結局、中国は人件費をこうして人為的に上げていくので、最低賃金の推移を見ると2006年からすでに4倍にもなっているのです。地域によって差があり、成都あたりへ行けばまだなんとかなると言われていますが、それでもまた同じようなカーブで賃金は上昇していきます。しかも、地方政府も中央北京も、人民を喜ばせるためには人件費を上げるのだと動いているのです。それによって、ソロス氏ではありませんが、本来なら為替の方を調整しないといけないわけですが、人民にとって為替はそれほど関係がないので、賃金が上がっているとぬか喜びをするわけです。
しかし実は、人民元が弱くなれば輸入品の価格も上がるのです。それでも見かけの給料が上がった方が喜ぶということならば、賃金一本に絞って、人民元の方はフロートにし、管理をやめるくらいのことをしないといけないのです。私はそれで1ドル=12元くらいというのが輸出競争力を維持する水準だと言っているのです。すでに逃げてしまった企業は無理ですが、今苦しんでいる企業をなんとか救済してあげることは可能なのです。
ただ、あと3年もすればもう誰もいなくなるでしょうし、その時はもう手遅れということになると思います。また、その受け皿として、ベトナムが良いのか、ミャンマーが良いのかという議論がありますが、広東省だけで6000万人なので、タイやベトナム、ミャンマーなどはとても中国全体の受け皿にはなれないのです。人口だけで言えばバングラデシュは1億5000万人ほどいるので何とかなりますが、インフラが全くないので難しいのです。中国の受け皿として間に合うようなところはなかなかないのが現状です。
また、中国の場合には腐敗がひどいと言われていますが、その点は進出した会社にとってはあまり関係がありません。進出した会社はやりたいことを言えば、交渉は表向きストレートに進むのです。しかし一方、ベトナムやミャンマーなどでは、裏の方から進出した会社に対して認可を早く取るので、これをくださいなどという話になるのです。中国の場合には我々もストレートに進めることができ、薄々は裏の動きが見えるものの気にする必要はありませんでした。それで中国には皆気持ちよく進出して行ったのです。
フィリピンは今はかなりよくなりましたが、マルコスの時代にはマルコスの使いが来て、次にイメルダの使いが来る、そして25%乗せろなどという感じでした。バングラデシュやタイは比較的少ないものの、ミャンマー、ベトナムはひどい状況になってきています。そうした意味で中国は、自分たちの中でやっているだけなので、入ってきた者も一緒に犯罪に引きずり込むようなことは少ないと言えます。 |