ついに日本国民も、「沈没船」の危機に気付き始めた
2010年度の個人向け国債の発行額が1兆278億円にとどまり、2003年度以降の最低を記録しました。
個人向け国債の発行額の推移を見ると、2004年頃までは変動10年債を中心に発行額が伸び、2006年以降は固定5年債の割合が大きくなるものの発行額全体は下降線をたどってきたことが分かります。
2010年に至って、固定3年債・固定5年債・変動10年債の3つで構成されてはいますが、かつて主力だった変動10年債は殆ど残っていないという状況です。
ネズミが危機を察して沈没船から逃げ出すように、ついに日本国民も「危機」を感じ初めてきたのだと私は見ています。
●中国の影響力は強まっているが、未だに英国が圧倒的
日本の株式や債券の売買で中国の存在感が急速に増しています。2010年の証券売買高は前年比27倍の21.3兆円。国・地域別の売買高の順位は09年の17位から5位に急上昇しています。
確かに中国の影響力は強くなってきていますが、主要国・地域の対日証券売買高を見ると未だに欧州勢の強さが目立ちます。2010年の売買高を見ると、1位:英国(409.3兆円)、2位:フランス(96.4兆円)、3位:米国(95.1兆円)、4位:香港(41.8兆円)、5位:中国(21.3兆円)となっています。英国の強さは圧倒的だと言えるでしょう。
英国の売買高がこれほど抜きに出る結果となっているのは、米国の企業であってもロンドン経由で売買を行なっている場合が多いからだと思います。中国の対日証券売買高は2009年の0.8兆円から2010年の21.3兆円に伸びていますから、上昇のスピードはものすごく早いと言えます。ただし、まだ英国には遠く及ばないというのが現状でしょう。
●完全に世界から取り残された東京証券取引所
東京証券取引所は2日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)を運営するNYSEユーロネクストと取引ネットワークを相互に接続する検討に入ったことについて、年内にも結論を出す方針を明らかにしました。
東京証券取引所には昔から大きな夢がありました。それは、まず上場して、それからロンドンとニューヨークと手を組んで「世界3大市場」としての地位を確立するというものです。ところが、ジェイコム株大量誤発注に際しては「対応ミス」「システムの不具合」を露呈するなど、とても上場できる状況ではなくなってしまいました。東証がもたついている間に世界の証券取引所の趨勢は、東証が想定していたものと違う方向へ進み始めました。
ロンドンはトロントとの合併で合意しましたし、NYSE EURONEXTはパリ、アムステルダム、ブリュッセル、リスボン、NYSE、 LIFFEを取り込んでいます。
またナスダックOMXも、ヘルシンキ、ストックホルム、コペンハーゲン、バルト3国の証取、アイスランドを傘下に収め、さらにシンガポールと大証にシステムを提供しています。そのシンガポールはオーストラリアの買収交渉を進めています。
東証は完全に婚期を逸した状態だと言えます。2009年6月に憧れのロンドン証券取引所と共同出資で設立した「TOKYO AIM取引所」も全く機能しておらず、未だに上場会社はありません。
東証の斉藤社長は「上場再チャレンジ」の姿勢を見せていますが、仮に1年後、2年後に上場が実現したとしても、かつて夢に描いたストーリー通りにはいかないでしょう。東証が他の証券取引所から買収のターゲットとされることはあると思いますが、自ら買収する側として主役になることはないと思います。
唯一可能性があるとすれば、約5%の株式を保有しているシンガポール証券取引所の買収ですが、システムの整合性が良くないので厳しい道のりになるでしょう。今後、東証が「コモディティ、デリバティブ、個別株オプション」が扱えるくらいの柔軟性を持つことができれば、世界に乗り出すことは難しいとしても「日本の総合市場」として生き残る道はあるかもしれないと私は見ています。
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