実践ビジネス英語 2020年7月23日

仕事に効くビジネス英語講座〈第19回〉外国人社員から“評価されない”日本人 【前編】



執筆者:PEGL事務局清水


今回は、マネジメント・スタイルについて取り上げます。実践ビジネス英語講座・リーダーシップ力トレーニングコースで講師を務める米国人のロッシェル・カップ氏は、マネジメント・コンサルティング歴が長く、日本人マネジャーの長所と欠点を間近で見ています。

カップ氏が特にコンサルティングの対象としているのは、「米国式上司を期待している米国人社員」を管理する日本人マネジャーです。カップ氏によれば、日本人マネジャーは、米国や他の国々では時代遅れ、または効果がないとされているマネジメントのアプローチをいまだに用いていることが多いと言います。

カップ氏の著書の『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか』(インプレス)から、日本人マネジャーが外国人社員を管理する際の盲点について解説します。

少し昔の調査になりますが、リクルートが中国、日本、シンガポール、インドのアジア4カ国で約300人ずつ合計約1200人の社員を対象として実施した調査「アジア4カ国の上司像と働き方に関する調査2012」によると、「上司への満足度」で日本は最低のスコアを記録しています。インド人社員の82%、中国人社員の89%が現在の上司のマネジメント・スタイルに満足しているのに比較して、日本人社員の満足度はわずか50%でした。

【参照】アジア4カ国の上司像と働き方に関する調査2012 (リクルート調査)
http://www.recruit-ms.co.jp/research/inquiry/in121128.html

タワーズワトソンが実施した調査でも類似した結果が出ています。「上司がマネジャーとしての仕事を効果的にこなしているか」という質問に対して日本人社員で「こなしている」と回答したのは45%、「どちらでもない」は39%、「こなしていない」は16%でした。世界平均は「こなしている」が61%、「どちらでもない」は25%、「こなしていない」は15%でした。

日本人マネジャーはどうして評価が低いのでしょうか。日本人マネジャーの弱点について同書は考察しています。

1.日本人マネジャーの“マイクロマネジメント”は自身の保身のため?

日本人マネジャーに関して最も問題が大きいのは、“マイクロマネジャー”として過度に細部に気を配るマネジメント・スタイルです。

マイクロマネジャーとは部下の仕事を極度にコントロールしたがるマネジャーのことを言います。マイクロマネジャーは部下の仕事の細部にわたって、すべての段階でチェックを入れ、仔細な意思決定にまで関与します。

米国人マネジャーなら部下に作業を一任し、細部は気にしません。米国人は一人前のプロフィールを持っている社員なら、プロジェクトの責任を持ってすべてを処理するものだと考えていると、カップ氏は述べます。マネジャーから委託された個別の仕事に対し、自分の専門知識をフルに動員し、持てる力の全てをそこに注ぎ込むものと捉えているわけです。

専門知識も力もあって仕事を一人で完遂できる米国人社員は、マネジャーの助言を頻繁に求める必要がないと考えられています。個人の仕事は個人の産物であり、個人の業績のみを反映しているものであるという考え方です。

米国人上司は最初に緻密な指示を与え、あとは部下が「ボールを受け取って走り」(米国で頻繁に使われるイディオムです「take the ball and run with it」)、「独立して行動」(同「works well independently」)することを期待しています。よってマネジャーは自分の部下が取り組んでいる仕事の詳細をすべて把握していることは必要とされていません。

自分の管轄下にあるプロジェクトの詳細についてマネジャーが把握していない場合、上層部に対して「ちょっと分からないので、担当している部下に確認して後から報告します」という回答は正直で妥当であるとされるのだと、カップ氏は述べています。

一方、日本人マネジャーはすべてを監視し、細部にまで口を出すという点に心当たりはないでしょうか。日本では上司が部下の仕事の内容に責任を持つことになっているため、必要に応じて上司自身が納得するように部下の仕事をやり直すことも多く見られます。

