BBTインサイト 2019年9月19日

仮想通貨とブロックチェーンの未来像 <第1回> ブロックチェーンのリアル



講師:中島 真志(麗澤大学経済学部 教授)

ビットコインが一大ブームとなり、仮想通貨法の施行や分裂騒ぎなどを経て価格は大幅に変動するなど、ここ数年、仮想通貨が脚光を浴びてきました。しかしこれから大きな影響を与えてくるのは、仮想通貨よりもそれを支える高度な技術であるブロックチェーン(分散型台帳技術)であると言われています。ブロックチェーンは銀行や証券会社などの主流の金融機関がこれまで手がけてきた、「金融のメインストリーム」に革新を起こそうとしています。

仮想通貨のしくみや、様々なビジネスシーンにおけるブロックチェーンの活用のヒントを解説していく本講義。第1回目の今回は、「ビットコインとは何か」から始め、この仮想通貨を夢の通貨と見るか悪魔の通貨と見るかその捉え方を考え、そしてなぜ値上がりするのかというところまでを取り上げます。それではさっそく、仮想通貨の光と影について説明していきましょう。

1.ビットコインとは何か?

そもそもビットコインとは何なのかをご紹介しましょう。ビットコインは2008年に「サトシナカモト」という人が論文で構想を発表し、それをもとに2009年の1月に初のコインが発行されました。なお、サトシナカモトというのは謎の人物で、いまだに誰なのかわかっていません。ただ、日本人ではないだろうと言われています。

ビットコインはインターネットを通じ価値がやりとりされ、物理的な存在がないことから、日本では「バーチャルな通貨」という意味で「仮想通貨」、「バーチャルカレンシー」と呼ばれています。一方海外では、高度な暗号技術を使い偽造や二重使用を防止しているという特徴から暗号通貨、「クリプトカレンシー」と呼ばれています。

ビットコインの特徴の1つは中央に管理者がいないという点です。プログラムが新しい通貨の発行など、様々なことをコントロールしており、ある意味「ガバナンスがない通貨」ともいえます。

特徴の2つめとして、独自の通貨単位を持っており、ビットコインの場合にはBTC(ビーティーシー)という単位があります。したがって法定通貨で円やドルとの間で交換レートが発生します。また、BTCの取引単位は1ビットコイン以下の取引も可能で、最小単位が1億分の1ビットコインで、これを1サトシと呼んでいます。

3つめは、発行主体がないということです。通常、銀行券の場合は中央銀行が発行主体となり、中央銀行の負債として発行されますが、ビットコインの場合には誰の負債でもないものが発行されています。つまり無から有が生まれるということです。

そして、ビットコインはプルーフオブワークとマイニングというのがキーワードになっています。プルーフオブワークというのは、難しい計算をすることによってビットコインの安全性を確保していること、。そしてその難しい計算に成功した人にはリワード、報酬が与えられ、これをマイニングと呼びます。また、発行上限が設けられており、ビットコインは2100万BTCが発行上限です。これはサトシナカモトが通貨の大量発行により通貨下落を避けるために設計されたといわれています。

2.ビットコインを支える不思議な仕組みとは?

次に、ビットコインを支える、特殊な仕組みについて説明しましょう。まず受払に必要なものとしてウォレットとビットコイン・アドレスがあります。ウォレットというのは電子的な財布(デジタル・ウォレット)で、通常パソコンやスマホの中に作成し、その中にビットコインの情報を入れておき、そこから支払いや受取を行います。

その出し入れに使うのがビットコイン・アドレスという、口座番号のようなもので、30桁程度の英数字、アルファベットからなる文字列になっており、相手のアドレスを指定することによってコインを送付することができます。これらのやり取りのデータは全てインターネット上に公開されていますが、一つのウォレットに対し、複数のアドレスでの取引が可能であるため、アドレスは個人の特定ができず、匿名性が高くなっています。これはメリットであると同時に様々な問題を引き起こしています。

続いて、ビットコインの入手方法についてです。ビットコインの入手方法は、3つの方法があります。

一番簡単な方法は仮想通貨交換業者などと呼ばれる仮想通貨の取引所で円やドルと交換して買う方法です。日本も、もうすでに30社以上の仮想通貨取引所ができています。2つめの入手方法は、企業の商品やサービスの対価としてビットコインで受け入れするという方法です。3つめは、採掘するという方法で、これは複雑な計算をしてその対価としてビットコインを受け取ります。

