実践ビジネス英語 2020年2月1日

仕事に効くビジネス英語講座〈第12回〉世界のビジネスパーソンができて、日本人には苦手なこと(前編)



執筆者:PEGL事務局清水

皆さんは、「世界の“フツーの”ビジネスパーソンにはできて、日本のエリートが苦手なこととは何か」と聞かれたら、どんなことを思い浮かべますか?世界の多くの国、欧米だけではなく、中国、インド、シンガポール、韓国などのアジア、そして中東、東欧や南米を含めた主要国で、大学・大学院の教育を受けたビジネスパーソンにはできるのに、日本のエリート社員には苦手なことがあるのだと船川淳志氏は指摘します。

船川氏と今北純一氏の共著書『そろそろ、世界のフツーをはじめませんか――いま日本人に必要な「個で戦う力」』(日本経済新聞出版社)の中から、世界のフツーのビジネスパーソンにはできて、日本のエリートにはなかなかできないこと6項目をみてみましょう。

6項目は船川氏がグローバル人材育成と組織開発を過去20年間行い、世界70カ国、4万人のビジネスパーソンと対話をし、観察してきた体験から日本のビジネスパーソンが抱える課題を絞り込んだものです。みなさんも同じ苦手意識を持っていないかどうかをを確認してください。

6項目のうち、今回は前半の(1)~(3)を、次回後半の(4)~(6)をお伝えします。

1.自分の意見を気おくれせずに、分かりやすく伝える力

“(1)自分の意見・見解を、複数の人間、しかも専門の異なる初対面の相手にでも、気おくれすることなく、かつわかりやすく伝えることができる。”
(「身内」以外に対する発信力と説明責任能力を備えているか?)

日本人は、身内同士では問題なくコミュニケーションできますが、初対面で、しかも相手が複数であったり、専門分野が違うビジネスパーソンに対して、分かり易く伝えるための情報伝達能力を鍛えてきたとは言いにくいところがあります。根底には二つの原因があると船川氏は指摘します。

一つ目は米国の文化人類学者であるエドワード.T.ホール氏が唱える「ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化」という識別法で言うところの、日本はハイコンテクスト文化の国であるという点です。

ハイコンテクスト文化においては、仲間同士であればお互いに相手の意図するところを察し合うことにより、ツーカーで気持ちが通じ合います。ハイコンテクスト文化では、言語によって情報伝達しようとする努力やスキルよりも、共有するコンテクスト(脈絡、状況、雰囲気、前後関係、背景など)の量に頼ります。

このため、言語の受け手が、発言者と共通のコンテクストを共有していることを期待されます。コミュニケーションの成否は、話し手の説明能力よりも聞き手の理解能力に依存するところが大きいというわけです。例えば、「そこの辺り(のニュアンス)をくみ取って」という具合に同じ「空気」、つまり背景や脈略を共有していることを聞き手に要求する話し手が時々います。そのような話し手は、仲間以外の、コンテクストを共有しない人が相手だと、お互いに会話の糸口を見つけることもできず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることを把握するのが難しくなります。

 一方、欧米はローコンテクスト文化です。コンテクストには依存せず、あくまで言語そのものによるコミュニケーションを重視するので、重要な情報を明確に伝えます。聞き手が話の意味を推測しなければならないようなあいまいな内容の発言は、発言者側の伝達努力不足でありルール違反であり、無責任なものととられます。

 二つ目の「阿吽の呼吸」「以心伝心」というハイコンテクストのコミュニケーションも外国人に対しては機能しにくいものです。同書の共著者である今北氏は、海外で働いた際、「たった一人の日本人として、はるばる遠い異国からやってきたのだから、英語やフランス語に苦労しているのは当たり前のこと。だから、相手の方から手を差し伸べて、手取り足取り、あるいは、おんぶにだっことまでは言わないけれども、こちらの事情をくみとって多少のことは大目にみてくれてもいいのではないか、もうちょっと優しく接してくれてもいいのではないか」と海外に赴任した当初は毎日のように感じていたと言います。

海外で同じような経験をした読者もいるのではないでしょうか。日本人同士のような甘えが通用しないからと言って外国人とコミュニケーションを取ることを諦めたり、居直って日本人のコミュニティの中に閉じこもってしまうのは最悪です。そんなことをしてしまうと、当然のことながら、コミュニケーション・スキルは伸びません。

2.ハイコンテクスト・ローコンテクスト文化に適応する力

“(2)相手の話を聞いている時に、理解できないこと、不明なこと、興味を持ったことについて率直に質問することができる。”
(周りの顔色をうかがわずに、聞くべきことを聞ける質問力、胆力、そして知的好奇心を備えているか?)

