BBTインサイト 2020年8月13日

ビジネスリーダーに学んでほしいリベラルアーツ~リベラルアーツの6つの世界観とは?



講師: 高橋俊介(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授)
編集/構成:mbaSwitch編集部

昨今、ビジネスリーダーやビジネスパーソンの間では、「リベラルアーツ」がキーワードとなっています。仕事はそれなりにやってきたが、自分には教養が足りないと感じていらっしゃる方も、多いのではないでしょうか。

本日は、リベラルアーツの6つの世界観について、ご紹介していきましょう。

1.今なぜリベラルアーツなのか?

リベラルアーツとは、大学で学ぶ幅広い基礎学問です。日本の多くの大学には教養課程があり、皆、学んできているはずなのですが、なぜ自分には教養がないと思ってしまうのでしょうか。リベラルアーツを学ぶ目的とは何なのでしょうか。

①グローバルな環境でリーダーとしての恥ずかしくない会話、社交をできるようにするため?

よくあるのは、日本のエグゼクティブが海外のエグゼクティブと話すとき、仕事以外の教養的な話についていけないという話です。クラウドソーシングのような、外に開いた新しい環境をどんどん作っていかなければならないビジネス環境下では、グローバルに様々な人々と関係性を構築する能力が重要です。

②勉強オタクが、生涯の趣味として極めたいから?

人生百年時代、日々の仕事や職業がどんどん変化していく中で、専門分野として勉強していきたいものを持つことは、非常に大事です。その意味で、興味を持つことができる一つの教養的な分野をリタイア後も長く学び続けるというのは、とてもよいことでしょう。

③幅広い脳を使い、変化の激しい時代の一流のビジネスパーソンの基本的で広範な習慣を身に付けるため?

例えばアーツや音楽を感性で感じ取り、それを自分の言葉で自論にしていくことは、人間の脳を幅広く健全に発達させます。色々な物事が複雑に絡み合う中で、偏らないレベルの高い仕事をすることができるという意味では、仕事で使わない脳をあえて使うことを習慣化し、自論をアウトプットすることが重要です。

④物事の本質を理解し、普遍性の高い発想の引き出しを増やすことで、自身の世界観形成につなげていくこと?

キャリアの中で何らかの専門性を深めながらも、一方で変化が激しいときに、複雑に絡む様々な分野の全体像についての自論が常に用意できるかどうかが、その人が持つ世界観です。その意味で、より深みのある世界観を構築するためには、リベラルアーツが重要です。

直接的には分野が異質に見えて、実はそれを抽象化・普遍化して一つの引き出しのようなものにしたときに、様々なものがつながっているということにふと気付く瞬間が何度も重なると、深みのある世界観ができるのです。

以上4つのうち、どのような意識でリベラルアーツを学ぶのかという意味でお薦めしたいのは、4番目です。リベラルアーツを学ぶことを通じて、自分自身の様々な世界観を持つための基盤を作っていただければと思います。

2.深みのある世界観構築のために重要なこと

それでは、深みのある世界観構築のために重要なこととは何なのでしょうか。

まずは、ファクトに対して謙虚である姿勢です。思想で凝り固まってしまうと、自分の思想に合わないファクトは無視するという、認知の歪みが生じてしまいます。

次に、表面的な好き嫌いに反応するだけでなく、異なった意見を前向きに議論する習慣です。ただ好き嫌いを言って終わってしまうと、アーツが深めたことにはなりません。自分が感じ取ったことをきちんと言語化し、異なった意見を前向きに議論する習慣が大切です。

そして、一見関係のない異なる分野のファクトを意味としてつなげる習慣です。異質な分野の関係性に気付くときが、普遍性の高い本質に迫る引き出しができる瞬間なのです。

3.どのように本を選ぶべきか?

ビジネスパーソンの方々は、読書から始めるのがよいでしょう。どのような本を選べばよいのでしょうか。

まずは、フィクションやフィロソフィー、未来予測ではなく、「ファクト」です。本に正解を求めるのではなく、ファクトの本をできるだけ読んでください。フィロソフィーはファクトを積み上げて自分で作るものです。また、未来も自分で予測するものであり、本に正解を求めてはなりません。

次に、現時点で最もファクトに近づき、そこから本質的な意味合いを引き出そうとしている本を選びましょう。本質的な意味合いを引き出そうとしている本でないと、単なるファクトの羅列で終わってしまいます。

そして、組み合わせとして意外性があっても、実は本質的につながっている本の組み合わせ(例えば、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」と「GAFA四騎士が創り変えた世界」)が重要です。一見、異質な本を組み合わせて読むことで、意味が深まります。

以上のように選んだ本は、問題意識を持って読むことが重要です。問題意識を持って集中して読み、そこから気付きを拾って整理してみましょう。それによって、そのことについて忘れている、あるいは関係のない本を読んでるときに、ぱっとひらめくという思考パターンを身に付けることができるでしょう。

また、異質の本の積み重ねで、本質的発想に辿り着くことがあります。それぞれの本は、単独ではなく積み重ねることで、互いに相互関連しながら深みのある世界観につながります。意識すべき世界観を整理し、それらについて定期的に書き足しや改訂を加えることで、積み重なった知見のつながりや、自身の世界観構築の軌跡に気付くことができるでしょう。

