商業用不動産の下落は、金融危機の2番底
米国最大の公的年金基金であるカリフォルニア州職員退職年金基金カルパースは、世界有数の資産運用会社ブラックロックと結んでいる不動産投資顧問契約の破棄を検討しているとのことです。カルパースはブラックロックからの助言に従った投資で資産を大幅に減らしており、契約破棄の公算が大きいと指摘されています。
カルパースは、ニューヨーク市マンハッタンの高級住宅プロジェクトなど、ニューヨークの巨大な開発を手がけ、巨額の資金を投じました。その後これらの不動産価値が暴落し、カルパースの不動産向け資産は約40%も減少しています。ただし、カルパースの運用資産の中で不動産向け資産が占める割合は全体の7%程度です。
カルパースと言えば、手堅い運用で有名であり、世界の資産運用会社の模範的な立場にある会社です。一方のブラックロックも、昨年の金融危機を乗り越えた優良会社と言われていました。今回の問題で注目すべきことは、単に両者のいさかいということではなく、「商業用不動産が問題を持ち始めてきている」ということだと私は思います。
商業用不動産の価値が半減してくることで、そこに貸付をしている銀行に大きな問題が広がる可能性があります。住宅ローンからスタートしたサブプライムショックから立ち直りつつある欧米の銀行が、商業用不動産価格の下落で再びひっくり返るような「2番底」も大いにあり得るでしょう。
FORTUNE誌やBusinessweek誌などを見ても、この商業用不動産の崩壊によって次はどの銀行がひっくり返る可能性があるのか、米国内でも関心が高まってきているのが伺えます。1度は金融危機から浮上した銀行が再び海に沈められそうになっている、という非常に危険な状況になりつつあります。
また商業用不動産の崩壊は、欧米の銀行への影響だけに留まりません。例えば今ドバイで起きている信用不安なども同じ問題として捉えるべきだと私は思います。
●商業用不動産下落の影響を受けたドバイ
先月25日、中東のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国政府は、政府系の持ち株会社のドバイワールドと、傘下の不動産開発企業ナキールの債務の支払いの猶予を債権者に要請する方針を明らかにしました。これを受けてバーレーンに拠点を置くサウジアラビア系のガルフ・インターナショナル・バンクは26日、近く予定していたドル建て債券の発行を延期すると発表しました。
全体としては、ドバイワールドやナキールなどドバイ政府系企業の債務を全て足し合わせると、ドバイ政府が抱える債務は約5兆円になります。代表的な幾つかを下の表に列挙しましたが、これらドバイの信用不安を受けて、まず欧州に影響が出始めています。HSBCやBNPパリバなどドバイに貸し込んでいる金融機関が多く、株式市場の時価総額4~5%ほど下落しています。
今後、こうした影響が米国・アジアへと世界的に広がっていくという不安もあると思いますが、私はそれほど心配していません。というのはアブダビ政府がドバイの負債を抱えてしまえば、それで問題は解決するからです。アブダビ政府にとっては、5兆円くらいの金額であれば数日分の石油で賄える規模ですからそれほど痛手でもないでしょう。
アブダビもドバイも同じアラブ首長国連邦に属していながら、これまでは犬猿の仲でした。アブダビから救済を受けて傘下に入るというのは、ドバイにとっては屈辱的なことだと思います。しかし今は、それを受け入れるしか道はないでしょう。
ドバイの産業別GDPに占める割合を見ると、小売業(約35%)・製造業(約15%)・不動産関連業(約15%)で、石油採掘業は5%にも満たない割合です。今はもうかつてのようには石油が出ないのです。だからこそ石油に依存しない状況を作ろうとして準備していたのですが、残念なことに橋を渡る前に落ちてしまったという状況です。あと数年あれば何とか形になったかもしれませんが、その前にサブプライムショックを受けてしまったのですから、不運といえるかも知れません。
ドバイの産業状況から判断してもアブダビからの救済が最も現実的ですし、世界経済への悪影響を考えても今のタイミングでアブダビからの救済を受けるべきだと思います。今回のドバイ政府の発表は、単に支払いを来年の5月まで延期してほしいという程度のものです。しかし過去にアルゼンチン政府のデフォルトなどを経験している世界経済は、過剰に反応している節がありました。それもアブダビ政府による救済検討の発言で落ち着きを見せているわけですから、この流れに素直に従うべきだと私は思います。
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