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日経平均は、年初から2割上昇したものの、また元の木阿弥になってしまいました。これを受けて人々は非常に悲観的になったわけですが、この大きな変化をどのように解釈すればよいのでしょうか。世界的に株が下落しているので、日本株が下げても驚くことではないという人もいますが、実はそうではないのです。
日本株は極めて極端な動きをしています。2009年3月以降の、主要国の株価推移を見ると、大きく2極に分かれています。上昇しているグループは、アメリカ、次いで、ドイツ、イギリスなどとなっています。一方、下落しているグループはフランス、イタリア、スペイン、そして、唯一南ヨーロッパではない国が含まれていて、それが日本です。 リーマンショックのボトムと比べると、アメリカの場合、ボトムから87%上に位置しています。ここの所の下げを含めても、依然として大底からは2倍近い水準にあるのです。ヨーロッパの中での上昇組のドイツも、ボトムから63%上の水準にあります。だめだと思われているイギリスでも、ボトムと比較して49%上昇しています。アメリカ、ドイツ、イギリスの三ヵ国は、揃ってボトムから約5割以上上昇しているのです。 一方、負け組の中でも、フランスは17%と小幅上昇、イタリアは0でほぼ同じなのに対し、日本はマイナス4%と、一番悪いのです。つまり、世界の株価が二極化し、勝ち組と負け組に分かれる中、日本は、負け組の中でも特に悪いパフォーマンスとなっているのです。日本人は、リーマンショックが終わったなんてとんでもない、まだまだ危機が進行していると思いたくなるような値動きなのです。
多くの人はユーロが崩壊の危機にあり、株どころではない状況なので、日本の株価低迷は仕方ないことだと思うでしょう。みな、株を売って現金に換えようとするので、株価が下がるのは当たり前で、日本に原因があるのではなく、ユーロの危機の影響だと思われがちですが、これは大間違いなのです。 前述の勝ち組、負け組を分ける大きな要因は何かというと、実は金利なのです。2010年以降の主要国の金利の推移を見ると、アメリカ、ドイツ、イギリスともに、史上最低の水準まで、金利が大変な勢いで下がっています。ドイツの金利は、1%そこそこまで下がってきていて、史上空前の金利低下と言えます。このように、金利が下がっているグループは、株式のパフォーマンスがよいのです。一方、株価が低迷している国は、スペインやイタリアなど、金利が上昇している国です。つまり、世界の市場は、金利の低い国は株価が堅調、金利が高い国は株価が低迷という具合にに極分化しているのです。 では、日本はどうでしょう。南ヨーロッパの国以上に株価が低迷しているのに、世界のどこの国よりも金利が低いのです。どこの国よりも金利が低いということは、お金を預けて一番安心できる国だということで、世界中から日本に向かってお金が集まり、日本の長期金利は0.8%という異常な低金利になっているわけです。ドイツやアメリカも同様です。 ヨーロッパの危機によって株にリスクが生じ、ドイツやアメリカの国債に向かってお金が流れているわけです。それを使って経済成長が維持できることから、将来の経済見通しにある程度自信が持たれ、その結果株価が堅調なのです。お金が向かっている先の国は相対的に株価が堅調であるのに、日本だけは、お金が向かってきているのに株価が上がりません。ここまで見ると、日本の株価の低迷は、やはりヨーロッパ危機に原因あるとは思えません。 ここから言えることは、まず、このようにお金が入ってきているということは、経済について決して絶望する必要はないということです。元手が入ってきているので、その元手を使って商売すればもっと豊かになれる可能性があります。 ところが、ギリシャやイタリアはお金が逃げて行っているので、何をやろうとしてもお手上げの状態です。打つ手がなく景気が悪くなり、株価が下がるのも当然です。問題はお金が集まり、将来に向けて投資する弾丸をたくさん持っているはずの日本が、お金が逃げて行っているイタリアやスペインなどと同等以上に株価低迷に付き合っているいうことです。
