米国の財政赤字幅に匹敵するのは、日本だけ
米政府が16日発表した2009会計年度の財政赤字が前年度の3.1倍となる1兆4,171億ドル(約130兆円)となり、戦後最悪を記録しました。そんな中、国際通貨基金(IMF)の予測によると、米欧は政府債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率が危機発生前の2007年の60%台から、2014年には100%台に到達する見込みとのことです。
米国の財政収支の推移を見ると、08年にはマイナス約40兆円規模だったものが、09年になりマイナス約140兆円にまで膨れ上がっています。02年にマイナスに転じてからも、50兆円を超えたことはなかったので、いかに現在の数値が大きいかを物語っています。
またGDPに対する財政赤字の割合で見ても、米国は「10%」という非常に高い水準になっています。この数字は欧州諸国と比べても群を抜いています。欧州ではEUで定められた財政協定違反国が続出するという異常事態を迎えていますが、それでも対GDP比で5%~6%という水準です。
唯一米国に並ぶ可能性があるのは、日本です。現在のところ、日本の財政赤字は対GDP比で約4%程度ですが、民主党は50兆円の赤字国債の発行を予定しています。そうすると米国と同様、財政赤字は対GDP比10%程度に達する可能性があります。
マーストリヒト条約で定められたEU諸国の対GDP比財政赤字の違反基準値は「3%」ですが、現在の状況に鑑み、基準値そのものを「4%」に引き上げる可能性もあると私は見ています。さすがに「全員が違反している」という状況では不安定に過ぎるでしょう。いずれにせよ、欧州諸国はこの状況を改善すべく動き出すと思います。
一方、さらに厳しい状況にある米国ですが、何とも時代認識が遅いと言わざるを得ません。2009年10月26日号のBusinessWeek誌に「WHAT HAPPENS IF THE DOLLAR CRASHES(ドルがクラッシュしたらどうなるのか?)」という記事が掲載されていました。
私に言わせれば、「何を今さら言っているのだ!?」というところです。というのは、私はすでに10年ほど前から「ドルからユーロに資金がシフトして、ドルがクラッシュする危険性」について警鐘を鳴らしてきたからです。今さらこのようなことを記事にするとは、ずいぶんと「のんびり」した感覚だと皮肉を言いたくなります。
●日米を尻目に、回復・成長する世界の国々
米国では景気の悪い話題が続いていますが、世界全体で見ると回復の兆しがそこかしこに見えてきています。主要52市場の株式時価総額の合計は約45兆ドル(約4090兆円)と直近の底だった2月末から5割以上増加。世界景気の底入れ期待に加え、各国の中央銀行による潤沢な資金供給で、投資マネーが株式に回帰していることが主な要因と見られています。
2007年に右肩上がりを見せていた株式市場の時価総額は、08年リーマンショックを契機に急落しました。その後09年2月~3月頃から反転し、再び上昇を始めています。この7ヶ月間(2009年2月~9月)の各国株式市場の時価総額上昇ランキングを調べてみると、日本はわずか33.2%の上昇に留まっています。一方で、1位:インドネシア(132.9%)、2位:ブタペスト(130.4%)、3位:イスタンブール(117.0%)などは大きく上昇しています。トップ5には入っていませんが、オーストラリア(109.4%)や韓国(107.0%)も日本に比べて大きな回復を見せています。日本・米国は動きが鈍くて当てはまりませんが、インドネシアの例などは、「危ない」と言われていた底値のときに参入していれば半年で値段が倍になるという良い見本だと言えるでしょう。
またこの数年間、世界経済を牽引してきた中国も回復の兆しが濃厚です。中国国家統計局は22日、7~9月期の国内総生産(GDP)が実質で前年同期に比べて8.9%増えたと発表しました。大規模な公共投資を柱とする4兆元(約53兆円)の景気刺激策や金融緩和の効果で、中国経済は回復傾向が鮮明になりつつあります。四半期ベースの成長率が前期を上回ったのは2期連続とのことです。
未曾有の大不況として幕を開けた今年を8.9%の成長率で乗り切るというのは、相当高い水準だと言えるでしょう。おそらくこの水準であれば、インドを越えて世界トップの成長率を中国は今年も維持することになると思います。そして、今年の終わりか来年の初めには四半期ベースで日本のGDPを追い抜く日が来ることは間違いありません。
日本を尻目に成長を続ける中国。その中国を追う一番手は、中国以外の「BRICs」でしょうが、さらにセカンド・ティアとして「VISTA(*)」が台頭してきています。国際通貨基金(IMF)の最新経済予測に基づくとベトナムなど「VISTA」と呼ばれる中堅5カ国の2010年の国内総生産(GDP)成長率が平均で3%を超える見通しとなったとのこと。金融危機の影響が相対的に小さいうえ、個人消費をけん引する若年層の人口比率が高いことなどが背景にあります。VISTAのGDP成長率が平均で3%~4%、BRICsのそれが5%~6%です。まだBRICsよりも1~2ポイント低い水準ですが、非常に有望な市場であることは間違いないでしょう。
(*)「VISTA」とは「ベトナム、インドネシア、南アフリカ、タイ、アルゼンチン」の5カ国を指します。
日米が足踏みをしている間にも、世界各国は回復の兆し・成長を見せています。日米は未だに「金利の上げ下げ」と「マネーサプライ」によって景気を回復させようという、19世紀型のマクロ経済学に頼っています。かつての日本の失敗から学び、その方法は通用しないということを早く認識するべきです。そして、心理経済学に基づく正しい景気刺激策を講じてもらいたいと私は思います。
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