BBTインサイト 2020年6月11日

ビジネスプロセスマネジメント<第4回>ソリューション活用のポイントは“要求“



講師: 山本政樹(株式会社エル・ティー・エス執行役員)
編集/構成:mbaSwitch編集部




新しい技術が創出されるたびに、その技術の活用が企業の重要テーマとなることがよくあります。

しかし、ビジネスプロセスマネジメントの観点からすると、技術の活用を目的としてソリューションを考えることは妥当ではありません。上司から「AIで何とかしろ」と言われて困った経験をした方が、みなさんの中にもいらっしゃるのではないでしょうか。

では、ソリューションを活用するには、どういうことに気を付けなければいけないのでしょうか。具体的にポイントを見ていきましょう。

1.大切なのはソリューションそのものよりも要求

今回はビジネスプロセスマネジメントの観点で、ソリューションを活用する際のポイントをお伝えします。
具体的には3つのポイントがあります。まず、ひとつ目は、ソリューションを活用する際は必ず目的がある、というポイントです。ふたつ目は、ある目的に従ってソリューションを活用する場合、ソリューションに対してプロセスが必ず出す要求とは何かというポイントです。最後は、ソリューションは導入して終わりではなく、しっかり導入効果を検証測定しなくてはいけないというポイントです。

まず、ひとつ目のポイントから詳しく見ていきましょう。

新しい技術が創出されると、その技術を使って何かできないかという観点からソリューションが活用されることがあります。昨今だと「AIを使って何か改革を進めたい」といったものが最たるものでしょう。しかし、改革を考える際に活用する技術をまず先に考えることは妥当ではありません。

例えば、金融サービスの受付センターを例にとってみましょう。入会受付のプロセスには目標があり、「より満足度が高く効果的な入会受付と審査を実施したい」がプロセス目標になります。このプロセスの目標を達成するために、色々な観点でソリューションを活用したいとすると、そこには次のような色々な要求があります。

・音声からお客様の感情を分析して、より良い対応に役立てたい
・曖昧な指示でも、欲しい情報にたどりつけるFAQ(よくある質問)を作りたい
・お客様の入会審査の判断を過去のデータからより最適化したい

これらの要求からソリューションを考えると、音声解析ツール、FAQツール、ルールエンジン、もっと高度な機能を持った最適化ツールなどが候補に挙がります。そして、現在は、こういったソリューションを活用しようとすると、ほぼ間違いなく、AIと呼ばれるような技術は要素として入っています。

大切なのは、「AIを使いたい」という右側から物事を考えて「どのプロセスで使おう」ということではなくて、各プロセスの目標を考えて、そのための要求事項があって、その要求事項からソリューションを考えていくという姿勢です。このような姿勢で考えれば、プロセスから見てしっかりと目標達成できるのであれば、それが最新技術かどうかは関係ありません。最新の技術はメリットもありますが、一方でそれだけコストやリスクが高いこともあります。きちんとプロセスの目標が達成できるのであれば、枯れた技術や古い技術を使ってもなんら問題はなく、必ずしも、最新のものや高度なものが良いということではありません。

2.技術活用には目的と常日頃から特性を理解する姿勢が大切

ソリューションというと、デジタル技術(テクノロジー)を使った何かというイメージがあると思いますが、実際のビジネスプロセスマネジメントで使われるソリューションは、もっと広範にさまざまなものがあります。

例えば、デジタルソリューションではありませんが、ビジネス・プロセス・アウトソーシングやシェアードサービスといったソリューションもそのひとつです。また、単純に言ってしまえば、業務マニュアルも「過去のノウハウをしっかりまとめて業務を学びやすくする」というソリューションの一つと考えることができます。ソリューションという言葉をデジタル技術に限定して考える必要はありません。

業務(ビジネスプロセス)には必ず実行者が必要です。それは大きく分ければ人か設備のどちらかとなり、ここでは情報システムも設備の一部としています。デジタル技術やロボットを使った業務の自動化は、単純に考えれば業務の実行者を人から設備に移行させる取り組みです。これにより生産性の向上や、リードタイムの削減などさまざまな効果を生み出します。

ただ、業務の実行者が代わっただけで、この場合は業務そのものの本質は何も変わっていないことに注意が必要です。ですから情報システムを使った業務の自動化では、第2回目で説明したようなビジネスプロセスの構造理解が必須になるわけです。

最近では人が行っていたプロセスの単なる設備への置き換えではないソリューション活用も増えてきています。ここでは自動車保険を例に取り上げます。自動車保険料は、保険会社が持っている顧客と同様の属性の人たちの事故率や運転の特徴から判断して、統計的に解析して算出するのが、これまでの標準モデルでした。例えば、20代のころに自動車保険に加入すると、自分の事故率が低くても割高な保険料を払う必要がありました。これは、その属性の人たちの事故率が高かったからです。

これに対して、米国の保険会社であるProgressive社が導入した新しい自動車保険は、モバイルアプリケーションを使った実測で顧客ごとの保険料を算出しています。顧客の車の中にGPSやセンサーを組み込んだデバイスを設置して顧客の運転特性を計測します。そこから運転の危険度を判定して保険料を算出する仕組みです。こうすると、その人の本当の運転特性に合わせて計測ができるので、他の20代の人が事故を起こす確率が高いので、20代というだけで割高な保険料を払わなければならない、ということがなくなります。会社としても、事故のリスクを抑えたお客様を顧客としてしっかりと囲い込めるというメリットがあります。

