大前研一メソッド 2024年2月27日

日本の少子化の改善し、労働人口を確保する解決策

falling birthrate worker

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

日本の名目GDP(国内総生産)が年内にもドイツを下回り、4位に転落する見通しです。2026年にはインドにも逆転されると予測され、5位転落は既定路線です。

【図1】日本のGDPはドイツに抜かれ、世界4位に転落
GDP Germany Japan
日本の生産力が低迷している背景の一つには、人口減少という構造的問題があります。残念ながら、これまで人口減少と経済成長の両立を成し遂げた国は歴史上ありません。

日本の少子化を改善し、労働人口を確保する解決策について、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

国家の衰退を反転させたければ人口を増やす

国家の衰退を反転させたければ人口を増やすことが必要条件である。そのためには「子ども」を増やすか、それができないなら「女性」の地位向上に注力するか、「移民」を積極的に受け入れて労働人口を増やすしかない。

日本が日本の少子化の改善と労働人口の確保を図り、名目GDPを向上させていくには、以下の3つの段階を踏む必要がある。

【図2】国力は人口で決まるため、国家の衰退を反転させたければ人口を増やすことが必要条件となる
power and population

第1段階:旧統一問題に根本からケリをつける

安倍晋三元首相の一派、その背後にいる日本本会議や旧統一教会的なイデオロギーを持つ人たちは、父系優先の古い家族観を持っている。また、その一部は国粋主義的に、移民受け入れに反対する勢力でもある。

まずは、岸田首相が党内の問題を含め、改めて旧統一教会問題に根本からケリをつけることだ。

今のところ、岸田首相は「多様性が尊重される包摂(ほうせつ)的な社会づくりに取り組む」と表明している。自民党内でも、安倍元首相が反対していた夫婦別姓の導入を目指す動きが活発化している。

また、岸田首相は2023年7月に「外国人と共生する社会」について前向きな発言をしており、移民政策にも比較的積極的な姿勢のようだ。

しかし、旧統一教会の入れ知恵に影響された安倍的な保守議員が議会にのさばっている限り、いつまでたっても現実的な議論ができない。旧統一教会とズブズブな自民党議員に引導を渡すのが、岸田首相の役割だ。

第2段階:戸籍を母系主義に変更

そして次のステップでは、戸籍の母系主義への変更と移民受け入れについての法整備を進める。この2つに関しては、デンマークとカナダやオーストラリアなどの政策が参考になる。

デンマークは30年以上も前に、戸籍制度を撤廃している。子の出生証明には母親の欄しかなく、母系優先なのだ。

母系優先の社会では、婚外子が冷遇されないというメリットがある。デンマークと同様に戸籍制度を撤廃しているフランスやスウェーデンでは、出生する子どものうち5―6割が婚外子。しかし、婚外子たちは周囲から色眼鏡で見られることもなく、すくすくと育っている。父系優先が根強い日本と韓国ではありえない光景だろう。

ちなみに、2021年のフランスの合計特殊出生率は、1.83。これは欧州連合加盟国ではもっとも高い数値だ。デンマークは1.72、スウェーデンは1.67と、北欧2カ国も高い出生率を誇っている。一方、日本の合計特殊出生率は1.30、韓国に至っては0.81だ。

価値観の多様化で未婚化は今後も進行するが、戸籍制度の撤廃で出生率の向上に寄与するとみて間違いない。日本もデンマークなどにならって、母系優先に移行するべきだ。夫婦別姓議論などで躓いている場合ではない。

第3段階:移民受け入れ

GDPが日本を抜くドイツは、移民政策で成功した。

移民政策については、カナダやドイツが参考になる。2023年11月、カナダ政府は2026年まで年間50万人の移民を受け入れると発表した。移民制度強化に伴う措置で、8500万カナダドルを予算に計上し、新規移民や永住権の審査を迅速化させる。トルドー首相は2015年の政権発足以来、推定250万人の移民を既に受け入れているが、その数字をさらに伸ばす格好だ。

カナダは国民の約4分の1が移民で構成されており、移民によって深刻な労働力不足に悩む医療、製造、建設業などの現場が支えられている。

日本もカナダと同様、福祉や建設業などの現場で労働力不足が続いているが、今は時限的な外国人技能実習制度で急場をしのいでいる。しかし、「奴隷労働」とも揶揄される同制度をめぐっては、頼みの綱であるベトナム人などからそっぽを向かれ始めている。

名目GDPで日本を抜いて世界3位になるドイツも、移民難民政策で成功を収めている。移民難民にとって、最初にぶつかる壁は「言語」と社会習慣への適応だ。そこで、ドイツ政府は、移民難民に対するドイツ語教育に力を入れている。移民難民に日本語教育を施すとなると、戦前の朝鮮に対する植民地政策のことが頭をよぎるかもしれない。しかし、「日本に来たい」という外国人に対しては、日本語と社会習慣の教育が必要不可欠になってくる。

以上が、日本の少子化を改善し、労働人口を確保する解決策だ。ほかにも成果が出ないのに10年近くも続けられ、今も同様の方針が続く経済政策である「アベノミクス」の問題もあるが、それもこれも、旧統一教会など安倍元首相が遺した負の遺産を解決しないことには、実現しない。岸田首相には政権浮揚、ひいては日本の将来のためにも、自民党に蔓延する安倍的なものと決別し、党内の膿を出し切ってもらいたい。

※この記事は、『プレジデント』誌 2023年12月15日号、『大前研一アワー#507』2023年12月31日配信 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。