株価低迷の原因は、明らかに日本国内の問題と言えます。入ってきた大事なお金を有効に使うことができないような国内の仕組みや政策、あるいは人々のものの考え方が、日本株を低迷させているのです。つまり、ユーロの問題が解決しても、株価の上昇が見られない可能性もあり、逆に、ユーロの問題が解決しなくても、日本のものの考え方や政策が変われば、株価は大きく上昇する余地が十分あると思われます。日本は株が上昇する条件を持っていながら、それを十分実現できず、ある意味では独りよがりの苦労をしていると言えるでしょう。 では、具体的にどこに問題があるのでしょうか。適切に問題を把握、それに合った対策をすることが肝心です。おそらくこの株価低迷は、本来の病気に合ったものでない薬を投与されて、衰弱している状態である可能性が高いと思います。 現在、世界経済は消費や、雇用の面で問題を抱えているにも関わらず、政治は需要を減らすような財政歳出削減の方向に向かっています。それは日本も、アメリカもヨーロッパも同様です。 ただ、救いがあるのは、財政面では緊縮をしても、日本以外の中央銀行は積極的にバランスシートを膨らませて流動性を供給し、景気を良くしようという姿勢を維持しています。主要国の中央銀行のバランスシートを見ると、アメリカはリーマンショック後4倍になり、その後さらに膨らんでいて、また事態が悪化すれば、QE3のような新たな量的緩和を行うとしていて、バランスシートを膨張させる方向がかなり顕著です。 ECBも去年末には3年もののロングタームファイナンスを導入し、バランスシートは急激に膨張しています。このように、民間で機能していない金融を中央銀行が肩代わりし、流動性をつけて経済を安定化させることが行われています。その中で、日銀はまだまだ量的緩和のレベルが非常に低いのが分かります。
このようにして、主要国は財政が非常に困難な中、金融を使いながら、何とか雇用と景気を支えて行こうという方向を目指しています。需要不足、消費低迷に対してふさわしい手を打たなくてはならないわけですが、そうした手が打たれている国とそうでない国、その違いが株価に表れているのです。アメリカの株価が好調なのは、低い金利を使って、景気や株価を押し上げるメカニズムが機能しているからです。 アメリカでは金利低下に伴い、企業による自社株買いが盛んに行われています。企業は配当よりも、借金をした方が安いので、軒並み借金をして、自社株買いを行うのです。すると低金利のお金が企業を通してリスクテイクの好循環に入って行きます。低金利を投資チャンスと見て、成長方向に舵を切る可能性が高いのが、アメリカであり、ドイツやイギリスなのです。 一方、一番お金が余っていて、投資チャンスの可能性が高いのに、活用できていないのが日本なのです。潤沢にあるお金をいかに活用して、人々が求めている雇用や消費に結びつけられるかが、大きな差になっているのです。 これを解決するのに、政策が有効かどうかという点でも、日本は異なっています。日本はゼロ金利で、長期金利も低く、株価も低迷、円高でデフレの状況です。どうすればいいのかという時に、日銀の白川総裁は、日銀ができることには限界があると言います。 人口動態など、構造的な問題があり、日本はデフレからなかなか脱却できない、金融政策も頑張るものの、それだけではどうにもならないというのです。これは、おそらく、日本の中央銀行が宿命論に陥っているからでしょう。バブルができて崩壊し、その後は償いのための暗闇で、今努力しても仕方ないという考え方です。 一方、アメリカのバーナンキFRB議長は中央銀行はどんなことでもでき、またどんなことでもすると言います。まだまだ政策が撃つ弾はたっぷりとあり、デフレを回避し経済成長を実現し、雇用を回復させるので、安心してほしいというのが、彼の考えです。アメリカもバブルが崩壊し景気が悪化しましたが、その先は日本のようにデフレにはならない、株価は上昇し、絶対に景気を良くすると強く主張しています。過去に何があっても、努力すれば明るくなるという考え方も日本とは異なるのです。 政策敗北主義の日銀に対し、政策の効力に揺るぎない自信を持っているアメリカ、この大きなコントラストが、株価の違いの背景にあるということは事実でしょう。
ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ 資産形成力養成講座 講師 武者リサーチ代表ドイツ銀行グループアドバイザー
武者 陵司
6月6日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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