ビットコインの大きな特徴はP2P型のネットワークを取っている、という点にあります。

従来のシステムは、クライアントサーバー型ネットワークといい、中央にサーバーがあり、ここが大容量のデータベースを持ち、クライアントとサーバー間でデータの取引する形に対し、ビットコインの場合は、クライアント同士が通信する分散型です。各コンピューターのことをノードといいますが、ノードがすべて対等の立場で直接通信を行ない、また、同じデータを全員が持っています。左と比較していただきますと「中央がない」んですね、どこにも中央がなくて全員が対等の立場で同じデータを持ち合って取引をしていきます。

そこがメリットでもありデメリットでもありとなっています。

このビットコインの安全性を確保するための仕組みが「ブロックチェーン」と言われるものです。

ブロックをチェーン状につなげていくことによって取引を記録していく仕組みになっており、このブロック1個1個が一種の帳簿である台帳になっています。ひとつのブロックの中に1500件2000件といったデータが入っており、それを10分に1回ずつ作ることによって取引を確定させます。これがコインの偽造や二重使用ができないという仕組みになっています。

ブロックチェーンを使ってどうやって取引をするか、ということですが、まずAさんがBさんにビットコインを送りたい場合、その取引内容をインターネットに送り、「トランザクションプール」というところで待ちます。そうすると、「難しい計算をする人」が重複処理や残高不足がないかなどをチェックした上で、「難しい計算」というものをします。その難しい計算ができると、それをブロードキャストというかたちで、ネット上の参加者へ送ります。すると、送られた側はその検算をします。その検算によって確認が取れると、ブロックが有効になり、これまでのブロックの一番後ろにひとつブロックが追加され、ブロックの中に入っている取引が有効になり、無事AさんからBさんへの取引が有効なものになりました、となります。

ブロックには3種類のデータが入っています、ひとつはトランザクション履歴というものでビットコインの取引の1500件とか2000件のデータが入っています。そして、全ブロックのハッシュ値というものとナンス値というものが入っています。

これらを理解して頂くために、ハッシュ関数を説明します。

ハッシュ関数は膨大なデータを一定の、30桁とか60桁に圧縮するためのデータの手法だと思ってください。元のデータからハッシュ関数を作り、ハッシュ値を出します。ハッシュ関数は一方向関数ですので、ハッシュ値からは元のデータは推測できないという特徴があります。そして、圧縮関数ですので、膨大な1500件とか2000件のデータをハッシュ関数によって少ない桁数にキュッと圧縮することができます。また、1文字でもデータが異なるとまったく違うハッシュ値になります。

そして、もう一つのナンス値についてですが、ナンス値の計算をすることをプルーフオブワークと言います。計算するときの条件の例として、ハッシュ値の先頭は一定の桁数以上のゼロが並ぶナンス値を求めなさい、というようなものになります。全ブロックのハッシュ値は既に決まっており、自分が選んできたトランザクションも決まっているため、変更可能な数値はナンス値のみとなります。

ここにいろいろな数字やデータを入れ、ブロック全体のハッシュ値の計算をします。条件を満たすハッシュ値を計算するには総当り法という、様々なナンス値を入れてみてハッシュ値を求めます。これは1秒間に数億回とか数十億回という膨大な計算をし、それを10分間繰り返すとようやくその正解が一つ見つかるぐらいの難しい計算です。

この計算ができると、最初に適切な答えを求めた人にリワード、報酬として新たなビットコインが与えられるという仕組みになっています。新たなビットコインの発行はこのマイニングによってしか発行されませんので、マネーサプライはこのマイニングによって行なわれるということになっています。

この計算作業は鉱山で金を見つける行為に似ていることから、マイニング、採掘と呼んでいます。そしてこの作業をする人、計算作業をする人のことをマイナー、採掘者と呼んでいます。

このマイニングはそのビットコインの取引を承認することによって安全性を確保しています。そのため24時間365日、必ず誰かがやるよう大きな経済的インセンティブがつく仕組みになっていますが、それがまた様々な問題を引き起こしているということがあります。

3.仮想通貨は夢の通貨か、悪魔の通貨か?

