ストレステストの結果が、連鎖的な倒産を招く危険性がある
スペイン銀行のオルドニェス総裁は6月16日、現状に関するより多くの情報を投資家に提供するため、国内の銀行を対象に実施したストレステスト(健全性審査)の結果を公表する方針であることを発表しました。公開に積極的なスペインだけでなく、7月中に欧州主要銀行の結果も公表されることになりました。
米国もストレステストの結果の公表を求めていましたし、これは非常に重要なことです。しかし、実際のところストレステストの数値を発表しても、それは悪い結果を招くだけになるかも知れないと私は危惧しています。
主要国の銀行のPIIGS向け与信残高を見てみると、欧州各国の状況はかなり大変な状況にあると言わざるを得ません。フランスは総額約90兆円に達していて、中でもイタリアとスペインへの金額が大きくなっています。イタリアへの貸付だけでも約40兆円あるので、イタリアが「コケたら」フランスも道連れになってしまうでしょう。
ドイツは総額約70兆円で、スペインに対するものが大きく、続いてイタリア・アイルランドになっています。英国は総額約40兆円強で、アイルランドとスペインに対する貸付が大きくなっています。そしてオランダはスペイン・イタリアの割合が大きく、対するスペインはポルトガルへ貸し付けています。貸付金額が低いスペインでさえ、総額10兆円を超える規模です。
欧州の中で安全だと言えるのはイタリアとスイスくらいでしょう。いずれも貸付金額は10兆円に満たない水準に収まっています。また米国と日本も、安全圏だと思います。いずれも20兆円規模の貸付を抱えていますが、国の経済規模からすれば危険視するほどではないと思います。
恐ろしいのは、ある銀行の健全性に疑問符がつくと、連鎖的に経済破綻を招く可能性があることです。ストレステストの結果、健全でない銀行が判明すれば、その銀行の救済問題が浮上することもあるでしょう。今度は、銀行を救済する国家が、果たしてその負担に耐えられるかと市場から疑問をもたれるかもしれません。結果、極論すれば、「国債のデフォルトリスクが高い」ということになってしまったらスペインが倒れ、同時にフランス、ドイツ、英国、オランダにもかなり大きな影響を及ぼすことになる可能性も否定できません。1つの国がダメになると次々と倒れる危険性があると私は見ています。
●EUは長いプロセスを経て、それから財政規律を確立するだろう
欧州連合(EU)は6月17日加盟国間の財政政策の協調枠組みで合意しました。加盟国が翌年の予算案の骨格などを欧州委員会に提出し、安定成長協定に沿う内容かどうかをEU理事会が点検するもので、協定に違反した国には制裁が強化されるということです。
予算を組むという「入り口」の段階で財政規律を導入する、すなわちEU委員会が国家予算の策定にまで財政規律を導入するということです。簡潔に言えば、お互いに監視しあうことになって、勝手な予算を組めないようになります。
また同時に国際金融取引課税を導入し、万一どこかの国が倒れた場合に備えて、少しずつ貯蓄をしていくという方針も提案されているようです。しかし、これは「ちょっと手遅れ」だと私は思います。国際金融取引課税では額が小さすぎるからです。税率を10%くらいに設定すれば目的に見合う金額になるかも知れませんが、10%という数値は少々現実的ではないと感じます。
これからEUは長いプロセスを経て、幾つかの恐ろしい事態も経験しながら、税制規律の確立へと向かっていくことになると私は見ています。
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