日本人マネジャーは自分の部署で進行している仕事の非常に細かいことすべてを把握して、上層部からどんな質問があっても、即答できるように準備しています。即答できなければ上層部から注意や叱責があり、将来の昇進の道を閉ざしてしまうと恐れているわけです。結果としてそれが息苦しいマイクロマネジメントのスタイルにつながっているのだと同書は指摘します。

2.ホウレンソウは米国人社員には期待できない

ホウレンソウ(報告・連絡・相談の頭文字を並べたもの)は、大学卒の新入社員が社員教育で一番最初に学ぶ仕事のやり方です。

この概念は日本でこそ一般的に及しており、知らない人はいないと思いますが、米国では知られておらず、英語の言葉すら存在しません。同書によると前述した「マイクロマネジメント」が最も近い言葉です。

カップ氏が開催するセミナーでは、「ホウレンソウ」が出来ていない米国人社員が多いのだと、次のような嘆きを日本人マネジャーから多く聞くのだと言います。

「なぜ自分の部下は、進捗状況や質問の有無を自分に報告しないのか?部下の仕事の状況について闇の中に取り残されているような気がする」――。

米国人に特有の「独立して行動」する仕事の仕方、つまり仕事の進捗状況や完成度など途中経過が見えず、締切期限の直前になって初めて最終的な完成物をまとめてドカンと渡されるようなやり方は、日本人マネジャーにとって不慣れで戸惑うものです。「締切期限までに果たして間に合うのだろうか」「完成度が低かったらどうしよう」と不安に感じることでしょう。

米国では部下が「ホウレンソウ」を実行すると、米国人マネジャーはその部下のことを「手を引いての世話が必要な仕事能力に欠ける人材」だと判断するこ
とになるだろうと同書は指摘します。

3.マイクロマネジメントの対極にあるエンパワーメントが米国のトレンド

マイクロマネジメントと対極にあるマネジメント・スタイルが「エンパワーメント(権限委譲)」です。同書によると米国ではエンパワーメントが非常に効果的あるとされています。

エンパワーメントとは、社員が賢明で責任感が強いと信じることに基づいています。エンパワーメントを与えられた社員は上司の承認を取らずに自分で意思決定できます。近年、社員にエンパワーメントを与えて、個々の社員に意思決定を任せることが米国企業でトレンドになっているのだと同書では言います。

個人だけでなくチームの全員に対し、上司に相談することなしにチームメンバーのスケジュールを管理したり、意思決定できるようなエンパワーメントを与えることも重要だと同書では説きます。日本のマネジャーは、社員をもっと信頼し、社員が自分で考えて行動する裁量を与えることが必要だと同書ではアドバイスしています。

いかがでしたでしょうか。

みなさんには自分が今までに慣れ親しんだマネジメント・スタイルがあると思います。それだけで突き進もうとすると、時に予期しない不具合を生じかねません。特にグローバル環境では要注意。自覚のないまま行っているマネジメント・スタイルがあるかもしれません。

それを自覚した上で、日本人・外国人の個々の部下に応じたマネジメントを意識的に行うのが望ましいと言えるでしょう。本メルマガが、みなさんのマネジメント・スタイルを見直すきっかけになれば幸いです。

【参考】日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか(インプレス)pp.164-175
http://www.amazon.co.jp/dp/4844373951/
(最終アクセス:2020年7月23日)

※この記事は、ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ講座「実践ビジネス英語講座-PEGL[ペグル]-」で毎週木曜配信中のメルマガ「グローバルリーダーへの道」において、2015年05月14日に配信された『今週のコラム』を編集したものです。


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ナビゲーター:清水 愛(しみず めぐみ)
PEGL[ペグル] 英語教育事務局 マーケティング/PEGL説明会、個別ガイダンス担当。2012年BBT入社。前職は海外留学カウンセラー。これまで6,000人を越えるビジネスパーソンと接し、日々ひとりひとりの英語学習に関する悩み解決に向き合いながら、世界で挑戦する人たちの人生に関わる。

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