中国は米国債を売っていない、外貨運用の多様化を進めているだけ
2月16日、米財務省が発表した2009年12月の国際資本統計によると、同月末時点の国別の米国債保有高は、日本の官民が保有する米国債残高が前月比115億ドル増の7,688億ドル(約69兆円)となり2か月連続で増加しました。2008年8月以来1年4か月ぶりに中国を抜いて首位となったとのことです。
日本が中国を抜いて1位になったと言っても、現実は非常に際どい状況です。
日本としては米国に対してアピールする意図があるのかも知れませんが、米国人の頭の中には「中国が最も米国債を買ってくれている国」というインプットが確実にあります。ですから今さらこの程度のことで日本がアピールしても、米国の中国に対する強い恩恵の念は変わらないでしょう。
面白いことにこのニュースに過剰に反応したのは、米国ではなく中国の方でした。米国の一部のジャーナリストが「中国は米国債を放棄し始めた(売り始めた)のではないか」と報道し始めたからです。中国にとっては日本に抜かれたかどうかよりも、「米国債を売った」という批判を受けることの方が問題だったのでしょう。
実際のところ中国の米国債の保有残高の推移を見る限り、絶対額は減っていないので中国は米国債を売っていないと思います。中国が抱える余剰資金が大きくなり、その中で米国債が占める比率が下がったというだけです。米国の一部のジャーナリストの「中国が米国債を放棄し始めた」という指摘は当たっていないと私は思います。
ただ今回のニュースを受けて、中国は「技術的な問題であり、意図的ではない」という趣旨の発言をしていますが、「意図はあるはずだ」と私は思います。全体の余剰資金が増えた中で米国債以外のものを買っているのは、外貨運用の多様化を目指したからで、結果として「意図的に」米国債の比率を下げているということだからです。中国は米国債を売った形跡はありません。外貨運用の多様化を進めているだけ、というのが今回の実態でしょう。
●日本の借金が増え続けるのは、国と国民の間に信頼関係がないから
財務省は10日、国債や借入金などを合計した「国の借金」の総額が2009年末時点で871兆5104億円に達したと発表しました。今年1月時点の推計人口(概算値)で計算すると、1人当たりの借金は約683万円となります。
国債・借入金・政府保証債務残高は、最近になって再び上昇しています。
このような状況にあって、各国の国民負担率を比較してみると日本の特徴が明確に分かります。
まず社会保障負担率を見ると、米国(8.5%)・英国(10.6%)・スウェーデン(17.1%)に対して日本(17.5%)は大きくなっていますが、ドイツ(21.9%)・フランス(24.2%)など欧州諸国に比べると低い水準です。取り立てて高すぎる割合とは言えないでしょう。
また租税負担率を見ると、日本(21.5%)は、米国(26.4%)・英国(37.8%)・ドイツ(30.4%)・フランス(37.0%)・スウェーデン(47.7%)のいずれの国よりも低い水準です。
このような中、「財政赤字」だけが飛び抜けて高い水準になっています。米国(3.5%)・英国(3.4%)・フランス(3.7%)・ドイツ(0.2%)に対して、日本(13.3%)という数値です。社会保障負担と租税負担を足した国民負担率は、日本は39%ですが、財政赤字が加えた潜在的国民負担率でみると、日本は52.3%となり、ドイツを上回る水準になってしまいます。
このようになってしまう原因は、日本では国・政治家と国民の間に「信頼関係」がなく、両者の関係性が悪いからだと私は見ています。政治家が「税金を上げる」と言えば、国民は「ノー」と突き返す。だから、政治家は「財政赤字」という形でそれを補おうとしてしまう。この繰り返しが現状を招いたのです。
政治家や新聞など報道機関にも問題はありますが、「税金や社会負担を増やす」と言われると反射的に「ノー」と反応してしまう国民の態度にも問題はあると私は思っています。
現在の日本は非常に「だらしない」姿を世界に晒しています。本来なら現役世代が負担するべきものを次の世代に押し付け、莫大な税制赤字を抱えています。収入の52.3%は国民負担になっているにも関わらず、さらに借金を増やし続けています。「規律がない、だらしない国」だと主張しているようなものです。
このままでは「財政赤字」という名目で借金をして、将来的には徳政令を出して国が国民からお金を巻き上げるというサイクルが、当たり前になってしまうでしょう。これは恐ろしい事態です。この状況を脱するためには、国・政治家側だけでなく、国民一人ひとりの意識を高めることが重要だと私は感じています。
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