日本人の場合、「話し手が言っている内容を理解できないのは自分の能力不足のせい。理解できていないのは自分だけかもしれない」と思い込んでしまう傾向が強いようです。上述したように、ハイコンテクスト文化においては発言者の説明能力よりも聞き手の理解能力に依存するところが大きいからかもしれません。

さらに、話を途中で遮るのは失礼で、例え、話をその時点では理解できなくても「人の話は最後まで聞く」ことが奨励されます。その結果、分からない内容の話であっても、その時点で質問したり確認することなく、最後まで話を黙って一方的に聞くことになります。

英語で説明を受けている時、聞いていて途中で理解しづらいことがあったとしても日本式に“I see.”とか“Uhuh”と相槌を打って話し手に調子合わせてしまうと、話す側はそのままどんどん話を進めてしまい、余計に理解できなくなってしまうというパターンをみなさんは経験したことはないでしょうか。

「いまは分からないけれど、後で確認すれば何とかなる」と思いながらも、ますます理解できなくなって何とかならなくなる悪いパターンです。理解できているふりを一時的にすることによって発生する悪循環を断ち切るためには、とにかく、理解が追いつかなくなってしまったその時点で直ちに確認や質問をすることが重要であると、船川氏は述べています。

具体的は“Let me clarify what you said.”とか“Could you clarify that?”“May I ask a question?”と、相手が話している途中でジェスチャーを入れて相手の話に質問しても海外では失礼になりません。

3.恥をかく文化・正解主義の恐怖から抜け出せる力

“(3)自分の見解について、異なる立場の他者からの質問や提案を受けた時に、建設的な対話を展開することができる。”
(肩書き、年齢、学歴などの属性を理由に、相手の質問を封じ込めたり、反対に、質問をはぐらかしたり、逃げたりせずに向き合える対話力を備えているか?)

日本人が苦手とするものが一般的に二つあると船川氏は述べています。
一つは「恥をかく」ということです。
もう一つは「正解」から外れてしまうことに対する恐怖心です。

自分があらかじめ用意した原稿を読み上げることはできても、聞き手から出てくるさまざまな質問に対処できないというのは、間違ったことを答えてしまうかもしれないという“恐怖心”と間違った答えを述べてしまうことによって“恥をかく”という上記の二つの意識が複合的に影響していると考えられます。

また、質問を受けた際に、権威主義を丸出しにして強弁や詭弁で質疑応答を避ける人も時々見かけます。海外では、強弁や詭弁で逃げた本人の評価はそれだけでぐんと下がるのだと、今北氏も述べています。

いかがでしたでしょうか。
船川氏が上記で述べているのは、世界である程度以上の教育を受けたビジネスパーソンが備えているべき事の「中級」でしかないのだと言います。それにもかかわらず、日本では、上級国家公務員試験に合格した人、あるいは、大学院卒の「エリート社員」でさえも四苦八苦していることばかりであると警鐘を鳴らしています。

後半の(4)~(6)は次回解説します。お楽しみに。

【参考】そろそろ、世界のフツーをはじめませんか―いま日本人に必要な「個で戦う力」(最終アクセス:2020年1月31日)
http://www.amazon.co.jp/dp/4532318823/
pp.15-18、188-205 

ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化(最終アクセス:2020年1月31日)
http://www.pan-nations.co.jp/column_001_005.html

※この記事は、ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ講座「実践ビジネス英語講座-PEGL[ペグル]-」で毎週木曜配信中のメルマガ「グローバルリーダーへの道」において、2015年3月5日に配信された『今週のコラム』を編集したものです。


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ナビゲーター:清水 愛(しみず めぐみ)
PEGL[ペグル] 英語教育事務局 マーケティング/PEGL説明会、個別ガイダンス担当。2012年BBT入社。前職は海外留学カウンセラー。これまで6,000人を越えるビジネスパーソンと接し、日々ひとりひとりの英語学習に関する悩み解決に向き合いながら、世界で挑戦する人たちの人生に関わる。

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