で50億円以上の巨額損失を計上し、更に通常の運用損も含めると、こちらは直近2年間で90億円近くの損失になるというニュースを目にしました。

不透明なファンドとの取引は稀だとしても、昨今の大学資産運用は多くのところでマイナス成績だと聞きます。

運用をプロのファンドに任せることについても、期待値に程遠い結果しか出ないのであれば、運用損失に加え、プロを雇った高額コストも上乗せ負担することに。

更に、本来施設完備などに直接あてられるはずの寄付金が資産運用の穴埋めに使われるようなことになれば、まさに最悪です。

個人投資家に対してよく言われる「投資はあくまで余資で」というフレーズですが、大学運営のための運用もこれと同じ。

過剰なリスクにはくれぐれも注意が必要ですね。

来週のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!    

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