上場廃止企業数は、法人税制の改正で減っていくだろう
帝国データバンクが8月10日発表した「上場廃止企業実態調査」によると、年初から7月末までに上場廃止となった企業数は110社。業界再編やグループ再編による上場廃止が増えているほか、経営破綻による上場廃止も増加。過去最多だった2008年の149社を上回るペースで推移しているとのことです。
上場廃止企業数が過去最多を上回るペースと聞くと、いかにも不況の影響で経営悪化した結果だと思ってしまいますが、実はそうではありません。理由別の上場廃止件数を見ると、完全子会社化(34件)、株式の全部取得(29件)が大きな割合を占めており、経営破たん(24件)、虚偽記載(4件)、時価総額基準(3件)などの理由はそれほど多くないことが分かります。
先日、政府は企業グループに対する法人税制について見直しに入ったことを発表しました。それによると、親会社がグループ内の100%子会社から受け取った配当を課税所得に算入しない仕組みを導入するとのことです。これが実現すると上場廃止理由でトップを占めている「完全子会社化」「株式の全部取得」をする必要がなくなっていくだろうと私は見ています。
現在の法人税の仕組みでは、子会社からの配当を親会社が受け取ったときにも課税されていますが、これはおかしな考え方だと私は思います。なぜなら、そもそも配当とは税金を払った後に支払われるものだからです。
こうした仕組みになっているために、税効率や決算を考慮した結果、大企業は利益を出している子会社を非上場にして、100%子会社として再吸収することを考えます。それが今日の上場廃止企業数の増加につながっているのだと私は思っています。
完全子会社化をしなくても、100%子会社から受け取った配当を課税所得に算入しない仕組みになれば、「子会社を独立させて上場させてみたものの、税効率も良くないから、今度は非上場に戻して再吸収してしまおう」というような"方針の定まらない子会社運営"の改善にもつながるので、私は非常に良いことだと思います。
●チャイ・エックスの買収は、野村にとって大成功事例だ
8月12日、野村ホールディングス傘下で欧州株を中心に私設株式市場を運営するチャイ・エックスは、シンガポール取引所と共同で日本株を含めたアジア株の大口取引サービスを始めると発表しました。両者は折半出資で運営会社を設立し、2010年前半にサービスを始めるとのことです。
野村が2007年に買収した米エージェンシーブローカー大手のインスティネット社が、今のチャイ・エックスにつながっています。当時からインスティネット社は米機関投資家向けの委託電子取引をグローバルで取り扱っており、野村のハイテク電子取引システムを強化する戦略の一環として傘下に組み込まれました。
シンガポール取引所と言えば、東証も株を保有していて、日本と関係性が深い取引所ですが、実は今回の動きは東証を否定することにつながる側面があります。チャイ・エックスは、専門家によるプライベート取引において大きな強みを持っており、アジア株に乗り出した際には、東証の取り扱いシェアにも大きな影響が出てくると思います。
実際、チャイ・エックスの強さは、欧州の主な株式指数売買の取り扱いシェアに顕著に現れています。例えば、FTSE100(英)の取り扱いシェアでは、証券市場:65.7%に対して、チャイ・エックス:21.9%まで伸びてきています。その他、Dax30(独)、AEX25(蘭)、CAC40(仏)などでも、チャイ・エックスは15%強のシェアを獲得しています。
手数料が安く、アルゴリズム取引に対応できるシステムレベルの高さ、という点がチャイ・エックスの強みです。現在のところ、既存の取引所ではチャイ・エックスのシステムレベルに追いついていません。これは東証にももちろん当てはまることです。
ロンドン証券取引所の7月月間の証券会社別の株式売買シェアで、野村グループが初めてトップになったというニュースがありました。昨秋に買収したリーマン・ブラザーズ欧州部門の取引システムや顧客網が本格的に寄与し始めたという見方もあるようですが、私は違うと思います。
リーマン・ブラザーズを買収したからではなく、チャイ・エックスによるシェア獲得が大きな要因だと思います。野村にとって、チャイ・エックスの買収は、野村の数ある買収施策の中で、際立って成功し、利益に貢献している事例だと言えるでしょう。
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