こういう状況の中、私が次の首相ならどうするかと言うと、残ることを選びます。EUに入る前、70年代にイギリスに行った際には、当時日本も元気だったこともあり、イギリスは博物館になるつもりか、とよく言ったものです。当時のイギリスで、日本は工業国家として追いつけ追い越せでここまで来ましたと言う話をしていたら、ある企業の会長が手を挙げてこう発言しました。私たちはアメリカや日本と競争しようとは思っていない、北海油田が出たので、OPECに加盟して日本をいじめてやると言ったのです。これがイギリス敗北主義の象徴です。
EUに入る前のイギリスは超三流国で、誰もファイティングポーズを取らず、もういいと諦めていたのです。しかしラッキーなことに油が出たということで、これでOPECと一緒になってアメリカと日本をいじめてやろうと言うのです。エレクトロキャッシュレジスターなどいらない、手動のレジスターで何が悪いのだと言っていたのを、私は明確に覚えています。
そのイギリスがEUに入り、ポンドがそれなりの価値を維持したのは、EUの中でいいとこ取りをして、付かず離れずの関係を持っていたからに他なりません。日本から見たら、どうせヨーロッパ圏に進出するならイギリスは魅力的でした。ヨーロッパ大陸に物も売れるということで、日産などは、EUに入っているイギリスに投資をして大成功を収めています。そういう恩恵を受けているのに、ここでもう一度、あの地獄の35年前のイギリスに戻るのか、ということです。私だったら絶対に戻りません。
実は今回の国民投票は法的根拠がないので、私ならやはり議会で説得をします。今となっては離脱がいかに大きな問題なのかという困難さも分かっているでしょう。国民に対しては、皆さんの意見はよくわかったけれども、熟慮した結果、私はやはり昔のイギリスには戻りたくない、今のEUの中での名誉あるポジションを維持したいと訴え、議会の中で圧倒的に上院、下院を通過させ、皆さんの選んだ議員がこういう形で決めたという方向に持っていきます。
今候補になっている保守党の人たちは一様に国民が決めたことだからこれを守らなければいけないと言っていますが、私が首相に選ばれたら、まずはEUとの交渉でギリシャのツィプラス首相と同様に、コテンパンにやられます。EUもイギリスに対しては分を与えてきましたが、これから先はいいとこ取りはさせないとしています。移動の自由のないEUなど存在しないということを思い知らせてやると言っています。イタリアのレンツィ首相、オランド、メルケルを含め、誰も妥協する余地はないと言っています。この厳しさが交渉を始めればすぐわかると思います。
ヨーロッパ側はこれを妥協したらまずいのです。他の国も国民投票で離脱にさせてそれを交渉に使うようなことになると、ヨーロッパが空中分解するからです。ヨーロッパはすでにイギリスなしでやっていく覚悟を決めています。ツィプラス首相が、ヨーロッパの言う通りにはならないと首相になっておきながら、結局ギリシャが叩かれてEUの言う通りになった、あの憂き目を一度味わった上で、国民投票はなく議会で決める、これが代議制民主主義のやり方だといえます。
国民がもしそれに対して反発するなら、その場合は州ごとに議員に決めてもらうことを考えます。前例としてデンマークはEUにとどまりながら、グリーンランドはEUから外れています。ただし今それを持ち出すと、スコットランドは喜んで行ってしまい、ウェールズや北アイルランドも同じようになるでしょう。特に北アイルランドは内戦が勃発します。イギリス系の人たちとアイルランド系の人たちは100年戦争をやってきたわけです。その前にとにかく議会でこれを反転させてしまう、ルールは議会で決めるというのが良いと思います。国民に対して申し訳ない気持ちを持ちながらも、イギリスのためにはこの選択肢しかなかったと、安倍総理のように、この道しかないとはっきり言う以外にないと思います。
EU前のイギリスは本当に惨めでした。もちろんサッチャー革命もイギリスへの投資を加速させましたが、EUに入っていなかったらイギリスへの投資はヨーロッパ分の投資はしていなかったのです。イギリスへの投資とヨーロッパ大陸への投資は分けて考えられていましたが、EUに入ったことでヨーロッパ投資と言えばイギリスに拠点を置くと言うことになったのです。私が首相なら、それ以前の状態には決して戻りたくはないのです。
EUの中ではドイツに対する反発も強まっていますが、ドイツがいるおかげでEUが保っているところもあるのは事実です。しゃくにさわりますが、ドイツのどこが悪いかと言われると、どこも悪くないのです。ドイツはやはり自分のやる事はやっており、負担するべき事は負担しています。ドイツにここを直せと言えばそれほど反発はないと思いますが、今ドイツは役者も揃っており、周りが受け入れるしかないと思います。ドイツはEUの中のリーダーであり、世界の中のリーダーの一国でもあると思います。
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