2026年2月10日

【データから読み解く】国民医療費の推移

今回は『国民医療費の推移』を取り上げてご紹介します。

前回は「医療費の国際比較」ということで、国際比較することによって日本の医療費がどのくらいの水準にあるのかを見てきました。今回は、日本の医療費(国民医療費)を、その内訳・構成比から、どのような構造変化が起きているのかを見てみたいと思います。

国内の「国民医療費」がついに48兆円(2023年度)を突破しました。これは日本の一般会計税収(約70兆円前後)の7割にも迫る規模であり、GDP比で見ても無視できない重みを持っています。 少子高齢化が進む日本において、医療費の増大は「避けられない未来」として語られてきましたが、その内訳を詳細に見ると、単なる「自然増」以上の構造的な変化が浮かび上がってきます。 私たちにとって、この巨額の資金がどこへ流れ、誰が負担しているのかを理解することは、今後の社会保障負担の予測や、ヘルスケア産業の市場機会を見極める上で不可欠となっています。

それでは、年代別・年齢構成別で、医療費はどのようになっているのでしょうか。15〜64歳の現役世代と、65歳以上、特に後期高齢者とされる75歳以上の医療費にどのような違いがあるのでしょうか。財源別、診療種別で見ると、どのような違い、どのような変化がみられるのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。
trend of domestic Healthcare Expenditure

まず、国民医療費全体の推移を見てみます。2000年に約30.1兆円だった医療費は、2023年には約48.1兆円へと拡大しました。この期間のCAGR(年平均成長率)は約2.05%です。一見すると緩やかに見えますが、GDP成長率が低迷する日本において、このペースでの拡大は財政へのインパクトが極めて大きいと言えます。特にコロナ禍の影響を受けた2020年の一時的な減少を除けば、ほぼ一貫して右肩上がりを続けています。

次に年代別の推移を見てみます。2000年度は75歳以上が約7.55兆円(総額の約25%)だったのに対し、2023年度は約19.15兆円(約40%)まで拡大しています。一方で65歳未満は金額としては増えているものの(2000年度約15.58兆円→2023年度約19.21兆円)、構成比は約52%→約40%へ低下しています。つまり、医療費増大の大部分は「後期高齢者医療」によって説明されます。これは人口動態上、予測された未来ではありますが、その「金額の絶対値」がビジネス環境や現役世代の負担に直結するレベルに達しています。

財源別で見ると、公費(国庫+地方)の比重がじわりと上がっています。2000年度は公費が合計で約33%程度ですが、2023年度は約37%程度まで上昇しており、特に地方公費の比率上昇が目立ちます。保険料(事業主+被保険者)の比重は相対的に低下しており、少子高齢化で保険料基盤が伸びにくい中、公費の役割が増している構図となっています。

次に診療種別で見てみます。2000年度から2023年度で、入院・入院外が大宗である点は変わりませんが、構成比で見ると薬局調剤が約9%→約18%へ大きく上昇しています。逆に入院外の構成比は、そのものが縮小したというより、薬剤費(調剤)が相対的に伸び、医療費の重心が“医療機関の診療行為”だけでは捉えにくくなっている可能性を示唆します。

医薬分業の進展により、薬剤費の管理が病院から薬局へシフトしたことが数字に表れています。ビジネス視点で見れば、調剤薬局市場がいかに巨大な「成長市場」であったかが再確認できますが、同時に、薬剤費の適正化が今後の政策の焦点になることを示唆しています。

こうしてみると、国民医療費の推移を見るうえで重要なのは「水準の高低」そのものより、(1)高齢化による患者構成の変化、(2)支出の中身が薬剤・調剤にシフトしていること、(3)財源が保険料だけでは吸収しにくく公費比重が高まることの3点であると考えられそうです。国内では75歳以上が医療費の約4割を占めるまでに拡大しており、制度設計の論点は“総額抑制”だけでなく、薬剤最適化、地域の医療提供体制、そして国・地方の役割分担(公費配分)へ移っていると考えられます。日本の医療費問題の本質は「総額の抑制」という単純な議論ではなく、「資源配分の最適化」にあると言えそうです。

75歳以上の医療費が全体の4割を占める現状では、予防医療や健康寿命の延伸といった「医療費を使わないための投資」が重要になると考えられます。調剤医療費の伸びは、ジェネリック医薬品のさらなる普及や、リフィル処方箋の活用、さらにはデジタルヘルスによる服薬管理といった「効率化ビジネス」に巨大な機会があるとも考えられます。データからは、単なる「負担増」という悲観論だけでなく、構造変化に伴う新たな市場機会と、日本が世界に示すべきソリューションのヒントがあるとも言えそうです。

資料:
厚生労働省:令和5(2023)年度 国民医療費の概況
総務省e-Stat