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アメリカ経済に関しては、多くの悲観論が聞かれますが、実は世界で一番潜在力のある経済と言えます。人口動態を見ても、主要国の中で一番エネルギッシュな国はアメリカです。 アメリカの経済の強さを考える上で、一番評価できる点は、創造的破壊が進行している国だという点です。経済というのは、常に新しい仕組みに変わって行くものであり、古い入れ物は邪魔になり、新しい経済の発展をいつも妨げてしまいます。それを回避するためには入れ物を常に壊し、新しい入れ物に作り変えて行く必要があるのです。 この新しい入れ物に作り変えるというプロセスを、経済学者のシュンペーターは「創造的破壊」と言っています。創造するために古い殻を破壊するというメカニズムが、先進国、新興国含めて、一番機能しているのが、アメリカであると言えます。 それは、アメリカの失業が、空前の規模に膨らんだことから見て明らかです。失業が増えるということは創造的破壊と言う観点からは、極めて良いことなのです。無駄な労働力が不必要なところから吐き出される、まさに、創造のための破壊が行われているということなのです。 「オークンの仮説」と言われる、失業率の変化と成長率の変化の比較を見てみます。縦軸に失業率の変化、横軸にGDPの変化をとります。景気が少し悪くなると、当然失業率は上昇します。それぞれの線の角度によって、どこの国が迅速に首切りをしているか、つまり創造的破壊をしているかがわかります。
一番角度があるのがアメリカです。つまり、少し景気が悪くなるとあっという間に雇用が減っているのです。これは、無慈悲な首切りとも言えますが、将来の労働力の再配置の準備のため、不必要なところから労働力を吐き出していると捉えることができます。 角度が急なのは、次がフランスや英国、ドイツ、韓国などで、日本は一番緩やかです。日本は景気が悪くなっても経営者は歯を食いしばって雇用を維持するので、企業の生産性はあまり上がらず、創造的破壊も進みにくいという特徴が見られます。 このように、アメリカは本来的に最も資本主義の本性に忠実な国であると言えるのです。そのアメリカでは、企業、産業の劇的な新陳代謝が起こっています。アメリカをリードしているハイテク産業を支える企業はどんどん変わっているのが、株価のグラフからわかります。 今から40年前、アメリカのハイテクの中心は大型コンピューターで、IBMやユニシスが最も輝いていた企業でした。今から10年から20年前はパソコンの時代で、マイクロソフトやインテルが大繁栄しました。しかし、インテル、マイクロソフトの繁栄はまだ続いてはいるものの、すでに過去の話となり、現在それ以上に産業をリードしているのが、グーグル、アップル、フェイスブックなどです。
次々に新しいプレイヤーが、アメリカの一番大事な産業の大きなシェアを獲得しているのです。しかも、創業者はいずれも20代から30代の若者なのです。産まれて30年そこそこの若者が、アメリカの一番大事な産業の一番ど真ん中に座るということが、連続して起こっているのです。 それを可能にしているのが、まさしく、創造的破壊の力です。市場の合理性に基づいて、極めて迅速に資源や資本の再配置が進むというアメリカの特性により、技術革新が進み、新しい産業が作られるのです。これが、世界の他のどの国にも見られない、アメリカの圧倒的な強みと言えます。 もちろんアメリカは軍事力もあり、政治的な覇権国でもありますが、それ以上に、経済のファンダメンタルそのものに、圧倒的な強みを持っているのです。現実に、アップルやフェイスブックの動きを見ても、アメリカのグローバル義業の世界支配は顕著になってきています。これが、当然今のドル高の背景にもなっています。こうしたアメリカの展開力は、中長期的に見て決して忘れてはいけない力です。
ヨーロッパ情勢もすでに最悪期は過ぎたと思います。欧州主要国の長期金利の推移を見ると、1999年、ユーロ発足以前の欧州各国の金利はバラバラでした。ところが、ユーロが発足し、ギリシャショックが起こるまでの10年間、不思議なことに各国の金利が全て1つになっています。 金利は、中央銀行が決める短期金利と、市場が決める長期金利があります。通貨はユーロで一本化され、中央銀行もECB一つになったので、短期金利が一本なのは当然です。しかし、市場が決める長期金利も一本というのは非常に奇妙なことです。物価が5%もあるギリシャと、物価が1%のドイツの金利が同じということは、ギリシャでは極めて有利に借金ができ、ドイツでは借金が極めて困難になるという、不公平さをもたらします。
これにより、この10年間、ギリシャやポルトガルなど南の諸国にヨーロッパの資金がどんどん流れ込み、そこでバブルができたり、政府の過剰な借金が膨らんだわけです。他方、健全なドイツにはお金が残らず、ますます合理化を図り、スリムにするしかなかったことから、不健全な諸国と、極端に健全なドイツの二極分化が起こりました。このことが、欧州危機のそもそもの原因です。 しかし、危機が起こり、一本だった金利は再びバラバラになりました。金融市場の資源配分機能が見事に復活したわけです。南の諸国にお金は流れなくなり、ドイツにお金が集中しました。これまでと逆に、南の不健全な国にはブレーキがかかり、北の健全な国にはアクセルが吹かされている状況へと変化しました。 この先、これまで抑制されてきたドイツの給料は上昇し、また、下がってきたドイツの不動産市場にもブームが起きるでしょう。ドイツは、ヨーロッパ経済全体をプラスの方向に引っ張るエンジンの役割を果していくと思います。今後は、ドイツが需要を作り、南の諸国はこれまでドイツがしてきたように生産性を上げ、全体のバランスが取れて行くはずです。 まだ短期的には様々な困難がありますが、それがユーロの崩壊や、金融恐慌につながるものとは思われません。より健全で明るい将来が導きだされる可能性が強まったと言えるでしょう。
ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ 資産形成力養成講座 講師 武者リサーチ代表ドイツ銀行グループアドバイザー
武者 陵司
3月6日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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