日本のマネーストック平均残高と、日本国内の金利動向から何が見えてくるのか?
今年2月半ば以降の株式市場は、世界景気、特に落ち込んでいた米国景気回復が投資家の心理を暖め、少し踊り場になったかなというところでさらに元気にさせるという流れになっているようです。この上昇が続くのか否かが今回のテーマです。
まずは資金需要の中でも、「マネーストック平均残高(前年比伸び率)」を見てみましょう。
お金の動きで見ると、郵貯も含めたM3残高が年度末を迎えて若干減り気味となっています。そして流動性は、過去3~4%まで流動性があった時がありましたが、直近では1%を越えたところで横ばいになっています。日銀も流動性を高めようと金融緩和などを行っているものの、まだまだ動きが鈍いという状況です。
ひょっとすると企業は手持ちのお金はあるのだけれども、設備投資に回さないため「資金需要としてはもう足りている」ということなのかもしれません。「設備投資にお金を使う→資金が必要になる→流動性がどんどん高まる→なおかつ残高は、ある一定の水準で横ばい」という状況が理想的なのかもしれませんが、まだほど遠い状況と言えそうです。
次に注目するのは、日銀の金融政策や消費者物価指数も関係する、「国内金利動向(長期金利の推移)」です。
これは、10年国債指標銘柄の直近の金利動向の推移ですが、過去に原油が140ドルくらいになった時に一度2%近くまで上昇したことがあります。しかし、現在はその水準からすると非常に低く、均してみると1.3%程度となっており、高くても1.38~1.39%くらいで、10年かけて預けてもそれくらいの金利しかつかない低金利の状態が続いている状況です。ただ、この水準に落ち着いているのは、日銀の金融政策の結果というわけではありません。
日銀金融政策という観点では、短期金利の調整が国内における金融政策の中心となりますので、別途政策金利と呼ばれる金利の動向も見ておく必要があります。一方で、日銀の金融政策とは別に、この長期金利が低い水準になったままで推移していることが、日米の為替動向に影響を与える結果になっています。
たとえば、国内の新発10年国債と同様、米国にも10年国債の利回りがありますがこれまで2009年6月の3.95%が直近1年の最高水準でした。しかし直近では一時4%を越え、日米の長期金利の差で見ると、2.6~2.7%まで差がついてしまっていることになります。そうなりますと金利が高い米国ドルを買って、金利の低い円を売るという流れになりますから、日米の金利差が広がると、対円でドル高方向に向かいやすいと見ることができるのではないでしょうか。
為替動向はグローバル企業の業績にも影響を与えますので、そうした業績動向に影響を与える為替の先行きを読み解くためにも、長期金利や短期金利の動向も見ておく必要があると言えるでしょう。
■GDP確報値、製造業景況指数、非製造業景況指数、雇用統計も、いい数字がズラリと並ぶ
米国の金利上昇の一方で、株価がまだ上がるのか否かを判断するために「3月に発表された主な経済指標(米国)」に注目してみましょう。
全体では、「10-12月期実質GDP確報値:前期比5.6%」でした。日本は下方修正されましたが、米国は「2四半期連続のプラス」と力強い動きになっています。
およそ50ポイントが景気判断の分かれ目と言われる製造業景況指数も、「3月ISM製造業景況指数59.6」となり、8カ月連続で50を上回り5年8カ月ぶりの水準まで上がってきています。また、前月比も+3.1ポイントで事前の予想値も上回っており、これはすごい状態だと思います。
さらに「ISM非製造業景況指数」も53.0:前月比+2.5ポイントと、こちらも「2007年12月以来の高水準」でいい数字がズラリと並んでいます。このままよければ、「いずれどこかで利上げが起こるかもしれない」という判断につながってくるでしょう。
さらにそれを後押しするのが雇用統計です。3月実績値で「雇用者数16.2万人増、失業率9.7%」と、「3月予測値:19万人増、失業率9.7%」よりも実雇用者数は少ないという結果でした。通常予測値より低ければ、投資家が失望して"ドル売り"となります。しかし今回はこの数値を受けて為替が円安に、あるいはドル高に振れたという流れになりました。いったい何故なのか。その理由は民間の「ADP雇用リポート」にあります。
このADP雇用リポートは、雇用統計の実績値を占う前哨戦として投資家が参考にしているものですが、その予測が「-2万人超」と、プラスどころかマイナスという結果だったのです(その当時、ニューヨークダウもそれを受けて50ドル近く下がりました)。しかし雇用統計の蓋を開けてみるとADP雇用リポートに反して16.2万人増だったことから逆に安心材料となり、前後の動きも加味されて株価が上昇した、ドルも高くなったということになっています。
雇用者数が増加した要因としてあげられるのは、3月米国では国勢調査が行われており、その調査員だけで約4万人増加という底上げがあったこと。そして医療や教育機関における採用が増えているためです。製造業も少し増えてはいますが、それほど大きな増加にはなっていません。今後、政府雇用の国勢調査員4万人は、次回発表の雇用統計から差し引かれてまたガクンと下がる可能性がありますので、今回の大きな上昇要因には、こうした一時的なものも含まれているということを頭に入れておきましょう。
こうした一時的な雇用増加要因があるにせよ、このまま雇用の増加傾向が続くようであれば、(将来の金利上昇が気になるものの、)景気回復に対する安心感が広がることになり、おそらく米国マーケットの見方はプラスに解釈すると思います。再びマイナスにならなければ当面は問題なし、と考えていいのではないでしょうか。
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