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11月4日、5日にメキシコで開かれたG20では、日米欧が取り組むべき課題が共同声明に明記されました。日本は今年度予算の財源確保、アメリカは財政の崖の解消、欧州は銀行監督一元化です。既にそれぞれがやろうとしていることですが、日本については野田総理がすでにやることに合意している赤字国債発行法案が、やはり必要だということが確認されました。 またアメリカについても財政に関する問題が注目となっていますが、財政収支の推移をみると、ブッシュ政権時代のリーマンショックの後遺症によってオバマ大統領が大量に資金を使い、財政は大きくマイナスになりました。そのマイナスを全く克服できていないのが現状です。グラフでプラスになっている部分はクリントン政権の時代です。
クリントン政権の終盤には国家財政は黒字となり、V字回復をした夢のような期間と言われます。次のブッシュ政権では戦費が嵩んでマイナスとなり、それが改善して来たところにリーマンショックで大きく落ち込んだという流れです。 オバマ大統領はその落ち込んだところからのスタートということでハンデはあるものの、明確な改善策が打てず、さらに輪をかけて無駄遣いをしてしまったというわけなのです。出費は無駄ではないと主張していますが、実際には公共投資やグリーンエネルギーへの投資などを行ってきたものの、それらが雇用にはつながっていないのです。 オバマ大統領の初期の頃の戦略は、財政健全化の面から見るとかけ離れた戦略であったために、このような重たい財政の崖の問題がのしかかりました。そして、二期目の最初の月にこの問題に対処しなくてはならなくなったというわけなのです。 財政の崖を引き起こす要因を整理すると、歳入増加としてはブッシュ減税の失効などがあり、歳出減少の面ではオバマ大統領は明確なポリシーがないようで、みんなにやさしい政策になってしまっています。オバマ大統領の支持基盤はヒスパニックや黒人なので、そういうところへ資金を撒いていく必要があるのです。 こうして見るとオバマ大統領は財政的には非常に弱いイメージだったので、ロムニー氏もその部分をもっとうまく突けばよかったのでしょうが、ロムニー氏自身も多数派を敵に回すような失言もありうまくはいきませんでした。 やはり財政の崖の問題は、オバマ大統領であるがゆえにさらに悪化し、危機的状況になっているというわけです。
ギリシャ国会は、EUなどから支援融資を受ける前提となる約1兆3700億円の緊縮法案を可決しました。サマラス首相は採決に先立って、これは極めて重大な決定だとした上で、ユーロ圏に留まるか、ドラクマにもどるか、ドラクマに戻れば現状よりも遥かにひどいことになると訴えました。 まさにそのとおりで、ドラクマに戻った場合を考えると悲惨な状況が待っています。ギリシャの借金はユーロで借りたもので、ユーロの借金をドラクマで返すことになるわけです。ギリシャ人は給与などでドラクマをもらいますが、その日のうちにユーロに替えるはずです。なぜならハイパーインフレになってドラクマの価値は急激になくなるからです。 ギリシャ政府はドラクマを自分で印刷するという素晴らしい手段があるわけですが、どれだけ印刷してもその価値がどんどん落ちていってしまうことになります。すると、ユーロで返さなくてはならない借金はドラクマをいくら印刷しても間に合わず、結局、国家破綻で債務不履行ということになるわけです。 このときギリシャは、10年前のロシア、あるいはアルゼンチンのような破綻状況を迎えます。すると当然、政府部門が養っている人が多いギリシャでは、多数の人が路頭に迷うことになり、今よりひどい状況となるわけです。 この状況が分からないわけはないので、ギリシャの人たちはもう少し理性的にこのことを理解しなければいけません。しかし、ドイツにいじめられているようなことを言う煽動家がたくさんおり理解が進みません。ギリシャはかつて大衆煽動が流行り、衆愚政治になった国です。民主主義の基本は民衆が知的であることが重要ですが、それが失われた時には衆愚政治になります。ギリシャは正に衆愚政治に陥っているわけです。 今回の国会でEUに突きつけられた緊縮法案を僅差ながら通したギリシャ。サマラス首相率いる議会は、秩序、節操というものを示したことになりますが、国民は今後、街頭に出てこれを人のせいにすると思います。そして最後にはひっくりかえって、結局もとの木阿弥の貧しいギリシャになるのです。その後、ヨーロッパはギリシャを救おうとはしないと思います。そしてギリシャはそのまま切り離されることになるのです。 すると今度はポルトガルがギリシャの惨状を見て、明日は我が身ということで少しシェイプアップする。そんなシナリオとなれば、EUにとってはよかったということになるのではないでしょうか。やはり一つくらい明確、かつ悲惨な犠牲者を出さないとだめだと思うのです。
ドイツは2012年の連邦政府や州政府、地方自治体などの税収が、過去最大の6024億ユーロ=約62兆円になる見通しだと発表しました。国内産業が好調で、ユーロ圏外への輸出が堅調でした。EUという中で、ユーロという17ヵ国共通の通貨を使っていることのメリットが、ドイツのように強い国では非常に明確に出ています。
62兆円というのは史上最高の税収ではあるものの、その推移を見ると税収自体はこれまでもずっと伸びてきているのです。また、日本の国税収入約45兆円と比べても、より小さな経済のはずのドイツの方が大きいのです。こうしたことからドイツの格付けはAAAで、対GDP比の赤字も減少しているという状況です。 このような状況から、ドイツはヨーロッパの他の困っているところを助ける余力も出てきているのです。ただドイツには国内問題も多くあるので、そちらを優先しろという意見が根強く簡単にはいかないというのが現状です。 ドイツの好調な状況を見ると、日本とはちょうど逆さまの傾向でうらやましい限りです。もしドイツがユーロに入っていなければ、今では日本と同じように超マルク高となり、おそらくドイツの産業も非常に苦しむことになっていたと思われます。17ヵ国と一緒に歩調を合わせることで、非常に強い国にとっては、弱い国と組んだメリットが出てくるという典型的な例と言えます。ただここまではっきりとメリットが出るということは、マーストリヒト条約を考えていた人々も想定していなかったでしょう。
ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 学長
大前 研一
11月11日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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