業界ウォッチ 2026年1月27日

【データから読み解く】医療費の国際比較

今回は『医療費の国際比較』を取り上げてご紹介します。

日本の社会保障制度は今、大きな転換点を迎えています。いわゆる「2025年問題」として知られる通り、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護ニーズが爆発的に増加する局面に入りました。日本では、2024年度の国民医療費が48.0兆円で過去最高、75歳以上が初めて4割を超えた――といった報道もあり、負担と給付の再設計が改めて論点化しています。新聞等で高齢者の窓口負担引き上げや診療報酬改定を巡る議論が連日のように報じられており、現役世代のビジネスパーソンにとっても健康保険料の増大や企業の福利厚生コストの膨張は無視できない課題となっています。

「日本の医療費は高騰し続けている」という漠然とした不安を抱く一方で、それが他国と比較してどの程度の水準にあるのか、あるいはどのような構造的特徴を持っているのかを正確に把握できているでしょうか。医療費(対GDP比)は、各国でどれほど差があり、何がその差を生んでいるのでしょうか。日本の水準は「高い」のでしょうか、「高く見える」のでしょうか。データはどちらを示しているのでしょうか。最新のOECDデータに基づき、日本の医療費の現在地を、実際に数字を見て確認したいと思います。

medical costs

まず、2024年時点におけるOECD諸国の医療費(対GDP比)の現状を整理します。調査対象国の中で突出して高い水準にあるのは米国です。米国の医療費は対GDP比で17.16%に達しており、主要国の中でも別格の規模となっています。これに続くのが、ドイツ(12.27%)、オーストリア(11.78%)、スイス(11.77%)、フランス(11.54%)といった欧州諸国です。これらと比較した日本の数値は10.63%となっています。主要国(G7)の中では中上位に位置しており、英国(11.13%)をやや下回り、イタリア(8.44%)を上回る水準です。「日本の医療費は高すぎる」という議論が国内では盛んですが、マクロ経済の視点で見れば、現状では欧米先進国と同等水準にあるということが分かります。

また、支出の「内訳」を見てみます。日本の医療費(10.63%)の内、公的支出(政府・義務的スキーム)が占める割合は9.007%に達し、全体の約85%を占めています。一方、民間支出は1.618%に留まります。ドイツも公的支出が10.583%(全体の約86%)と日本に近い構造ですが、米国は公的支出が14.298%と絶対量が多い一方で、民間支出も2.862%と他国に比べて極めて高いのが特徴です。日本の医療制度は、その大部分を公的な社会保険・公費で賄うことで高いアクセス性を維持している、構造的な特徴が数値に鮮明に表れています。

次に、OECD主要国の医療費の対GDP比を時系列推移(2000年〜2024年)で見てみます。そうすると、日本の立ち位置の変化がより明確になります。 2000年時点では、日本の医療費は対GDP比で7.035%に過ぎませんでした。当時、米国は12.49%、ドイツは9.76%であり、日本は主要国の中でも「低コストな医療」を実現していたと言えます。しかし、その後20年余りで、日本は3ポイント超上昇させてきました。

日本の数値は2019年の10.7%から、2020年には11.45%、2022年には12.322%と、過去最高水準まで跳ね上がりました。これはパンデミック対応に伴う公的支出の急増や、経済活動の停滞によるGDP(分母)の低下が影響したものと考えられます。 その後、2023年には10.74%、2024年には10.63%へと落ち着きを見せていますが、コロナ禍前の2000年代前半と比較すれば、高い水準で高止まりしている状況に変わりはありません。2024年の数値が2022年比で低下しているのは、新型コロナの5類移行に伴う特例的な公費支援の縮小や、名目GDPの成長が寄与していると推察されます。

他国との比較においても、この20年間の上昇ペースは日本が際立っています。 例えばイタリアは2000年の7.547%から2024年の8.444%へと、上昇幅を1ポイント以内に抑え込んでいます。日本が20年間で「低コスト国」から「中上位国」へとシフトした背景には、少子高齢化という抗い難い人口動態が色濃く反映されていると考えられます。

こうしてみると、日本の医療費(対GDP比)は10.6%。G7内では中上位ですが、米独に比べれば抑制された水準にあることが分かります。日本の医療費(対GDP比)の推移で見ると、コロナ禍の影響を除いても2000年の7.0%から20年余りで大きく上昇していることが分かります。また、支出の約85%が公的負担という構造は、今後の急速な高齢化に伴い、現役世代の負担増と制度の持続可能性に強い圧力をかけることになると考えられます。

これらを踏まえると、医療費は「抑える」だけでなく、「どこに投資し、どこを制度的に設計し直すか」が競争力(財政余力・労働供給・可処分所得)を左右する、と言えそうです。

資料:
https://data-explorer.oecd.org/

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