この事例は、最新の技術を使うことで、これまでの保険料の算出プロセスを根底からひっくり返した手法です。ただ、この場合も保険料算出プロセスの究極の目標、つまり「各顧客の運転の危険度に合った保険料を算出したい」ということは変わらないわけです。ですから、最終的にビジネスプロセスの変革にソリューションを適用する際の拠り所となるのは、第3回目で説明したプロセスと目的と目標となります。

このように、どのような場合でも「ソリューションの活用はプロセスの目的・目標を達成するため」というポイントは忘れないようにしてください。「プロセスの目標は何だろうか?」という観点にきちんと立ち戻ることが大切です。

3.明確な目的だけではソリューションは活用できない

ここまで、目的が重要という事をお伝えしてきましたが、明確な目的だけあれば、それだけでソリューションの活用がうまくいくわけではありません。

自動化の目的は分かりやすいですが、そこからさらに踏み込んで、どういう風にソリューションに振る舞って欲しいのかという要求事項をしっかり出す必要があります。そして、その通りにソリューションをセッティング・構築していく必要があります。

4.要求をしっかりと出すためのポイント

システム開発プロジェクトを例にすると、要求事項をしっかり出そうとしても、うまくいかないケースもあります。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査によると、プロジェクトの遅延やコスト増加理由は、仕様検討不足、または、仕様変更が原因だったという調査結果になっています。つまり、エンジニアリングの問題ではなく、そのシステムを使う人が、何が欲しいのか説明できないということが問題であるということになります。

最近は業務のシステム化により、これまで人がやっていた仕事が機械化され、その機械化された中に埋め込まれたプロセスの論理に対する人間側の意識が希薄になり、よく分からなくなってしまうことが増えました。そのため、新たなソリューションを導入しようとした時に、そのソリューションに求めるものをしっかり説明ができない、という事例が増えています。

求めるものの説明ができないと、「現行システムでできることは、一旦全部できるようにしておいて欲しい」という要求になりがちです。こういった実現性の怪しい要求は、システム開発プロジェクトのコストや工期を肥大化させる主要因となります。他にも以下の図のような色々な実現性が怪しい要求があります。

それでは、ソリューション導入は、本来どのように進めて行けばよいのでしょうか。以下の図を見てください。

まず、プロセスには目的や目標があります、というところからスタートしてください。そして、そのプロセスの中でソリューションの導入対象となっている範囲のプロセスを切り出して目的・目標を明確にします。この目標がプロジェクトの成功を判断するプロジェクトのKPIになります。その目標を実現するために、どういったビジネスプロセスが求められるのか、また、ビジネスプロセスからこのようなソリューション機能が必要だと順を追って考えていく必要があります。最後にソリューション機能に落とし込んでいきますが、基本的には、以下のように「アウトプット」「インプット」「処理」の構造でまとめていきます。

・そもそものアウトプットとして何が欲しいのか
・そのアウトプットを作るために必要な情報はどのようなものがあるのか、また、システムに対しての入力はどのように担保されるのか
・インプットされたデータはどういう処理を経てアウトプットの形になるのか

これらをしっかりと提示することが要求をしっかり出す、ということになります。

5.ソリューション導入効果は意外と測定されていない

ここまでは、いかにソリューションを適切に導入するのか、そのポイントをお伝えしてきました。導入して使い始めたら、本当に意図した効果がでているかをしっかり測定する必要があります。当たり前のことのように思われますが、意外と行われていません。

2008年に経済産業省が当時の東証一部上場企業400社に行ったアルトソーシングの活用に関する調査結果があります。その中で、「アウトソーシング効果をきちんと測定していますか」という質問に対して、「測定していません」が一位の回答でした。これは、アウトソーシングの取り組みの問題というだけではなく、プロセスマネジメントにおいて、きちんとKPI管理ができていないという問題です。

どういうソリューションであったとしても、適切にKPIを管理して導入後に効果があったかどうかをKPIで確認する事が大切です。

6.ソリューション導入後の評価も環境変化で変わりつつある

ITがビジネスと切り離されない関係となる中で、以下の図のようにソリューション導入後の評価の考え方も変わりつつあります。

「与えられた時間とコストの中で言われたものを作れば良い」という受け身の姿勢ではなく、しっかり事業の目的を理解し、その事業が外部環境に合わせて変わり続ける中で「変わり続ける要求に迅速に対応し続ける」という観点でプロジェクトを評価するという考え方が増えてきています。全てにおいて、こういう評価をしなければいけないというわけではありませんが、環境変化が早い現代において、評価観点も変えていく必要があります。

ここまで説明した考え方は、それがどのような種類のソリューションであっても基本的には同じです。目的と目標があって、その目標から指標を出して、それを軸にソリューションを選びます。また、導入した後のソリューション評価もこれらの目標やKPIが基準になります。

ソリューション活用は、あくまでも目的・目標ありきです。
そして、技術ではなくプロセスが先にあります。こういった観点から、ソリューションを活用いただければと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年03月16日(金)に配信された『ビジネスプロセスマネジメント 04』を編集したものです


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山本政樹(やまもと まさき)
株式会社エル・ティー・エス執行役員
立命館大学政策科学部卒業後、アクセンチュアにてビジネスプロセスコンサルティングに従事、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。
情報システム開発におけるプロセス設計や現場展開、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛け、現在はビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙を中心に活動。

  • <著書>
  • 『サービスサイエンスによる顧客共創型ITビジネス』(共著・翔泳社)
  • 『ビジネスプロセスの教科書』(東洋経済新聞社)など