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5月上旬の日本の貿易収支は、8183億円の赤字となりました。増加した輸入の大きな部分は燃料なのです。現在は原子炉を全て止めているので、燃料は、一日100億円を超えるほどの輸入になっています。おおざっぱに計算しても、一年間では3兆6000億円になります。 例えば、九州電力を見ても、2011年度では一日10億円超もかかっているわけで、全部の電力会社を足しても3兆円などという利益は出していないので、全ての電力会社の経営が赤字になります。原子炉を動かすかどうかという時には、この燃料費をどうするのかということも、少し考える必要があります。
短期的には仕方ないことだと思いますが、日本が原子力発電を全て止めたことによって、使っている燃料費が一日100億円に上ることを憶えておくと良いでしょう。この数字は、もともと輸入して使っていたLNG、原油、石炭などは除いたプラスαの部分です。それが、年間3兆6000億円ということで、結構深刻な状況と言えます。 しばらくは、この燃料費の問題に加えて、構造的に赤字にシフトしてきたこともあって、電力会社にはダブルパンチが効いていると考えておくとよいでしょう。
円と人民元の直接取引が、東京と上海の外国為替市場で始まりました。初日の取引金額は100億円程度とやや少ないですが、今後直接取引をして、ドルを介さなくなれば、コストもかなり低くなり、これが定着すると、日本と中国は決済が非常に楽になると思います。 ただ、その前にもう少し人民元を国際化してもらうことが必要です。今週の動きを見ていると、私が予想したように、振れ幅を広くしたら、むしろ元安の方向に移っていることが観察されています。今になって経済関連の人たちは元安は意外だなどと言っていますが、実は今の中国政府は人件費をどんどん人為的に上げています。人件費を上げてしまうと、今の元がさらに高くなる要素はなくなるので、中国政府としては矛盾のあることをやってしまっていると思います。
一方、インドの経済も減速が明らかになってきています。1~3月のGDPは5.3%増で、4四半期連続で伸び率が減少しています。引き締めによる内需の伸び悩みも要因の一つですが、その他にも、欧州からきていたお金が抜けてきていることがあります。 新興国の対外債務に占める欧州銀行の割合を見ると、非常に大きな部分を占めていることがわかります。インドの場合も、欧州銀行への依存が大きいため、これが抜けて行ってしまうということで、インドルピーの下落が非常に大きくなっています。2011年1月を基準にしてみると対ドルで20%ほどの下落です。さらに株式市場も低迷しています。
とは言っても、インドの成長率はまだまだ高いと言えます。8%というところまでは行かないものの、破壊的なレベルではないということです。 為替に関しては、ロシアのルーブルの下落が目立っています。LNGやオイルシェールなどが出てきているために、天然ガスが安くなってきていて、その結果、原油も安くなっています。原油とガスが安くなると、ロシア経済の先行きが、やや危ぶまれるということで、通貨ルーブルは、ドルに対しても、ユーロに対しても、うんと安くなっています。 さらに円で見ると、これがダブルで効いてきます。円はドルやユーロに対しても強くなっているので、ドルやユーロに対しても弱くなっているルーブルに対し、円はとんでもなく強くなっているわけです。ロシアの自動車メーカー、アフトバスを、日産ルノーが買収しますが、買うなら今だと言えます。このように為替がダブルで効いてきている状況なので、円でロシアのものを買うなら今がいいと思います。
インドネシア政府は、国際金融機関などに、50億ドル(約4000億円)の緊急融資枠を要請する方針を明らかにしました。50億ドルのうち20億ドルは世界銀行が融資を決定しましたが、残りの部分は日本がやってもいいのではないかと思います。インドネシアを支援することは非常に意味があります。 インドネシア経済を見ると、経常収支は数年先までの予想では赤字基調です。インドネシアは伝統的にエネルギーを輸出していましたが、国内経済が良くなり、エネルギー輸入国になってしまったのです。今後は、新しい輸出品目が出てくるまで結構苦しくなるので、その部分をファイナンスしてあげる必要があります。私はアジア開銀や日本の銀行が直接インドネシアを支援することが必要だと思います。
その他、新興国では、ブラジルが政策金利の引き下げを行っています。通貨レアルが値上がりし、国内製造業の低迷も続いており、利下げで景気を下支えする狙いです。 ブラジルはルーラ前大統領の後、あまり上手くいっていませんが、ここで金利を史上最低と言われる8.5%まで下げたわけです。それでも浮揚しないかも知れないと言われています。
この後、オリンピックはかなり先の話ですが、ワールドカップなども来て、インフラ投資にお金がずいぶんかかります。産油国ですから、深海油田を掘って行かないといけないわけですが、これまた膨大な資金が必要です。ということで、これから向こう4、5年をどういう風に生きていくのか、というプランがルセフ大統領ではやや心許ないという状況です。 ブラジルは、いわゆるBRICsの仲間ですが、中国も様々な形で難しい状況になり、ロシアも原油安には弱く、ブラジル、インドはこれまで述べた通り、経済がスローダウンしているということで、BRICsはいずれも、枕を並べて、数年前ほど絶好調ではなくなってきているということを合わせて知っておく必要があるでしょう。
ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 学長
大前 研一
6月3日に撮影したコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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