NY原油価格は、1月3日に92.58ドルの高値を付けた後再び89ドルに戻っています。原油価格が上昇する要因は何で、今年の原油価格はどうなるのでしょうか?
原油の需給から言うと、値上がる要因は見当たりません。IEA(国際エネルギー機関)が公表したOil Market Report12月号でも、2011年の原油需要は、8,880万バレル、非OPECからの供給は5,340万バレル、OPEC諸国の非原油、つまりLNG等天然ガス等から生産する原油が580万バレル、需要からこの二つの供給を差し引くと2,960万バレルとなります。つまりOPECがこれだけ生産すれば需給は過不足が無くなるということです。
ちなみに、2010年11月のOPECの生産量は2,920万バレルですから、これより40万バレル増産すれば需給はバランスします。OPEC諸国は生産能力より減産しており、OPECによればその余剰生産能力は560万バレルと言われています。従ってもし需給がタイトであるなら、OPECは少し増産すれば事足りるわけです。
ところでこのIEAの需要予測は、EIA(米エネルギー情報局)やOPECの予想に比べて一番多い需要予測です。EIAは2011年を平均して8,778万バレルとしています。IEAとの差は日量102万バレルの差があります。OPECはどうかというと、2011年の需要を8,710万バレルとしています。IEAとは170万バレルの差があります。つまり、IEAの最大の需要予測をもってしても約40万バレルの供給増で賄える生産能力があります。
また、仮にOPECが生産を増やさないとしても、2010年9月末時点で世界には、43億500万バレルの原油在庫があります。日量40万バレル不足しているとすると、365日では、1億4,600万バレル足りないことになります。しかし、43億500万バレルの在庫が1億4,600万バレル減少してもたいして不安にはならないでしょう。なお、非OPECの生産見通しについても三つの機関はそれぞれ異なった数値を公表しています。各機関の12月の予測データは以下の通りです。
以上で原油の需要と供給がいくら中国やインドの需要が急増したところで原油需給がタイトになることは無いことがおわかりいただけたでしょうか? 要は、過去5年平均と比較しても多い在庫があり、需要の93日分に達しています。また、OPECは財政を立て直すために少しでも多くの原油生産をしたくてたまらないのですが、原油価格が低迷していたため十分生産できていませんでした。従って、価格がある程度上昇すれば、喜んで増産に応じる体制にあると思われます。
しかし、そうした背景があるにもかかわらず、ゴールドマンサックスは原油価格は100ドルを超えると予想しています。同社の根拠は、正に上記の内容をポジティブに言い換えたものです。つまり、在庫が減少するか、OPECが増産するので、その余剰生産能力が減少するという言い方です。いずれも在庫水準や余剰生産能力の大きさはさて置きという前提は省略されています。2010年のNY原油価格はNY株価に0.88の正の高い相関関係を持っていました。
また、東京原油価格は日経平均株価との間にも0.85の正の相関関係がありました。
これは何を意味するかというと、株価が現在の経済状況を表すのではなく、未来の予測を織り込むのと同様に原油価格も未来、つまり今年は景気が回復して経済活動がより活発になるという明るい見通しを反映しているものと思われます。株価が景況指数の好転等を受けて上昇すると原油価格も上昇するという関係にあります。それでは、ゴールドマンサックスが言うように、今年原油価格は100ドルを突破するのでしょうか?
ここに一つの歯止めがあると思われます。それはCFTC(米国先物取引委員会)の建て玉制限という足かせです。1月13日にCFTCは新たな建て玉制限について会合を持ちます。その場で何らかの具体的提案が出るとは思えませんが、原油や穀物の価格の上昇は、回復しようとしている景気に水を差す要因となります。2012年に大統領選挙を控えた米国やロシア、韓国、台湾等の政権与党は、今年の景気を何とか上向かせようとそれこそ後先も考えずに必死になることでしょう。その時に、原油価格が投機的に上昇すると、原油は産業の基礎資材であるだけに歯止めをかけたくなることでしょう。
2008年に147.5ドルから35ドルまで下落した原油価格の下落のきっかけはそうした市場に対する制限がだされたことが発端となりました。市場管理者はある意味でオールマイティーです。プレーヤーの建て玉を制限したり、退場を言い渡すことすらできます。銀の買い占めでハント兄弟が最後に負けたのも、買い占めに対する市場の制限が何重にも課されたためです。従って、原油価格には一つの上値抵抗線があります。それがいくらかはなかなか言えませんが、おそらく100ドルを突破すると、ガソリン価格等さまざまな影響が出るので、価格の上昇に歯止めがかかるでしょう。
一方下限価格は、サウジアラビア等の財政を賄う価格として70ドルを切ることは無いような気がします。そうした場面が訪れれば、プーチン首相も原油価格が下落すると内政に大きな危機を抱えることでしょう。ロシア等の産油国はこぞって減産をほのめかしたり、さまざまな手段を使って防衛策に出るのではないかと思われます。従って原油価格は75~95ドルのレンジの中で上下するのではないかと思っています。
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