大前研一メソッド 2023年5月9日

米国の銀行連続破綻は、世界金融危機に発展するか

us bank collapse

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

米国で銀行の経営破綻が相次いでいます。2023年3月10日に資産規模全米16位のシリコンバレー銀行(SVB)が破綻して、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に一時は置かれました。その後、SVBは、米ノースカロライナ州に本店を置くファーストシチズンズバンクに買収されました。

欧州でも大手の銀行が破綻しました。シリコンバレー銀行破綻の翌週には、世界でも5本の指に入る名門、クレディ・スイスの株価が急落しました。経営破綻が決定的になり、3月19日にはスイス政府の主導により、同じスイスのUBSが30億スイスフラン(約4260億円)で買収して救済することに決まりました。

米国ではさらに2023年5月に米ファースト・リパブリック・バンクが経営破綻し、預金と資産を大手銀行の米JPモルガン・チェースが買収すると発表しました。

【graph1】U.S. bank assets

米国と欧州で立て続けに銀行が破綻したことで、連鎖して世界的な金融危機が起きる可能性を危惧する人は多いでしょう。米銀とクレディ・スイスとでは破綻した原因が異なります。連鎖ではなく、たまたまタイミングが重なっただけです。その点を誤解して総悲観になると、金融危機が現実のものになるので注意が必要です。

今号では米銀の破綻について、次号ではクレディ・スイスの破綻について、BBT大学院・大前研一学長に解説してもらいます。

米銀行破綻は、FRBの政策金利引き上げが原因

米銀から見ていこう。シリコンバレー銀行の破綻は、一言でいえばパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が悪い。パウエル議長の頭の中は雇用とインフレの問題で占められていて、西海岸の一銀行のことなど考えずに金利を上げていったからだ。

なぜ金利を引き上げたらシリコンバレー銀行が破綻したのか。米国はインフレ抑制のため、2022年3月に政策金利を0.25%から引き上げ始め、2023年5月時点で政策金利は5.25%だ。一年で大幅な利上げをしたことがわかる。

【graph2】interest rates of Jap US Eur

金利を上げると他国からお金が流れ込む。市場に溢れたお金は一般的に不動産か、株式か、債券に向かう。ただ、不動産投資は借金を伴うケースが多く、金利が高すぎると下火になる。株式市場も金融の引き締め局面では相場が低調にならざるをえず、上場投資信託(ETF)からの資金流出が続くなど、勢いを失っている。

不動産や株で運用することが難しければ、残るのは債券だ。しかし、比較的安全といわれる米国債も金利急上昇でついに暴落。顧客から預かっていたお金を米国債で運用していたシリコンバレー銀行は一気に経営危機に陥った。

なぜシリコンバレー銀行は米国債で運用していたのか。銀行には「預金」「決済」「運用」の3つの機能がある。顧客から預金を集め、そのお金を送金して手数料を取り、お金が必要な会社や人に融資して利益を得るわけだ。シリコンバレー銀行は預金と決済の機能があったが、運用の機能が弱かった。

シリコンバレーの投資家たちは、ベンチャー企業が人を雇ってサービスを開発する前にまずお金を投資する。ただ、お金がじゃぶじゃぶ集まっても、すぐには使い道がない。そこでベンチャー企業はシリコンバレー銀行に預ける。ベンチャー企業が金余りということは、銀行側から見れば融資先がなくなる。シリコンバレー銀行が米国債で運用していたのはそのためである。

企業が金余りでも、伝統的な銀行のように法人営業部隊があれば融資を求める会社を開拓できただろう。しかし、新興銀行に融資に強い人材はいない。「人材に経費をかけるくらいなら米国債を買う」と安易に考えたことが今回の破綻につながったのだ。

日本でも1990年代後半に銀行の破綻が相次いだ。北海道拓殖銀行、北海道銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行。これらはすべて融資先がひっくり返って行き詰まった。つまり運用の失敗だ。今回の米国の銀行破綻は運用の成否以前に、そもそも運用をする力がなかったことが原因だ。

パウエル議長は、銀行に基本的な能力に欠けているところがあるとは想像していなかったのだろう。実態を把握せずにマクロ経済だけを見て金利を上げ続けたのは失策である。

米銀の連鎖破綻が続く可能性

米国では「次に救済が必要な銀行はどこか」と疑心暗鬼になっている。SNSとインターネットを通じた金融サービスが預金の流出のスピードを加速させている。デジタル時代の預金の取り付けという意味で「デジタル・バンク・ラン」とも呼ばれている。

米カリフォルニア州を地盤にする銀行持ち株会社のパックウエスト・バンコープが「身売りを検討している」という報道がある。また、アリゾナ州が地盤のウエスタン・アライアンス・バンコープにも身売り報道が浮上している。同社は報道を完全否定している。

2023年5月に0.25%の利上げを決めたFOMC後の記者会見の席上、パウエル議長は銀行の経営破綻が相次いだことに対して「後悔はないか」という質問に対して、「I’ve had a few.」と後悔を認めている。ただ、後悔の詳しい内容や対策について触れておらず、環境は改善していない。

米国では特に小規模銀行から預金の流出が止まらず、連鎖破綻がしばらくの間は続く可能性が高いだろう。

【graph3】deposit balances in US bank

※この記事は、『プレジデント』誌 2023年5月19日号、『大前研一ライブ』#1162 2023年5月7日放映を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。