仮想通貨の捉えかたは二つあり、ひとつは夢の通貨、通貨の未来を変えるもの、通貨の革命だという捉え方です。日本もこちらの捉え方が多く、現在の日本のビットコインの取引量は世界の3割から4割ぐらいといわれています。一方で欧米の金融機関の主流な見方では、悪魔の通貨、かなり邪悪なものであると捉えられています。原因の一つとして、時々盗まれたりなくなったりするということがあります。このような流出、盗難の事件は結構多く、海外では香港のビットフィネックス、ユービットという韓国の取引所が60億盗まれ即破産。日本でもマウントゴックス事件や、NEMが580億流出し史上最大のハッキングとなったコインチェック事件がありました。その後も海外での流出事件は後を絶ちません。9年間、ビットコインのブロックチェーン自身は破られていませんが、流通や保管、システム全体として問題があるのではないか、といわれています。

また、ビットコインは匿名性が高く、どのアドレスから資金が払い込まれたかわかりますが、そのアドレスが誰のものかわからないという特徴があります。そこから違法薬物の販売やウィルスによる身代金要求などの犯罪利用、また規制の抜け穴に使われており、世界利用の9割が中国の資本規制回避に利用されているといわれています。

マイニングファームについても、上位13社がシェア8割を占めており、そのうち7割がその中国の10社で占められています。

もう一つの問題として、電力を浪費しているということがあります。マイニングは大量の電力を消費しており、環境問題にも深刻な影響が出ています。

このようなことから、世界的に仮想通貨に対する規制が強化されていくのではないかと見られます。

4.なぜ値上がりするのか?

一時期、年間で20倍以上値上がり、その後3分の1まで落ちるなど変動が大きいのはご存知でしょう。そもそもこの値上がり期待が何故あったのかというと、ビットコインは2100万BTCという発行上限が設定されていることにあります。その発行上限に向けて4年ごとにコインの発行量が半分に減っていくという仕組みになっています。需要が増えていく一方、供給が4年ごとに半減していくため、値上がり期待が起こりました。実は2017末までで、全体の上限の80パーセントが発行済みになっており(2019年8月時点で85パーセント)、今後発行数のカーブがだんだん緩やかになってきて、そのうち100パーセント発行済みになります。

需給で値上がりするには、マイナーがいつまでもマイニングを続けてくれるということが前提になっていますが、リワードは4年ごとに半減していき、損益分岐点を下回り、赤字になる可能性もあります。マイナーが撤退してしまうとネットワークの安全性の低下やビットコインの仕組みの崩壊の可能性があります。また、需要があるということが前提になっていますが、実際は通貨としては使われてはおらず、資産として使われています。

マイナーは計算をして報酬を受けますが、電気代等の支払いのためにビットコインを取引所へ売却し、それを、投資家がせっせと買っているのがビットコインの中心的な取引であり、通貨ユーザーが小口で売買することはほとんどありません。

ビットコインについては3つの大きな懸念があります。ひとつは上述のように匿名性が高いために犯罪やマネーロンダリングに利用される可能性が高いということです。もうひとつはボラティリティが高いということで、支払いの手段や資産価値としても使えません。また、本源的な価値がないという議論があります。裏付けになっている資産がなく、将来得られるキャッシュフローがゼロのため、そのゼロのキャッシュフローを現在価値に割引き直してもゼロとなるという議論がなされています。

ビットコインの将来性という意味では、ちょっと慎重に見ていておいたほうがいいのではないか。少なくとも、一部の人が言っているように円やドルに匹敵する世界的通貨になるのはちょっと難しいのではないかな、というのがわたしの見立てです。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年4月26日に配信された『仮想通貨とブロックチェーンの未来像01』を編集したものです。


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講師:中島 真志(なかじま まさし)
1981年一橋大学法学部を卒業後日本銀行に入行、調査統計局、金融研究所、国際局、金融機構局などに勤務。
国際決済銀行、金融情報システムセンターなどを経て2006年より麗澤大学経済学部教授。
決済分野を代表する有識者として金融庁や全銀ネットの審議会などにも数多く参加。

  • <著書>
  • 『決済システムのすべて』(東洋経済新報社)
  • 『証券決済システムのすべて』(東洋経済新報社)
  • 『SWIFTのすべて』(東洋経済新報社)『アフタービットコイン』(新潮社)他