意外と円高に強い日本企業の体質/それでも雇用へは悪影響の可能性
経済産業省は先月27日、円高による日本企業への影響に関する緊急調査の結果を発表しました。それによると、対ドルの円高で製造業の6割余りが減益になるとし、対ユーロでは5割強が減益になると回答しました。また、1ドル85円台の円高が継続した場合、製造業のおよそ4割が製造工場や開発拠点を海外に移転すると回答したということです。
かつては「円高倒産」という言葉を聞くことがありましたが、今の日本企業はかなり円高に強い体質になっていると私は思います。対ドルでの円相場の推移を見ると、85年のプラザ合意以降、円高が進み95年には1ドル79円台に達したことがあります。
80円台前半という水準は確かに厳しい状況ではありますが、過去の経験を活かし日本企業は世界に複数の製造工場や開発拠点を持つなどの対応をしているため、「即死」という事態にはならないだろうと私は見ています。
実際、円高の企業利益に対する影響調査によると、90円台であれば75%の企業は「影響がない」とし、85円でも50%は「多少の減益」と回答しています。さすがに85円を割り込んだ状態が半年継続してしまうと、30%の企業は深刻な減益になり拠点の移転などを考慮せざるを得ないとのことです。
こうした実態について感じたことは、2つあります。1つには日本企業の円高に対する抵抗力の強さは相当なものだということです。そしてもう1つは、それでも85円以下の円高が半年続いてしまった時に3割~4割の企業が拠点の移転を考えるとなると、雇用の問題が悪化してしまうということです。ただでさえ、日本国内では雇用問題が取り沙汰されているというのにそれに拍車がかかってしまうというのは大変な事態だと思います。
●低迷する日経平均が、すぐに1万円台になることはないだろう
日経平均株価は先月24日、昨年5月1日以来およそ1年4カ月ぶりに終値ベースで9000円の大台を割り込みました。シャープやスズキなど輸出関連株が相次ぎ年初来安値となるなど、円高による企業収益の下ぶれ懸念が株価を押し下げる構図になりました。
日経新聞を読んでいると、未だに株価は1万円~1万3000円台に回復するという論調の記事を目にすることがあります。私は以前から「そんな事態にはならない」と何度も述べていますが、どうして新聞記者はこのような「期待」を抱いてしまうのか不思議です。
日経平均株価は2009年3月を底として、そこから回復の兆しを見せ始めました。そのまま一気に上昇するかと思いましたが、また緩やかに落ち始めています。今の政治・経済の運営状況を見ていると、このまま株価は低い状態が続いてしまう可能性は高いでしょう。
リーマン・ショックはいわば「震度8の大地震」のような衝撃でした。もちろん現在の株価の動きはそれほどには激しくありません。しかし、「震度4くらいの地震」が定常化して当たり前のように感じてしまう状態になっていると感じます。1日200円~300円くらい日経平均が動いても、「普通」に感じられるように思います。
こうした状況の中、日本国債の利回りは下がり、1%前後で上下しています。これほど低い金利にも関わらず国債を保有する日本国民は、やはり世界から見ると異端です。2010年8月9日のBloomberg Businessweek誌には、日本では高齢者の割合が23%に達し、金利が「1%でも0.1%でも」全く関係なく国債を保有し続けている「面白い人種だ」と、いささか皮肉めいた記事が掲載されていました。
日本社会の高齢化とはよく言われますが、もしかすると「利回りの低い国債でも保有し続ける」というのは、高齢化の証拠あるいは特徴の1つなのかもしれません。若年層と比べ、自ずと激しい価格変動は避けたいと考えるでしょうから、実態は議論の余地がありますが、安全資産である国債を低い利回りでも購入してしまうといったところでしょうか。
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