今回は『アジア主要国の一人当たりGDP推移』を取り上げてご紹介します。
前回は、世界全体における主要国のGDP規模および一人当たりGDPの推移を確認しました。その結果、日本はGDP規模、一人当たりGDPのいずれにおいても、世界的な順位を落としてきたことが明らかになりました。
今回は、アジアの主要国と日本の所得水準を比較することで、日本の現在地を整理してみたいと思います。近年、アジアでは中国やASEAN諸国の高成長が語られてきましたが、注目すべきは単なる「成長率」だけでなく、「所得水準」と「伸び方」の違いです。日本は依然として先進国水準にありますが、為替や成長率の影響を受けやすく、相対順位が揺れやすい局面にあります。
それでは、2000年以降、アジアの所得水準はどのように変化してきたのでしょうか。日本はアジアNIES(韓国・台湾・香港・シンガポール)と比べて、どのような推移をしてきたのでしょうか。また、中国やASEAN諸国、インドと比較すると、どのような傾向が読み取れるのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。
今回も、IMFが公表している2000年から2030年までの一人当たりGDP(名目、予測含む)データを基に見ていきます。まず、日本とアジアNIESの一人当たりGDPの推移を見てみます。シンガポールは、2000年時点で約2.4万ドルでしたが、2024年には約9.1万ドル、2030年には約11.4万ドルへと大きく伸びています。香港も、2000年の約2.6万ドルから、2024年には約5.4万ドル、2030年には約6.9万ドルと、高水準を維持する見通しです。台湾と韓国も堅調に成長しています。2024年時点では台湾が約3.4万ドル、韓国が約3.6万ドルですが、2030年には台湾が約5.0万ドル、韓国が約4.4万ドルへと上昇すると見込まれています。一方、日本は2000年に約3.9万ドルからスタートし、2012年に約4.9万ドルで一度ピークを迎えました。しかしその後、2013年には約4.1万ドルへ水準が切り下がり、2024年には約3.2万ドルまで低下しています。2030年には約4.3万ドルまで回復する見通しですが、他のNIES諸国との差は依然として大きい状況です。
次に、中国およびASEAN5の動向を見てみます。中国は2000年に約960ドルと低水準でしたが、2024年には約1.33万ドル、2030年には約1.90万ドルへと急速に上昇しています。ASEAN5では、マレーシアが2000年の約4,350ドルから、2024年に約1.26万ドル、2030年には約1.81万ドルへと伸び、中国に近い所得水準に達しています。タイも、2000年の約2,000ドルから、2024年には約7,500ドル、2030年には約9,300ドルと着実に成長しています。インドネシアとフィリピンも、2000年にはそれぞれ約870ドル、約1,090ドルでしたが、2024年には約5,000ドル、約4,100ドル、2030年には約7,000ドル、約6,200ドルへと上昇する見通しです。これらのデータから、ASEANではマレーシアが先行し、他国が時間差でキャッチアップしている構図が読み取れます。
最後に、インドおよびASEANの後発国を見てみます。ベトナムは2000年の約500ドルから、2024年には約4,500ドル、2030年には約6,300ドルへと着実に成長しています。カンボジアは2024年に約2,700ドル、2030年には約3,800ドルまで伸びる見通しです。一方、ミャンマーは2024年で約1,100ドル、2030年でも約1,500ドルと、相対的に伸びが小さい状況が続いています。インドは2000年の約440ドルから、2024年には約2,700ドル、2030年には約4,350ドルへと上昇すると見込まれています。
こうして見ると、日本の一人当たりGDPは、「シンガポールや香港といったNIES上位国に追随できていない」だけでなく、「韓国・台湾との差も縮まらない局面が続いている」ことが分かります。東アジアの主要地域の中で、日本が最も低い水準となる逆転が生じている点は、重要な示唆を含んでいます。また、2030年の見通しを見ると、シンガポールや香港との差はさらに広がり、韓国や台湾に追い付く見込みは乏しい一方で、中国やマレーシアといったASEAN上位国との差は大きく縮まる見通しとなっています。
アジア全体を俯瞰すると「上位層(シンガポール・香港)」「先進国帯(日本・韓国・台湾)」「中進国帯(中国・マレーシア)」「追随層(タイ・インドネシア・フィリピン・ベトナム)」「後発国」という多層構造が形成され、その内部で順位の入替りが進んでいるといえます。
日本としては、上位国にキャッチアップしていくために何を学ぶべきか、シンガポールや香港が強みとする金融、デジタル、富裕層向けサービス、地域統括拠点(HQ)といった分野から何を参考にできるのかを、改めて考える必要がありそうです。また、日本企業がアジアで事業展開を検討する際にも、こうした所得水準の多層構造を前提に戦略を組み立てていくことが求められることになりそうです。