日本の問題点は、資金が市場に吸収されないこと
日銀の白川方明総裁が9月末、「日銀の金融緩和が欧米に比べて控えめ」との指摘に対し「日銀が一番金融緩和をしている」と反論した一幕がありました。一方、海江田万里経済財政相は日銀法に関して、「FRB(米連邦準備理事会)のように、雇用最大化を中央銀行に与えられている1つの使命として前面に出す方向で変更することが望ましい」との認識を示しました。
まず、海江田万里経済財政相の発言には呆れるばかりです。私に言わせれば、雇用を中央銀行の任務に与えるのならば、経産大臣など必要ない存在です。何度も私は述べていますが、「雇用は産業界が創りだすもの」で、日銀が創りだすものではありません。一体何を考えて、こんな発言をしているのか私には全く理解できません。
一方、白川方明総裁の発言は次の点を理解していると、何を説明しようとしているのか分かりやすくなります。
・中央銀行総資産の対GDP比を見ると、日本は04年以降、落ち込んでいる
・一方、ドイツは05年以降急激に上昇し、日本を上回った
・米国、英国も07年以降は、ドイツよりさらに急激な上昇幅を見せている
この事実を見ていると、ドイツは日本を超える割合で市場に資金を提供し続けており、最近では米英の動きも活発だ、という印象を受けます。ゆえに、世界の印象としては、マネーサプライを継続しているのは米英であり、日本は非常に遅れているということになってしまうのです。
これに対する白川方明総裁の主張は、「対GDP比」で見るのではなく累積の「絶対額」で見れば日本は相当の金額を市場に提供しており、「日本が一番金融緩和をしている」と言えるはずだということです。
白川方明総裁の指摘は正しく、加えるなら、それだけ多額の資金を市場に供給しているにも関わらず、「市場が吸収していない」という点が大きな問題です。ただ白川方明総裁は、もう少し上手な言い方をしないと、真意が伝わらないのではないかと感じます。
バブル崩壊以降、日本はずっと市場が使い切れないほどの資金をジャブジャブと提供してきました。しかし「心理的な冷え込み」あるいは「高齢化社会」のために、それを吸収しない状態に陥りました。この点がポイントです。
エコノミストの議論を聞いていると、もっと日銀が資金提供をするべきだという意見も多いようですが、必ずしもそうではないと私は思います。資金供給しても市場に吸収されないという「日本の体質」を改善することこそ、先に解決すべき課題でしょう。
●TOBの条件緩和はやり過ぎ
経済産業省が2011年度をめどに、自社株を活用する株式公開買い付け(TOB)の条件を特例的に緩和する方針を明らかにしました。
正直に言って今回示された緩和方針は、「やり過ぎ」ではないかと私は感じています。
新たな方針としては以下のような緩和案が提示されています。
これによると株式を活用したTOBでは検査役による株式価格の評価が不要、そして特別決議を必要としないということはイコール、通常の取締役会で決議可能だということ、更に買収企業の役員、株主はTOB時の株価について責任を負いません。
少数株主からの買取りについても、80%~90%の株式を取得したら残りは強制取得可、これも特別決議を必要としないとあります。
レインズインターナショナル、すかいらーく、ワールドなど、日本のTOBでは様々な問題が発生しました。ファンドが介入してきてことで不透明感が高まり、代表訴訟にまで発展したケースも少なくありません。
もし今回の案が通ったら、今後TOBは続々と出てくることになると思いますが、通産省がここまで「緩和」するのもどうかと私としては懸念しています。
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