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主要国のM2伸び率推移を見ると、中国の動きが目立っています。中国はリーマンショックの後、経済状況を改善しなくてはならないということで、50兆円の資金供給をして、企業にどんどんお金を供給しました。その結果としてバブルになり、住宅マーケットが崩壊してしまうギリギリまできた今、資金を大きく削ってきています。 そしてその後、中国政府は明確に量的緩和だけに集中していると発表しました。経済政策でも、家庭電化製品や自動車を中国国内地域に売るときに安くしたり、税金をタダにするということはやったとしても5000億円程度にとどめ、10兆、20兆円で企業のファイナンスを拡大しようという方向に舵を切ったのです。 これは明らかに流動性供給なので、量的緩和です。中国が今回やろうと思っているのは、経済刺激策ではなくて量的緩和であり、この量的緩和を今後ますます拡大していくというわけです。 では、なぜ中国が量的緩和にそこまで集中しなくてはいけなくなったのでしょうか。つまり、内陸部の人にものを買ってもらうとか、住宅マーケットを上げるとか、余裕ある政策が打てなくなったことには理由があるのです。 中小企業の経営者の資金繰りの状況のグラフを見ると中国の中小企業が大変なことになっているのがわかります。中小企業の資金繰り状況はリーマンショックのど真ん中と同じくらいの水準まで悪化しているのです。中国では大手企業は国有企業なので、インセンティブや賄賂をもらって基本的に強いのですが、民間中小企業は非常に追い込まれています。だからこそ中国政府は、内陸部の開発よりも特に沿岸地域の輸出企業を助けることにお金を集中することにしたわけです。
中国の沿岸地域の中小企業が潰れかかっていることの深刻さは、中国の経常収支の推移からも明らかです。2008年6月末には、中国の経常収支は年率換算でGDPの11%まで拡大しました。しかし現在はGDPの1%を割っています。経常収支を競争力と見るならば、中国の輸出企業の競争力は10分の1以下に落ちてしまったということになります。 中国の多くの企業が大変な競争力の低下に悩んでいるわけです。企業は部品をたくさん買ってしまっている一方で、ヨーロッパがものを買ってくれなくなってしまったので、対外債務が増え経常収支が減ります。入ってくるお金が無いのに借金がどんどん増えて企業が潰れていくわけです。 そうした状況の中、中国政府は内陸部の重慶モデルや武漢プランなどに重きを置いている場合ではないのです。沿岸地域の潰れかかっている企業を助けることが一番の優先課題なのです。そこで、20兆円、30兆円という額をつぎ込んで企業に資金供給をするのです。したがって、これから先はどんどん金利が下がっていくでしょう。 それに加えて、政府は20兆円を使って銀行にお金を貸し、その銀行の顧客で潰れかかっているところに無利子で貸していきます。これは、昔日本が1998年にやってくれればよかったことですが、日本は自由経済主義の国なので当時それはできませんでした。しかし中国は共産主義なのでこれができるのです。こうしたやり方で意外と早めに中小企業の破綻からの回復が進むかもしれません。日本では12年かかりましたが、中国は今後4、5年かけて中小企業の改善を進めるでしょう。 その間、マーケットにはどんな影響が出るかというと、まず不動産価格は上がらないでしょう。利下げが進み、銀行は低い金利でお金を貸すので収益圧縮要因となり、銀行株も上がらないでしょう。上がるのは、中国国内や日本の部品メーカーやファクトリーオートメーション関連の株です。潰れかかっている企業はお金を融通してもらったらこれまで我慢してきた設備投資をするので、ファクトリーオートメーション関連の需要が伸びると考えられるからです。そうした株はすでに強い動きを見せています。
マーケットの動きを見ると3月27日から大きく調整をしましたが、ヨーロッパの理由だけで下がったと思ったら大間違いです。ヨーロッパの理由で下がったのは下落の51%に過ぎません。残りのうち43%の下落は、ある別のニュースが理由となっています。さらにヨーロッパの場合には、ギリシャ、スペイン、オランダなどいろいろな材料で下落していますが、アメリカの材料での下落はたった一つの要因からなのです。アメリカの雇用統計が今回の下落を引き起こした大きな要因となったのです。
しかもあれだけ頭の良い投資家のいるアメリカで、この4ヶ月間連続で月初めの金曜日には必ず株価が下落しています。2.5%-1.85%必ず下落しているのです。わかりきっている仕組みにもかかわらず、前回の7月も第一週の金曜には、世界のマーケットは1.84%下落しました。こうした下落を繰り返すのは雇用統計の問題が全く改善していないからです。そこでやはり考えなくてはいけないのは、オバマ大統領はいつまでも量的緩和だけをやっているわけにはいかないということです。 アメリカの景気を見る際に、皆さんがいつも聞いている情報の中で見直さなくてはならないものがあります。アメリカの経済を表すデータとして必ず出てくるのがISM総合指数です。ストラテジストやマーケットコメンテーターらがテレビ等でこの数字を取り上げ、上がっているので景気は大丈夫などと語っていますがとんでもないことです。実はこの数字はいつも間違い続けているのです。 それに対してホワイトハウスが今一番気にしている数字は、新規失業保険申請件数なのです。月に一度の雇用統計に対しこの新規失業保険申請件数は毎週発表されます。推移を見ると4月第4週から悪化が続いています。これが基本的に雇用統計の悪化を生み出してきたのです。 しかもISM製造業景気指数も6月にはいきなり50を割り込みました。それまでのISM指数はやはり間違っていたのです。ISM統計の主要指数ばかり見ているとこうした間違いが起きます。実はISM生産サプライズ指数を見ていれば、今年3月辺りにはISM指数が5月頃から悪化してくることは予測できたのです。 この生産サプライズ指数はISM生産指数から3ヶ月前の新規受注指数を引いたもので、この3ヶ月間で新規受注がどのくらい落ち込み、生産に響いているかがわかります。これは製造業の状況を正しく表すことができる数字です。この数字が悪化したことでISM製造業景気指数も今後悪化することは想像がつくのですが、政府はそれを見せずに、また、日本のマーケット関係者も知らずにいたわけです。 アメリカの景気については、バーナンキFRB議長も袋小路だと言っているように、実際は腰折れの可能性が高く、これから先は量的緩和だけではだめだと言えるのです。
ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 講師 パルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ株式会社 代表取締役 兼 チーフストラテジスト
宮島 秀直
7月28日に公開収録として撮影したコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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