●市場混乱の背景
市場の混乱の背景は、一口に言うと、マーケットのストレスの増大です。一つは景気先行き不透明感の台頭です。最近の経済指標は、アメリカも悪いものが続き、欧州も景況感が悪化してきています。さらに中国の景況感指数も減速を示してきており、アメリカに限らず、グローバルに景気の先行き不透明感が出てきているわけです。
今まではアメリカの景気の見通しに関しては、年後半には緩やかながらも持ち直し加速するといわれてきましたが、そうした楽観的な見通しが修正を余儀なくされました。いいと思っていたら全然違ったわけです。もう一つは、欧州の債務問題、アメリカの債務上限問題といった財政に関しての問題があります。
特に欧州もアメリカも政策対応の遅れ、あるいはその背景にある政治的な対立が嫌気されている部分もあると思います。いつまでも政治家が経済の状況を置いたままもめているというところです。
その他にも、財政が問題になった状況をうけて、超金融緩和状態から正常化に向かいつつあった金融政策において、逆にさらに追加的になにか緩和策が打てるのかという懸念、手詰まりとなっているのではないかという懸念です。財政再建で景気対策は打てないのではないかという懸念もあり、リスク資産への投資を手控えるムードになってきたと言えます。
ここ一連の指標の悪化、政策の遅れ、などをきっかけにマーケットは「負の連鎖」に一気に陥ってしまったと言えます。特に円相場には、それに投機的な動きも加わり、動きが増幅されました。
●リスク選好と局面整理
通貨の強弱を、リスク選好とリスク回避の軸で整理してみると、景気が非常に良い状態の時はリスク選好が高く、ドルキャリー、円キャリーがおきます(左下)。足下はどちらかというとアメリカの景気も回復してきて、リスク選好だが、緩やかに株高になりながらドルもしっかりという展開でした(左上)。それがここへ来て、景気の先行きが不透明になり、欧州の債務問題からの不安感も若干あり、世界景気悪化型(右上)のリスク回避ゾーンにいってしまっていると思われます。
そうした中でも、ドルはそれほどは売られず、むしろ底固い動きです。新興国通貨などが売られその結果ドルがやや買われているわけです。ユーロは震源地ということもあり、ドルよりもユーロが弱くなっています。一方、一番強いのはスイスフランですが、円も買われる状況となっています。
ただ、景気自体はそこまで悪くはありません。リーマンショックの後ほど悪くはないので、いずれ、リスク選好のゾーン(左上)に戻ってくると思います。マーケットがかなり混乱してしまったので、多少時間はかかるかもしれませんが、戻るでしょう。その鍵は株です。株の下げがとまることがまず重要です。株の動きがリスク回避、リスク選好のマインドの変化とイコールなので、目先は株価の動向が一番鍵を握りそうです。
●円買いポジション/実効相場(円見通し)
シカゴ通貨先物の円のポジションを見ると、グレーのラインで0より下側が円買いのポジションの増減です。リーマンショック以降はほとんど、円を買うかやめるかという感じで、円売りは僅か2回ほどです。直近は円買いが進み、5万枚と過去のピーク付近まできています。円買いが膨らむ動きに連れて、赤のラインは円高になっているのがわかります。円が安全とは考えにくいですが、投機筋が円買いをする理由は、経常黒字があることや、対外債権国であることが挙げられます。
しかし、ここからさらに円を買っていくのかというと、長い目で見た場合の円の価値に注目する必要があります。円の実効相場のグラフを見ると、2003年を100とした場合、円は既に130を超えた水準にあり、豪ドルとあまり変わらない状況になっています。もちろん最強通貨なのかというとクエスチョンマークの部分もあり、ここから海外勢が円を買っていく理由はあまりないと思います。
投機的に上昇トレンドにかけていくという動きは短期的にはあっても、ここから長期的に円を買っていくには厳しいレベルではないかと思います。今もし、海外勢が円を買うとしたら、短期的な円の上昇にかけて買うか、あるいは短期的な避難地として一時的に少し置いておくのに円にしておく、おそらくそのぐらいの意味しかないでしょう。
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