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【受講生からの質問】 米国経済において、財政の崖に対しては何らかの対策が打たれるものと思いますが、米国経済は2013年以降徐々に回復に向かっていくとお考えでしょうか。富裕層増税、中間所得層の所得拡大を目指していますが、実際グローバル経済の中で企業の剰余金は増加しますが、生産は世界の最適地で行う傾向が強いと思います。こういった政策が経済に与える影響、マーケットに与える影響はどの程度あるのでしょうか。 【宮島講師からの回答】 ご存知のように、アメリカの産業構造は日本と全く異なります。日本は未だにサービス業と製造業の規模がほぼ同じくらいです。しかも2008年のリーマンショックでサービス業が一気に減少しています。中国も同様にサービス産業が減って戻らないという特徴がありますが、日本も同じような問題を抱えているのです。サービス産業と製造業の比率で製造業が強すぎるのです。 一方アメリカをみると、圧倒的にサービス業が多いのです。サービス産業で生計を立てている人が製造業より遥かに多いのです。つまり、製造業が海外で儲けなければサービス産業にお金が入らないというわけではないのです。貯蓄率がしっかりして、企業も剰余金をたっぷり持っていて、設備投資に資金が回り始めるだけで、数年間は景気を保つほどの力を持っているのです。 アメリカの業種別の賃金上昇率をみても、製造業は賃金が全く増えていませんが、サービス業は目立って賃金が上昇しています。これはヘルスケア、専門職、教育などの分野で給料が上がっているからです。政府は賃金が上がらず足を引っ張っていますが、小売り、事務サービス、教育、ヘルスケアで、アメリカのサービス産業は隆盛を見せているわけです。 アメリカの企業がどんどん海外に出て行ってしまっているので労働力を吸い取られ、アメリカの労働力が増えないのではないかという不安は、日本の構造をもとに考えてしまっているからです。日本も、もっとサービス産業を増やせば変わります。しかもヘルスケアはとても大きな影響をもたらします。日本には病院のチェーン店のようなシステムはありませんが、アメリカでは当たり前で、有名病院の支店があちこちにあるのです。医者が社員として雇われるという仕組みが整っているのです。ヘルスケア、専門職、技術者の採用がより進めばアメリカの雇用はさらに保たれて、さらに上昇した賃金が消費に向かい、景気が良くなるのです。
実際に、S&P500の大企業の流動性資産に占める現金および等価物の比率は史上最高になっています。アメリカの企業は大量に資金を持っているのです。通常ここまで溜まったら企業買収をして減らすなどしてきたのですが、現在はそうせずに溜め込んでいる状況です。それを設備投資に使っていなければアウトなのですが、設備投資が勢い良く伸びてきているのがわかります。設備投資はもう少しで過去のピークまで到達する水準です。トレンドラインと比べるともう少し伸びないといけませんが、オバマ大統領は法人税をカットする方針ですから、設備投資ももっと伸びると見てよいでしょう。 設備投資が伸びることによって、サービス産業では専門職、技術職の採用が増えるのです。プロ中のプロ、例えば、MITの教授などが副業で会社のエンジニアをやるケースなどが増えるからです。アメリカには大手のコンピュータエンジニアの派遣会社があり、企業は技術開発のためにテンポラリーで大学教授を派遣社員として採用できるシステムが整っています。それによって、設備投資の増加に伴ってサービス業の賃金が伸びることになるのです。 アメリカの設備投資の回復は、日本の工作機械メーカーの株価上昇にもつながりますが、サービスセクターの雇用の増加にもつながっているのです。それによって、十分アメリカの経済が良くなることが考えられるわけです。海外展開による製造業の雇用低迷よりもサービス業の雇用が大きく増えていること、さらに法人税を下げることで設備投資拡大、雇用増加がみこまれることで、アメリカ経済には期待できると言えるでしょう。
さて、サービス業の雇用が増え賃金が増えるとどうなるのかも見てみましょう。もし貯蓄率が上がり続けているならば消費にはつながりません。ところがすでに貯蓄率は下がり始めているのです。我慢してきたアメリカの消費者は物を買い始めているのです。リーマンショック前の水準並みに、アメリカの個人消費の前年比伸び率は伸びて来ています。もしここで減税措置があればさらに上昇が見込めるのです。企業は設備投資にギアがかかって来ている、個人消費も伸び率がリーマンショック以前まで伸びてきている、そうした中、法人税が下がればその分給料が伸び、ボーナスも出るようになり、お金が回りだすのです。 また、ヘルスケアが注目されるのはオバマケアの影響もあります。オバマ大統領がこの政策に固執したのには理由があるのです。これまで保険に入らず病院に行けなかった低所得者や中間所得層の人々が病院に行くようになれば、病院にもっと人材が必要になります。医師や看護婦、事務系まで、ヘルスケア部門で人がたくさん雇われるようになるのです。この部門の雇用者は比較的給料も高いので、消費に向かうと考えられます。オバマケアは潰すわけにはいかないので見直すことはないでしょう。こうしたことを受けて、ウォーレンバッフェットなどアメリカの伝説的ファンドマネージャー達は、大統領選後にオバマケア関連銘柄を買い増しています。 また、これまで懸念材料の一つだった住宅についてですが、QE1でFRBはMBSを大量に購入しました。これはアメリカの住宅マーケットにはプラスとなり、住宅着工が増え、ケースシラー指数も上昇しました。MBSの購入は確実に住宅市場を押し上げたのです。そして現在、住宅関連指数は確実な上昇トレンドに入ってきています。 失った地域が戻ってきただけで儲かっているわけではありませんが、改善傾向は明らかです。また、中東からの資金がアメリカの不動産やMBSを購入するという情報もあり、アメリカの不動産は底を打ったと見られています。さらに中国のCICも、アメリカ不動産投資に向けたオフィスをニューヨークに開設しました。アメリカの不動産マーケットは今後も強くなると見てよいでしょう。 政策が上手く打たれ、設備投資が伸び、個人消費につながること、不動産マーケットも一段と改善することなどを考えると、アメリカ経済は良くなってくると言えるでしょう。
ビジネス・ブレークスルー大学 資産形成力養成講座 講師 パルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ株式会社 代表取締役 兼 チーフストラテジスト
宮島 秀直
12月12日に撮影したコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
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