本は、新たな科学的手法の開発などにより常に進化し、同時に世界観も常に進化し続けます。古典的名著はもちろん、新たな知見がどんどん出ている科学や社会心理学などの分野の本も、追っていただきたいと思います。

4.学んでほしい6つの世界観

それでは、皆さんに学んでいただきたい6つの世界観をご紹介していきましょう。

①グローバル観

まずはグローバル観、世界をどう見るかです。推薦図書、及び、読む上での切り口は、下図の通りです。

例えば、西欧と日本の共通点は「外からの学び」ということで、「世界史Ⅰ・世界史Ⅱ」では以下のように述べられています。

好奇心旺盛なフランク族は、ユーラシア大陸の反対側の端に位置する日本と同じように、周囲の文明化した民族が数え切れないほど多くの点で、自分たちに勝っていることを自覚していた。そのため、フランク族も日本人も、どこから伝わったものであろうと有望で新奇な手法なら、何でも試してみた。多くの技術を輸入した。

また「文明の生態史観」では、西欧と日本を「第1地域」、その真ん中にあるユーラシア大陸を「第2地域」とし、第1地域はもともとの大国である第2地域(中国、インド、ロシア帝国、イスラムなど)から新しいものを学んできた述べられています。自ら主体的に外から学ぶことができたところが、第1地域であるという歴史観につながっています。

②日本観

続いては日本観です。

日本の特異性を理解するために、まず読んでいただきたいのは、歴史的名著「日本の歴史を読みなおす」です。日本では、金もうけは悪、すなわち、士農工商で商人が最下層であるという文化が根付きました。これは、農本主義の思想を刷り込み、それ以外をできるだけ遠ざけたかった政権の意図なのだということを、著者の網野善彦氏は述べています。

このように日本を見てみると、非常に興味深いです。

③組織観

3つ目は組織論です。

日本の組織の特異性を理解するということで、例えば「日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実」を読めば、日本社会によくある精神論はどこから来ているのかということがわかるでしょう。日本軍兵士が強いられてきた戦い方は、日本の組織の特異性をえぐり出しています。

また「タテ社会の人間関係」によれば、日本のビジネスパーソンがグローバル環境で社交下手なのは、単に教養が欠けているのではなく、そもそも日本企業は、社交を必要としない社会が逆に強みとなるようなビジネスモデルで勝負してきたからだということです。

④人間観

4つ目は、人間観です。

人の心的機能とその多様性を理解するということで、「交雑する人類」は名著です。最新のDNAゲノム考古学を使い、出アフリカ以降、人類はどのように展開してきたのか、その中での交雑の重要性を述べています。企業でダイバーシティを推進する方々は、まず、この本を読んでいただきたいと思います。

人種や民族、その違いは何なのかという本質的な問題に対し、ファクトを突きつけてくれるでしょう。

⑤社会観

5つ目は、社会観です。

社会をつくる人間関係を理解するということで、特にお薦めなのが「チョンキンマンションのボスは知っている」です。チョンキン(重慶)マンションとは、香港にある怪しい建物で、安宿や安い飲食店など、怪しい人々が多く出入りしてる所です。

新進気鋭の社会人類学者である著者の小川さやか氏が、このマンションにいるタンザニア人の商人集団のボスに同行して商売を観察するのですが、非常に興味深いです。

⑥経営観

最後は経営観です。経営者はどうあるべきなのでしょうか。

例えば「世界を変える人たち」は、何人もの有名な世界の社会起業家についてインタビューした本で、彼らの動き方やリーダーシップの在り方など、社会起業家とGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)のような経営者との違いを比較するのに非常によいでしょう。

また「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の中で、マックス・ウェーバーは100年以上も昔に、現代の資本主義社会の姿を予言しています。この本の後に「GAFA四騎士が創り変えた世界」を読むと、より理解が深まるでしょう。

リベラルアーツを学ぶ上では、自分はどのような意味でリベラルアーツを勉強したいのかということを意識することが重要です。それを一つ意識したら、リベラルアーツを学び、深めてください。広くアーツを取り入れ、考えていただければと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2020年3月16日に配信された『組織人事ライブ 660』を編集したものです。

講師:高橋 俊介(たかはし しゅんすけ)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授
東京大学工学部航空工学科卒業、日本国有鉄道勤務後、プリンストン大学院工学部修士課程修了。マッキンゼーアンドカンパニーを経て、ワイアット社(現在Willis Towers Watson)に入社、1993年代表取締役社長に就任。その後独立し、ピープルファクターコンサルティング設立。
2000年5月より2010年3月まで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所キャリア・リソース・ラボラトリー(CRL)研究員。2011年11月より現職。個人主導のキャリア開発や組織の人材育成の研究・コンサルティングに従事。

  • <著書>
  • 『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)
  • 『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP新書)
  • 『キャリアをつくる9つの習慣』(プレジデント社)
  • 『スローキャリア』(PHP文庫)
  • 『キャリアショック』(ソフトバンククリエイティブ)
  • 『人が育つ会社をつくるーキャリア創造のマネジメント』(日本経済新聞出版社)
  • 『人材マネジメント論』(東洋経済新報社)
  • 『ヒューマン・リソース・マネジメント』(ダイヤモンド社)