大前研一メソッド 2020年6月1日

大勢で飲んで騒ぐ飲み会は“古い生活様式”?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

新型コロナが外食・食品業界に対して大きな影響を与えています。外食・食品業界の中でも最もネガティブな影響を受けているのが、料飲店(酒場 、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供することを業とする店)や居酒屋です。例えば、居酒屋大手の決算は以下のようです。


【図】新型コロナによる外食・食品業界への影響

ワタミが発表した2020年3月期の連結決算は、最終損益が29億円の赤字となりました。2021年3月期中に全店舗の13%にあたる65店を閉店することを決め、減損損失19億円を計上しました。新型コロナウイルスの影響により、2020年3月は全店合計売上高が約4割減、2020年4月は同9割減となりました。同社は手元資金を確保するため、2020年3月に50億円の短期借り入れを実施しました。

【資料】ワタミの2020年3月期決算(連結)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7522/tdnet/1838437/00.pdf

同様に、「北海道」や「甘太郎」などのブランドを傘下に持つコロワイドが発表した2020年3月期の連結決算は、最終損益が64億円の赤字となりました。2020年中に全直営店の1割強にあたる196年を閉店することを決め、減損損失106億円を計上しました。

【資料】コロワイド2020年3月期決算(連結)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7616/tdnet/1836066/00.pdf

人々の価値観や行動様式が大きく変化している中、新型コロナ禍が終息した後も以前の姿に戻ることは難しいと考えられます。アフター・コロナの世界で、料飲店や居酒屋の業界を中心にどのような変化が起きると予想されるか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

大勢で飲んで騒げる、安い居酒屋がなくなる?

ビジネスパーソンがよく利用する飲食店というと、いわゆる居酒屋的な店で、大勢で安い酒を飲みながら大声でしゃべりまくっているシーンが思い浮かぶ。こういった光景はがらっと変わってくるのではないだろうか。

もともと飲食業界は過当競争で価格が上がらない構造があった。しかし、今回のこの新型コロナの感染拡大の影響で、お客を「密」にして薄利多売で稼ぐようなことはやりにくくなった。結果的に、過当競争はだいぶ整理され、メニューの単価も上がり、食べる量も減ってくるのではないか。

お客さんが狭いところでワイワイと語り合うようなことは少なくなるだろう。居酒屋のような形態は難しくなると思う。欧米では踊り子のいるキャバレーのようなものはあるが、女性が隣に座って酒を飲みながら歓談する形のものはほとんど見かけない。日本でも女性が隣に座り接客するようなクラブもしばらくは閑古鳥だろう。

また、庶民的なラーメン店や牛丼店の中には、隣との間や正面に仕切り版を設置しているところも出てきている。こちらもかなり変わってくるはずだ。

飲食店の禁煙もかなり徹底されてきている。近い将来、透明なついたてが設けられたテーブルを挟んで、お互いの距離が倍になった座席に座って、静かに語り合いながら、おいしいものを食べるという店が増えるのではないか。料理の量は3分の1、お酒の量は半分、タバコはもちろんなし…。

これは、どちらかというと、イタリアとかスペインとかフランスなどの比較的高級なレストランのイメージである。米国ではいまだに大声で話す人が多いが、欧州では明かりも薄暗くして話し方も静かだ。日本の会食もこういう姿に近づいていくのではないだろうか。

業者向けにしか出さなかった高級食材を一般向けに販売

高級肉や高級魚、高級果実といった高級食材の流通にも変化が見られる。東京・豊洲市場の食材を扱っている通販会社が、これまで飲食店など業者向けにしか出していなかった高級食材の販路を広げ、ネットを使って一般向けに販売したところ、注文が急増しているという。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴うイベント自粛や外出自粛で、ホテルやレストラン、料亭などへの客足が極端に減り、高級和牛や寿司ネタで人気の国産クロマグロ、マスクメロンの価格が通常より2割から3割安くなっているからである。

これら高級食材の値崩れは、外国人観光客の減少も影響している。ネット販売に限れば、売上高は前年同月比で5倍になっているという。

巣ごもり中、料理レシピサイト「クックパッド」で作り方を検索して、自宅で高級外食店で過ごすような気分を味わいたいという人が増えた。その需要に乗って、ある程度は販売できるのだろう。しかし、いくらネット販売の売り上げが5倍になったといっても、全体の売り上げはやはり少ない。これでは豊洲市場も気合が入らない。

高級魚の値下げで、漁師さんも「もう船の油代にもならない」と嘆いている。厳しい状況に追い込まれ、ネットだけではさばけないので、スーパーに卸す人も現れ始めた。豊洲市場だけでなく、漁業関係者や酪農業者、さらには飲食業者も元気が出ない。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』2020年5月24日、『大前研一ライブ』2020年5月24日 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。