もはやドル下落の要因しか残されていない
バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は1日の議会証言で、ドルを基軸とする国際通貨体制の見直し論が浮上していることに関し「近い将来に起きるリスクとはみていない。ただドル安がインフレにつながることを視野に入れる必要がある」と語りました。世界の外貨準備に占める米ドルの比率が一段と低下しています。また、国際通貨基金(IMF)によると、6月末時点で各国・地域が保有する外貨準備の米ドル比率は62.8%となり、欧州連合(EU)の単一通貨ユーロが導入された1999年以来で最低を更新しました。
世界銀行のゼーリック総裁が「世界の主要基軸通貨としてのドルの地位を当然視するべきでない」という不用意な発言をしてしまい、ドル不安定を助長させる結果となっています。バーナンキ議長としては、「近い将来の話ではない」と反発せざるを得ないのは当然でしょう。
ただバーナンキ議長の気持ちは分かりますが、実際のところ外貨準備の通貨構成比率の推移を見ると、ドルが基軸通貨としての力を失いつつあるのは明白です。99年には外貨準備におけるドルの構成比率は約75%でしたが、現在わずか62%にまで低下しています。これだけを見ても大変な下落率です。
一方、ユーロは99年当時20%に満たなかった構成比率を現在では27%にまで上昇させてきています。欧州諸国においてリスボン条約の批准が進んでおり、今後はますます「欧州=1つの国」という体裁が整ってきます。そうなると、米国よりも大きな経済を持つ国ということになりますから、ユーロの構成比率は27%でも少ないと言えます。将来的にはユーロの割合が30%~35%という割合が妥当ではないかと私は思っています。
ゼーリック総裁によると「人民元」への期待もあるようですが、私は時期尚早だと感じます。未だに人民元はフロート制(変動相場制)に移行しておらず、自由に交換できる通貨ではないのですから、まだ時間はかかると判断するべきでしょう。
ポンド、円、スイスフランなど他の通貨全体で約15%の割合を占め、「ユーロ35%・ドル50%」というのが今後の現実的な推移だと私は見ています。このような形になるとさらにドルの暴落は避けられないでしょうが、もはや将来ドルが値上がりする要因そのものが非常に少ないと理解するべきだと私は思います。
●米失業率は年内にも10%に達する勢い
米労働省が2日発表した9月の雇用統計によると、失業率は前月より0.1ポイント高い9.8%に達したことが分かりました。
米国の場合には10%の失業率に達するのは時間の問題でしょう。下手をすると今年中に10%の大台に達するのではないかと私は見ています。対前月比での雇用者数の増減を見ても、2008年以降未だに継続的なマイナスが続いています。さすがにピークを迎えた2009年1月時のマイナス60%という水準からは回復しつつあるものの、未だにマイナス20%近い数値ですから決して低くはありません。
また仮に米国の景気が回復してきたとしても、雇用が回復することにつながるとは限りません。現在の米国企業のメンタリティから考えた場合、景気が回復しても早々に雇用を増やそうとは考えないでしょうから、いわゆる「雇用なき回復」に陥る可能性は極めて高いと私は思います。
このような現状を受けて、10月5日号のTIME誌には「Unemployment Nation」という特集記事が組まれていました。10人に1人が失業しているというのはどういう事態なのか、という点について詳しく言及しています。
例えば、州別に見る失業率。州によっては5%程度で日本と同じくらいの水準に留まっているところもありますが、逆に15%を超える失業率に達している州がいくつもあるとのことです。州によってはすでにかなり厳しい状況に追い込まれているのが分かります。
また業界別に見ると、家具業界の失業率が22.5%と高い水準になっています。家を建てる需要が減り、結果として家具も必要とされないということでしょう。当然のことながら建設業界も高い水準で16.5%です。さらには、自動車などの輸送機械業界:16.2%、政府関連業界:15.8%と続きます。
建設業界の立て直しや政府関連雇用の創出なども掲げていた「オバマプラン」は一体どのように機能しているのか?と疑いたくなります。実態としては殆ど効果を表していないと言わざるを得ないでしょう。
五輪招致の失敗や外交政策などで支持率の低下を招いているオバマ政権ですが、今後はさらに厳しい状況を迎えることになると思います。米経済の建て直しという最も重要な仕事に対するパフォーマンスが低ければ、オバマ大統領に対する失望感が広がっていくのは避けられないでしょう。
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