大前研一メソッド 2023年6月20日

万博もIRも、大阪経済の起爆剤にはならない

OSAKA KANSAI EXPO2025

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2025年大阪・関西万博の大人入場券の料金が7500円に決まりました。必達目標の来場者数は2820万人です。

万博の運営組織「日本国際博覧会協会」(万博協会)は、東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)などのテーマパークと比較したうえで入場料金を決定したといいます。

テーマパーク名    大人入場料金
東京ディズニーランド 7900〜9400円(変動制)
USJ        8600〜1万400円(変動制)

大阪府の吉村洋文知事(大阪維新の会代表)は「家族連れが行きやすい料金設定になっている」と評価したと報道されています。一方、BBT大学院・大前研一学長は、万博の開催自体が「答えがある時代の発想」で万博の成功に懐疑的です。3000万人も本当に集客できるのでしょうか。

維新の会は、万博とIRを大阪経済の起爆剤にする考えだが・・・

大阪維新の会が現在注力しているのは、埋め立て地の夢洲(ゆめしま)と舞洲(まいしま)で計画している万博とIR(統合型リゾート)だ。

維新の会は、万博とIRを大阪経済の起爆剤にする考えだ。しかし、これらは「答えがある時代の発想」だ。

2025年に大阪万博が開催されるが、実は大阪での万博開催は3回目。第1回目の1970年の万博はたしかにインパクトが大きかった。ただ、それはディズニーリゾートなどがなかった時代のこと。1990年にも鶴見緑地などで花博が開催されたが、まったく盛り上がらなかった。今3回目をやっても、人々は万博ではなくUSJに足を運ぶだろう。

万博の跡地で開業を予定しているIRも期待できない。シンガポールのマリーナベイ・サンズの成功を受けて、世界中でIRが次々に開業した。しかし、その多くは閑古鳥が鳴いている。ゲンティンハイランド(マレーシア)、マカオ、フィリピン、韓国、どこも人がいない。

カジノが儲からなくなったのは、中国のハイローラー(超大金を賭ける顧客)が来なくなったからだ。習近平と王岐山が汚職撲滅運動で、ハイローラーたちを粛正した。大阪のIRも、中国の方針が変わらない限りうまくいかないだろう。ましてや日本人からは6000円の入場料を取ると言うから、これでは閑古鳥が鳴くこと間違いなしだ。

万博とカジノは、今や世界的に衰退産業である。冷静に現状を分析すれば、それらで経済が良くならないことは明白だ。しかし、答えのある問題しか解いてこなかった政治家は、「過去の成功事例こそ唯一の正解だ」と思い込んでしまう。

メガリージョンを成長させる知恵が地方に欠如

小国でない限り、もはや国民国家としての繁栄は難しい。日本政府に任せていても、時代錯誤の政策しか出てこない。地域が切磋琢磨し、成長し、全体を牽引するほかには、衰退トレンドを反転させる道がないことを肝に銘じるべきだ。

2023年の統一地方選では、日本維新の会が躍進した。かつては(メガリージョンの母体となる)道州制の実現を政策の中心に掲げていたまでは、維新の会は良かった。大阪都構想でつまずいてから維新の会は後退してしまった。

問題は、メガリージョンを成長させる知恵が地方にないことだ。

日本に繁栄をもたらした工業化社会では、過去の経験の中に答えがあった。たとえばエチレンのプラントをつくるとき、パイロットプラントをつくった経験があれば次に20トンのプラントをつくりやすいし、20トンの経験があれば100トンも難しくない。工業化社会で成長するには、先を行く経験者が持つ答えを再現すればよく、日本はそれが得意だった。万博やIRは、プラントの延長線上の発想である。

しかし、現代は答えのない時代だ。答えがある間接業務は、コンピュータが人間以上に速く正確に処理してくれる。人間が取り組まなくてはいけないのは、答えが用意されていない問題に向き合い、答えを見つける作業である。

社会から求められる能力が変わったのに、日本はいまだ答えが用意されている問題を解く教育しかしていない。答えがある問題は、答えを暗記すると点数を取れる。しかし、記憶力でコンピュータにはかなわない。にもかかわらず、日本の教育システムはコンピュータに勝てない人材をせっせとつくり続けている。そんな有様では、私が「第四の波」と呼ぶサイバー&AI革命の時代を勝ち抜けるわけがない。

万博やIRのような20世紀の古い考え方を続ける限り、日本の凋落は止まらない。現在の維新の会が躍進する限りは軌道修正が難しい。日本の凋落の問題は根深い。

※この記事は、『プレジデント』誌 2023年6月30日号 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。