今回は『自治体DXの課題』を取り上げてご紹介します。
自治体DXは「住民サービスの質」と「行政運営コスト」を同時に左右するテーマです。人口減少・人手不足が進むなかで、窓口業務や内部事務を従来の延長線で回し続けることは難しくなっています。一方で、DXは号令だけでは進まず、現場には制度改正対応やセキュリティ制約、ベンダー依存など複数のボトルネックが残ります。では、自治体向けソリューション市場の伸びと、現場が感じる「進まない理由」を並べてみると、何が見えてくるのでしょうか。なぜ国からの強い推進方針が示されているにもかかわらず、現場でのDX実装は停滞しがちなのでしょうか。民間に比べて遅れが指摘される自治体DXについて、現場にはどのようなハードルが存在するのか。また、市場規模の推移からどのような特徴的なトレンドが見えてくるのでしょうか。実際に数字を確認しながら整理してみたいと思います。
まず、自治体向けソリューション市場規模の推移に着目します。矢野経済研究所などのデータをもとに構成された資料によれば、市場規模は2021年度の7,275億円から右肩上がりで成長を続け、2025年度には9,660億円(対前年度比117.7%)というピークを迎える予測となっています。しかし、この成長は持続的なものではありません。翌2026年度には8,840億円(同91.5%)へと縮小し、その後も2028年度の7,980億円まで減少傾向が続くと見込まれています。この2025年度を頂点とする山型のトレンドは、政府が主導する「地方公共団体情報システムの標準化」の移行期限が2025年度末に設定されていることによる特需を反映していると考えられます。つまり、現在の市場拡大は、自治体自身が自律的にIT投資を拡大しているというよりも、制度対応という外的要因に牽引された側面が大きいと読み取れます。
次に「進まない理由」を見ます。DX推進が遅れている理由(n=111)では、上位が「予算制約」(約68.3%)、「IT等の専門人材不足」(63.4%)で、まず“投入できる資源”がボトルネックになっています。さらに「人事異動によるノウハウ喪失・継続性欠如」(43.9%)、「前例踏襲型の組織文化」(41.5%)が続き、単年度予算や人事ローテーションといった行政組織特有の設計が、変革の継続を難しくしていることが分かります。
技術・調達面では、「LGWAN環境による外部サービス利用の制限」(24.4%)、「特定ベンダー依存で柔軟な対応が難しい」(12.2%)が挙がっており、アーキテクチャや調達慣行が“変えたいのに変えられない”状況を生んでいると読み取れます。また、「国・県からの制度変更対応が優先され後回し」(9.8%)という回答もあり、自治体DXが本来は攻めの改革であっても、日々の制度対応に吸収されやすい実態が示されています。
最後に、こうした環境下でデジタル化に対して何が期待されているのかを見てみます。グラファーによる調査では、デジタル化に最も期待する分野として「行政事務の効率化」が42%と最も高い支持を得ています。2位の「防災分野」(16%)、3位の「教育・子育て分野」(15%)と比較しても、その差は大きいと言えます。
この結果は、多くの自治体が依然として「内部業務のデジタル化」に最大の優先度を置いていることを示しています。住民向けサービスの高度化よりも、まず庁内の業務効率化を達成したいというニーズが強いことから、自治体DXはまだ「守りの段階」にあると解釈できます。一方、防災(16%)や教育・子育て(15%)への期待も一定水準にあり、今後は効率化の次のフェーズとして、住民生活に直結する分野へのデジタル投資が焦点になると考えられます。
こうしてみると、自治体DXの課題はテクノロジーそのものというより、組織マネジメントや制度設計の問題であることが浮き彫りになります。市場規模のデータは、2025年度をピークとした投資の集中と、その後の反動減という政策主導型市場の構造を示しています。持続的な成長には、交付金依存からの脱却と、自治体自身が主体的にDX投資を行える財政・組織基盤の構築が不可欠です。
ビジネスの視点では、自治体DX市場はGovTech(行政×テクノロジー)領域への参入機会であると同時に、組織変革支援やDX人材育成といったソフト面での需要拡大を示唆しています。また、自治体が抱える「予算・人材・組織文化」という課題は、多くの日本企業にも共通するテーマであり、公共セクターの変革は民間企業にとっても重要な示唆を含んでいると考えられます。
資料:
矢野経済研究所プレスリリース
テックタッチ株式会社プレスリリース
一般社団法人行政情報システム研究所 2025年6月号 研究員レポート 「行政デジタル化実態調査 報告書」から見える自治体DXの今と未来
株式会社グラファー「令和6年度 行政デジタル化実態調査」